39話 交錯する思い2-人と屏風は直には立たず-

約束の夏祭りの日、永遠とわしゅう眞白ましろの3人はつばめヶ丘がおか神社の入口で待ち合わせをしていた。すでに多くの人が参道に詰めかけ、屋台の食べ物や金魚すくい、射的などを楽しんでいる。先に到着した永遠と柊はスマートフォンをいじりながら眞白を待っていた。浴衣の人間が多いが、2人は任務に備えてそれぞれ柊が私服、補講帰りの永遠が制服だ。

「やっとなまった体が戻ってきた・・・。来週からは任務に戻れると思う」

永遠はぐったりした様子で柊に伝えた。

「大丈夫?なんか疲れてるけど・・・」

「補講とトレーニングの両方をみっちりやってるからな」

「だから言ったじゃない・・・中間と期末で赤点5教科取ると補講で夏休みなくなるから気をつけてねって」

柊はあきれた様子で言った。

「トドメを刺しに行くなよ・・・」

「補講って確か8月12日までじゃない?夏休みの宿題大丈夫?」

柊の言葉に、永遠はぎくりと肩を震わせた。

「ただでさえ宿題の量が多いのに、任務につきながら2週間ちょっとで終わらせられる?」

「悪ぃけど答え写させて・・・」

「写したら意味ないじゃない。休み明けに宿題の範囲で復習テストあるでしょ?」

「そん時はまた考える」

「また補講にならないでよ・・・」

「分かってるって・・・あと、今日も雷刀らいとう持って来てんだよな?」

「当たり前じゃない。場所的に怨霊おんりょうが出ないとも限らないし・・・」

柊は首元から首飾りを引き出した。首飾りには水晶が取り付けられている。

「ここに入ってんのか?」

永遠の言葉に柊がうなずいた。

入江いりえさんに相談したらこれが良いんじゃないかって話になって。入江さんは巻物に召喚しょうかんの術を施してるみたいなんだけど、巻物だと常に携帯するのは難しいから・・・生気せいきは結構使うんだけど、今の私なら耐えられるんじゃないかって」

「近距離型は生気を消費しやすいんだよな?」

「そう。怨霊に生気を吸い取られるのもある。近距離型は纏わせる生気の密度が武器の切れ味を左右するから、一撃に対する消耗が大きいの」

「え・・・そうなのか?!知らなかった・・・」

「永遠は感覚型だからね」

「芝山さんが、『柊は生気の量が多くない方じゃない』って言ってたような・・・」

「――”今の私”なら大丈夫」

心配する永遠に対して、柊は自信に満ちた様子で答えた。

「・・・成長期って意味で?」

「・・・違うけどその解釈で良いよ」と、柊はあきらめた様子でつぶやいた。

「2人ともお待たせ!」

紺色のしま柄の浴衣を身にまとった眞白が永遠と柊の元に駆け寄ってきた。

「眞白、塾の夏期講習お疲れ様」

柊が眞白に声をかけた。

「ごめん、久しぶりに浴衣着たら苦戦しちゃって・・・あれ?2人は浴衣じゃないんだね」

「浴衣だと動きにくいから普段着だけど・・・」

そう言う柊は白いTシャツにショート丈のデニムパンツ、足元はスニーカーという動きやすい服装をしている。右腕には最近バレーボールでの愛用者が多いアームカバーを付けている。

「俺は補講だったから、そのまま制服で来た」

「永遠も大変だね・・・永遠に会うのは久しぶりだけど、しばらく見ないうちにまた身長伸びたね。もう柊より大きいんじゃない?」

眞白の言葉に、永遠と柊の2人は顔を見合わせた。

「そう言えばそうだな。最近バイトもすれ違いであんまり会ってないからわかんなかった」

「4月の時点では私の方が数cm高かったのに・・・」

柊はあからさまに嫌な顔をした。

「すげー嫌そうな顔するじゃんか」

「まぁ、成長期だからね。永遠、良かったね」

眞白は柊と永遠の仲裁に入った。

「それにしても・・・いつも夏祭りの時はみんな浴衣だったから、てっきり浴衣だと思ってたから服装指定しなかったな。まぁ仕方ないね。来年の楽しみにとっておくよ」

眞白は残念そうに呟いた。

「とりあえず3人揃ったことだし、行くか。眞白が一番身長高いし、目印になるから先頭歩けよ」

「目印って・・・良いよ、分かった」

眞白は苦笑しながらも、永遠の提案に応じて歩き出した。

「3年前に来た時ははぐれちゃったから、先にベンチを確保しようか。確か盆踊り会場に休息スペースが設置されているはずだよ」

「じゃあ、そこに行くか」

「それで良いと思う」と言いながら柊が頷いた。

「柊、先歩けよ」

「私一番後ろで良いけど」と柊は反論したものの、「柊は突然走り出すから一番後ろにする訳ねぇだろ。遠足の時だって、柊が急に森に向かって走り出したからこっちは驚いたんだぞ」と永遠は一刀両断した。参道には所狭しと屋台が並んでおり、進むのもなかなか苦労する状況だった。

「2人とも気をつけて」と、先頭の眞白が後ろを気にしながら声をかけた。

「あぁ、俺は大丈夫。柊も気をつけろよ」

永遠は気を遣ったが、柊本人は黙々と歩いている。

(え?なんで無視?俺、柊を怒らせるようなことなんかしたか?・・・いや、違う。これは、人が多い場所だから、怨霊がいないかどうか神経を張り巡らせてるのか。まぁ、夜の神社なんて何か出てもおかしくねぇしな・・・)

永遠は柊から反応をもらえなかったものの、気を取り直してそのまま歩き続けた。参道を抜けた先には盆踊りの会場があり、踊り櫓の太鼓を囲みながら老若男女が楽しそうに踊っている。傍らには休憩スペースが設置されていて、家族連れや中高生が屋台で買ったものを食べている。3人は空いているベンチを見つけると腰をかけた。

「ベンチで並んでっていうのも久しぶりだね」と、眞白が嬉しそうに言った。

「仕方ねぇだろ。裏山のベンチは夏は暑すぎるしな」

「私と永遠が代わる代わる怪我してたしね」と、柊がぽつりと呟いた。

「柊、余計なこというなよ・・・!」

「そうは言っても事実じゃない」

永遠が制止したものの、柊はひるむことなく言い切った。

――ブー・・・ブー・・・。

永遠と柊のスマートフォンがそれぞれ振動し、2人は内容を確認した。

駒葉こまば市内で怨霊出現の可能性、現在調査中】

永遠と柊は顔を見合わせた。




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