65話 兄と弟2-蟻の思いも天に届く-
永遠は璃玖と蒼空に定食屋を営む父親直伝のオムライスを振る舞った。蒼空は「こんなにお美味しいオムライスは初めて」と笑顔だったが、璃玖は何も言わずに完食した。その後同じ食卓についたが、蒼空は永遠にずっと話しかけ続け、璃玖と会話することはなかった。
小学生の蒼空を1人部屋に泊まらせるのは少々不安だったため、永遠と蒼空で1室、璃玖で1室使用することになった。大はしゃぎだった蒼空が寝静まるのを待ってから、永遠はシェアハウスのリビングに足を踏み入れると、そこにはソファに腰をかける璃玖がいた。
「もう日付変わったぞ・・・明日も勉強するんだろ、受験生」
「明日は9:00から塾だけど、別に大丈夫だよ。ショートスリーパーだから4時間寝れれば十分――」
「それって、寝れねぇだけじゃなくて?」
永遠が問いかけると、璃玖は目を見開いた。
「・・・どうしてそう思うの?」
「蒼空を守らなきゃって気を張ってるんだろう?・・・俺が起きてるから、お前は寝てていいぞ」
「そういうところだけ勘が鋭いの止めてくれない?」
永遠の言葉を聞いて、璃玖は不機嫌な顔をした。
「ってことは図星か」
「どうだって良いでしょ」
「・・・なぁ、蒼空は昔からあんななのか?」
「あんなって?」
永遠は首を傾げる璃玖のことを神妙な面持ちで見つめた。
「昔から
「・・・あぁ、それのこと。俺達の父親は芝山家の出身なんだよ。もう死んでるけど」
その言葉を聞いて、永遠はキョトンとした。
「ん?じゃあ
「五大神官一族の芝山家だよ。あんたのところの本部長もその家の出身でしょ?」
「は??!」
永遠は思わず大きな声を出した。
「夜中にうるさいな」
「え?芝山さん家って神官の一族なのか?!」
「あの人も才能ある神官だったよ・・・今は”元”だけどね」
「”元”・・・?」
察しの悪い永遠に対し、璃玖は大きなため息をついた。
「・・・実家とも離縁されて神官の力を失ったって聞いてる。でも、後は本人の口から直接聞きなよ。俺も人伝に聞いた話だし、勝手に話すのは気が引ける」
「それは・・・そうだな」
永遠は戸惑いを隠せない様子で璃玖の隣に腰を下ろした。
「で、話を戻すけど・・・死んだ父親は神術の才能がなくて、実家を離れてた。普通に会社員してて入院した時に看護師だった母さんに
「お前達の母ちゃんは一般人だろ。蒼空に護衛もつけないで怨霊から襲われずに済むはずがない。お前はずっと家族のことを守ってたのか・・・」
「まぁね。でも、俺が熱出して寝込んでる間に母さんと蒼空がつばめヶ丘の夏祭りに出かけちゃったのは誤算だったよ・・・おかげであんたらに見つかったし、母さんは病院に搬送された」
璃玖は表情を隠すように手で顔を覆った。
「どっちみち限界だったんじゃねぇか・・・一人で蒼空を守るのは」
「うるさいな・・・そんなこと分かってるよ」
「お前、なんで五麟としての使命を全うするのが嫌なんだ?」
永遠はずっと気になっていたことを尋ねると、璃玖の表情が一気に険しくなった。
「むしろキミ達、前世であんなことがあったのによく五麟として生きていく気になれるね・・・あぁ、炎駒は記憶がないんだった」
「記憶がなくても、太陽の
肩をすくめる璃玖に対し、永遠はイラつきながら言った。
「それは”史実”としてでしょう?実際に自分が見聞きした記憶とは訳が違うよ・・・俺はもうあんな思いしたくない。せっかく生まれ変わったんだし、好きにさせてもらうよ」
「・・・そうか。邪魔して悪かったな。部屋にいるから何かあったら呼べよ」
永遠は小さく息を吐いてリビングを後にした。ドアが閉まる音を確かめると、璃玖はソファに寝転んだ。
――『私達は宿命を持って
(
璃玖はソファに横になり、体を小さく埋めた。
*
都営団地での怨霊襲撃の翌日、永遠は気分転換できるようにと蒼空を連れて都立
永遠と蒼空の2人はゾウ舎の前に設置されたベンチに腰をかけていた。ベンチは木の下に設置されているとはいえ、座っているだけで汗が滴ってくる暑さだ。永遠が寝不足で頻繁にあくびをしている横で、蒼空はゾウをじっと観察しながらスケッチをしている。
「蒼空は絵を描くのが好きなのか?」
「絵も好きだけど、動物を観察するのが好きなんだ!」
「そっか。まぁ気持ちは分かるよ。色んなヤツがいるし、動物って見てて飽きねぇよな」
「ねぇ、永遠くん。今日はお家に帰っちゃうの?」
「え?どうすっかな・・・柊はまだ病院っぽいし、澪さんはそっち行きそうだよな・・・冴木さんはいると思うけど」
永遠はスマートフォンの画面に視線を落とした。
【蒼空を駒葉自然文化園に連れて来てるからお前も来い。早く仲直りしろよ】という永遠のメッセージに対して、【分かった。塾も終わったしこれから向かうよ】と璃玖から返信が来ていた。
(ふう、ひとまずあいつも来そうだな・・・)
「僕、お家に帰りたくない」
蒼空はスケッチしていた手を止めると、
「・・・まだ夏休みだろ。お前の好きにすれば良いんじゃね?」
「――あ!黛じゃん!」
声のする方に視線を向けると、小学生4人がこちらを見ている。その姿を見て、蒼空が永遠の体に隠れるように縮こまった。
「誰?黛って」
小学生4人組の1人・眼鏡の少年が首を傾げた。
「お前はクラス違うもんな!あいつ、いつも1人でいるんだよ。昼間っからお化けが見えるんだってさ!」
リーダー格の少年がそう叫びながらジロジロと
「えー何それ?」
「お化けなんかいるわけねーじゃん!そんな
そう言うと眼鏡の少年を除く3人の少年がゲラゲラと笑っている。
「あいつら――!」
永遠が立ち上がろうとしたが、蒼空が永遠の左腕を
「良いんだよ、永遠くん。気にしないで」
「蒼空・・・」
「あいつ嘘つきだから相手なんかしない方がいいぜ!」
捨て台詞を吐くと、小学生4人組は永遠達から離れていった。眼鏡の少年は後ろ髪を引かれている様子だったが、3人の少年に続いた。
「大丈夫か?」
永遠は心配そうに蒼空の顔を
「大丈夫だよ。いつものことだから」
「このこと、
永遠が優しく問いかけると、蒼空は首を横に振った。
「たぶん知らない。僕が”視える”のは知ってるけど、お兄ちゃんは気づかないフリをしているんだ。だから僕も言ってない」
「そっか・・・」
「僕、ずっと友達できないのかな・・・いや、永遠くんや
蒼空は上手く言葉に出来なくてまごついている。その様子を見た永遠はふっと笑った。
「大丈夫。いつかお前にもかけがえのない友達ができるよ」
「永遠くん、なんでそんなに自信満々なの?だって”視える”ってみんなからしたら信じられないでしょ?」
「信じられないだろうけど、お前は嘘ついてるわけじゃないんだから堂々としていりゃいいんだよ。弱気でいたらナメられるぞ・・・いつかきっとお前のことを理解してくれるヤツが現れる。その時までの辛抱だな。俺もそうだったから」
「え・・・本当に?」
目を丸くしている蒼空を見て、永遠は幼い頃の自分を思い出していた。
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