30話 試される覚悟4-疾風に勁草を知る-
創立100周年記念祭が開催されている
その頃
『
無線機から芝山の怒号が飛んでくる。
「待っているだけなんてできません!約束したのに、永遠にもしものことがあったりしたら・・・!」
『それならもう――』
ここで別館の入口にいる入江を見つけると、柊は「入江さん!」と声を掛けた。
東櫻大学から少し離れたところで密かに待機していた
「あ!これはこれは
「永遠がどこにいるかわかりますか・・・!?」
「あぁ、屋上で怨霊と遭遇したっぽいね――」
(屋上か・・・!)
柊は入江の言葉を最後まで聞かず、屋上までの階段を駆け上がった。
「永遠!」
別館の屋上に到着した柊が目撃したのは、叫び続ける男2名と仰向けに倒れる永遠、そして永遠に回復術を施している
「澪さん、なんか雰囲気が・・・」
澪の纏う空気を警戒して、柊は身構えた。
「警戒しなくて大丈夫ですよ、索冥。俺が誰か分かりませんか?記憶・・・お持ちなんですよね」
「え・・・?
柊は澪の目を見て、思わず言葉を失った。吸い込まれそうな、
「俺が
澪は藍色の瞳を細めた。
「俺が
「そうだったんですね・・・」
柊はなんと声をかけたら良いか分からず、言葉を詰まらせた。
「本館にいる芝山さんを呼びに行く途中、ホールに向かっていた神官と遭遇しました。その神官と
「ありがとうございます。澪さんがいてくださって助かりました・・・」
柊は小さく息をついた。
「――神官については対処しておきました。兄が差し向けた下級の神官だったみたいで、今は悪夢を見ています。後ほど警察に引き渡しましょう」
そう言い終えると、澪は柊に対して
「澪さん?!止めてください!」
「索冥、俺は前世の記憶を持ってもう一度生を
「澪さん、気になさらないでください。全ては過去の記憶なんです・・・でもそう思っても、記憶を持っていたら伝えずには、行動せずにはいられませんよね。気持ちは痛いほど分かります・・・だからこそ、私はあなたに会いたくなかった。角端の末路については
柊は心痛で顔を歪ませた。
「・・・今の俺のことを角端ではなく澪さんと呼ぶのは、自分に言い聞かせているからですか?俺はあくまでも角端の記憶を持つだけの、ただの
「それは・・・」
澪の言葉に心当たりがあったのか、柊はそれ以上何も言わなかった。
「索冥、俺をもう一度貴女のそばに置いてください」
「私たちが仕えるべきは主でしょう?」
「・・・角端にとって主は遠い存在ですから。主が亡くなった時の角端の年齢を覚えておいでですか?
澪は困ったような笑みを浮かべたが、少し悔しさを含んだその表情を柊は前世で何度も目にしていた。
「私は自分が転生していると分かった時、角端が現れなければ良いと思ったんです。もうあんな苦しい思いはさせたくなくて・・・」
「前世の俺は貴女のその背中にずっと守られていた。でもようやく貴女と対等に・・・一緒に戦えるんです。お願いします。私を貴女の目的のために使ってください。貴女も俺がそばにいた方が動きやすいでしょう?」
「利用しろと?」
「そうです。今はそれで構いません」
「・・・意地悪な人ですね。大切に守っていた存在を利用することなど、できるはずがないのに・・・分かりました。そういうことにしておきましょう。だから、貴方も自分の目的のために私を利用してください」
「ありがとうございます。・・・あと一つお願いしても良いですか?」
「・・・私にできることでしたら」
「貴女のことを"柊さん"とお呼びしても良いでしょうか」
「・・・好きになさってください」
「ありがとうございます」
澪は嬉しそうに微笑んだ。
「澪さん、悠長に話している場合ではありませんでしたね。人が来る前に後始末をしないと」
「心配には及びません。柊さんが来た後、術を発動しました。屋上への階段が見えなくなりましたから、一般人が来ることはありませんよ。芝山さんには連絡を入れています。まもなく到着するはずです」
「ありがとうございます。相変わらず仕事が早いですね」
「俺の目標は貴女の負担を少しでも軽くすることですから」
「あなたは過保護すぎるんです・・・」
柊はどう受け取ったら良いか分からず、困惑した表情をした。
「茅野!鷲尾!」
芝山がその場に駆けつけた。
「全く茅野は!人の話は最後まで聞け!」
「本部長、澪さんが・・・」
「それなら先程聞いている。お前と同様に前世の記憶を持っていることもな」
「先輩〜!やっと追いついた!本当に足が速いんだから!」
「佐奈田、遅かったな」
警視庁
「これでも追いつこうとしましたけど、入れなかったんですって!あ、先輩の部下の皆さんこんにちは!犯人確保の協力ありがとうございました!落ち着いたら、事情聴取させてください。とりあえず、この人たちを近くの署に連れていくので!」
佐奈田はそう言うと、襲撃犯の神官2人を連行していった。
「下の規制線は張り終えて、入江を車で待たせている。これから橘を連れて行くからすまないが、茅野は記念祭が終わるまで警護を頼めるか?」
「分かりました」
「じゃあ、俺も一緒に柊さんと警護をします」
「鷲尾すまない。頼めるか?」
「もちろんです」
「では、頼む」
芝山は到着した佐奈田の部下に手伝ってもらいながら、永遠を運んでいった。
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