64話 兄と弟1-蟻の思いも天に届く-
「ご無事ですか?」
「・・・大丈夫よ、ありがとう」
柊が微笑むと、澪はすぐさま柊に耳打ちした。柊は澪の言葉に小さく
「念のため柊さんは俺が東雲医院に連れていきます。
「うん、俺は心配いらないけど・・・ごめん、
「璃玖さんが気に病むことじゃないわ。私がそうしたかったんだから」
(なんだ?柊のやつ、やたらご機嫌だな・・・)
永遠は柊の表情を見て違和感を抱いていた。
ここで澪はスマートフォンを取り出して通話を始めた。
「――
「橘さん、入江さんとここの後処理をお願いできますか?俺は入江さんが到着次第、東雲医院に向かいます」
「了解っす」
「永遠、悪いわね」
柊が申し訳なさそうに永遠に頭を下げた。
「大丈夫だからしっかり直せよ」
永遠の言葉に頷くと、柊は澪に連れられてその場を離れた。永遠は何気なく璃玖の右腕に視線を移すと、璃玖と視線がぶつかった。
「お前・・・力を使ったのか?」
「あぁ、やむを得ずね。
「そうか、今日助けたのは罪悪感からってことか?」
永遠の鋭い眼光が璃玖に飛んだ。
「言ったでしょ。俺は
璃玖の言い分を聞いた
「お兄ちゃん・・・?!なんでそんなこと言うの・・・?!夏祭りの時だって、澪くんと永遠くんが助けてくれなかったら僕もママも大変なことになってたかも知れないんだよ・・・!さっきだって柊ちゃんが助けてくれたんでしょう?!どうしてそんなひどい言い方するの?!」
「蒼空・・・それには深い訳がーー」
「柊ちゃんと澪くんはその後もずっと僕を支えてくれてたんだ!怪我をして包帯をしている時も、真っ青な顔で目の下にクマを作っている時もあった。それでも僕を守ってくれてたんだよ?お兄ちゃんは自分さえ良ければ良いと思ってるんでしょう?!」
そこまで言うと、蒼空は永遠の足にしがみついた。
「お兄ちゃんなんて大っ嫌い・・・!僕、今日はお家に帰らない!」
「おい、蒼空・・・!」
「蒼空・・・待てって」
璃玖はショックを隠しきれず、真っ青な顔で
「蒼空、今日母ちゃんは夜勤なんだろ?このまま2人を家に帰すのも危ないし、今日はお前ら2人とも本部に泊まれば?多分澪さんと柊は東雲医院に泊まるだろうし、冴木さんは夜任務があるから俺が警護につく・・・それで良いだろ」
「良いけど、お兄ちゃんと同じ部屋には泊まらないからね」
「・・・じゃあ、蒼空は俺と一緒に寝よう・・・お前もそれで良いな?」
璃玖は嫌そうな顔をしながらも、渋々永遠の言葉に頷いた。
*
都営団地の入口に黒いバンが到着すると、運転席から黒い正服に身を包んだ
「澪くん、遅くなってごめんね〜!渋滞にはまっちゃってさ」
「そんなことありませんよ、早い到着で助かりました」
入江のテンションの高さに苦笑しつつ、澪が入江に一礼した。
「もうっ、柊ちゃんったら無理しちゃうんだから。心配で俺の胃に穴が開いちゃうから程々にねっ☆」
「すみません、気を付けます」
「・・・ん?」
入江が柊の反応に首を傾げた。
「入江さん、どうかされましたか?」
「澪くん、自分一人で請け負うなら上手く隠さないと。みんな心配しちゃうからね?」
そう言う入江の口元は笑っているが目は笑っていない。澪は柊を自分の背後に隠して笑みを作った。
「すみません。彼女にも伝えておきます」
「・・・分かったよ。じゃあ、後はよろしくね」
入江は表情を崩さない澪に柊を託すと、団地の中に入っていった。澪は入江の背中を見届けてから、助手席を開けて柊に乗るように促した。
ーーバタン
車のドアを閉めた澪は小さく息を吐いた。
「・・・入江さんは完全に気づいていましたね。それに
「あれは私だけじゃなくて角端の所為でもあるでしょう?」
「ええ、それはそうなんですが・・・
そう言うと澪は腕を伸ばして澄義にシートベルトをつけた。
「あら、ありがとう・・・それにしても久しぶりね。前世ぶりじゃない?」
「
澪が心配そうに尋ねると、澄義は心配いらないといった感じの微笑みを浮かべた。澄義は柊の守護獣であり、第二解放によって柊が深く眠った時に現れる。その笑みは柊が見せるものとは異なり、
「・・・安心して。寿命を縮めるような無茶はしていないわ。明日にでも戻れるでしょう。でも、いきなり最大限の力を解放して雷針を使ったから、辛うじて歩けてはいるけれど、足は数日使い物にならないかも知れないわ。第二解放は術の再現度が高いから、足に雷撃を
「前世では
「前世くらい歳がいっていれば、この程度で痺れが来ることはなかったでしょう。器が幼いから仕方ないけれど・・・角端、あの邪悪な炎を宿した怨霊は強力よ。緑の炎であれなんだから、いくら第二解放を使っても柊一人では対処が難しくなるのは目に見えているわ」
「・・・分かっています」
分かりきったことを言われているためか、澪は
「ところで、あなたが前世で第二解放を会得したと聞いたけど、
「それが・・・
「え?千年も魂を共にしていたんじゃないの・・・?
澪は内心穏やかではなかったものの、静かに車のキーを回してエンジンをかけた。
「
「気を悪くしていたらごめんなさいね、角端って何でもそつなくこなすのかと思っていたから・・・」
「そう見せているだけですよ・・・俺は全然器用じゃない。柊さんが想像している何倍も鍛錬を積んで、辛うじてついていっているんです」
澄義は澪の言葉を聞いてくすりと笑った。
「アナタと來智は似たもの同士なのかも知れないわね・・・」
「あの、からかわないでくださいよ・・・」
「大丈夫、來智は悪い子じゃないわ。でも、早く見つけないと危険が及ぶかも知れないわね」
「・・・
そう言って澪は真っ直ぐ澄義を見つめた。
「そうしてあげて・・・積もる話もあるけれど、そろそろ柊の体を休めるわ。後はお願いできる?」
「もちろんです」
澪の言葉を聞いた澄義は安心した様子で瞳を閉じた。
(早く見つけないと・・・)
澪がアクセルを踏み、車は走り出した。
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