58話 涙ぼくろと邪悪な炎1-情けに刃向かう刃なし-
「ここは・・・」
「
冴木に声をかけられて永遠は頷いた。
「俺は大丈夫です・・・これは、神官が作り出す異空間すか・・・?」
「あぁ、怨霊の裏に神官がいるのは間違いない・・・怨霊は結界を張れないからね。
戸惑っている永遠とは裏腹に冴木は冷静に答えた。辺りを見渡すと制服に身を包んだ小柄な少年が1人見える。
「冴木さん、あれ・・・!」
「この空間に一緒に引きずり込まれてしまったようだね」
永遠達は急いで少年の元へ駆け寄った。少年はオープンキャンパスで駒葉高校にやって来た中学生だった。
「君、大丈夫かい?」
冴木が声を掛けたが、少年は身を屈めたまま顔を上げようとしない。
「大丈夫!俺達が守るから」と言うと、永遠は少年の肩にそっと触れた。
「敵は・・・」
「あれだね」
冴木が視線を向けた先にいたのは、黄色の炎を宿した大鹿だった。
――『怨霊は炎の色で強さを判別できます。黄・
「黄色の炎って、一番弱い怨霊はずじゃ・・・なのに昼間っから出現するなんて・・・?!」
「橘くん、鹿の角を見てくれ!あそこからどす黒い炎を身に
永遠は今までの怨霊とは違うただならぬものを感じて身震いした。
「・・・オ前ラ、
怨霊は永遠の方を見ながら話した。
「怨霊が
「言葉を話す怨霊なんて聞いたことないが、悠長なことも言ってられない・・・!黄色の炎の怨霊だからといって甘く見ない方が良さそうだ!橘くん、行こう!!」
永遠は
「古の火の力よ、我、
「古の樹の力よ、我、
「
「
永遠の手には大槍の朱槍が、冴木の手には
「冴木さん、いつの間に武器を手に入れたんすか・・・!?」
「どんな空間でも発現しやすいように、任務で助けた神社の神主さんが神楽鈴にしてくれたんだ。これで少しは発現のスピードを高められるはずだよ」
「え?!受験生ですよね・・・!?いつ訓練してるんすか?!」と永遠がぎょっとした声を上げると、「僕だってみんなに負けてられないからね」と冴木は不敵に笑った。
「冴木さん、俺が行くんでフォローお願いできますか。その人のことをお願いしたいっす」
「分かった。気をつけてくれ」
永遠が身構えたのを確認して、冴木は神楽鈴を2回鳴らした。
「
冴木が言霊を発動すると、地中から茨が飛び出してきた。しかし、大鹿は軽快に
(速い・・・!)
――ドゴン!
「五麟ハ危険ダ・・・抹殺シナケレバナラナイ!」
永遠は大鹿の突進を正面から受ける形になった。受け身はとっていたものの、身体がふわり空を舞う。
「危ない!!」
冴木の言葉にはっとした時には大鹿の角が目の前にあった。
(やば・・・!)
――バシィ!!!
永遠は大鹿にはたき落とされた。大きな音と共に
「橘くん!!」
「大丈夫っす・・・!」
永遠が朱槍を
――ドゥン!!
永遠の動きが一瞬止まった瞬間、永遠の左腕を光の刃がかすめていった。後方から爆風が吹き荒れる。
「惜シイ。後少シダッタノニ」
大鹿は攻撃の手を緩め、永遠の様子を
「なんだ今の・・・?!」
「橘くん、大丈夫かい?!」
「俺は大丈夫っすけど、今の光線って神術じゃ――」
そこまで言いかけると、次の攻撃を察知して朱槍を振り上げた。
「
――ドカァァァァン!!
永遠が出現させた火の柱と怨霊が発した光線が衝突して大きな爆発を引き起こした。大鹿は爆発を回避するため、後方に身を引いてじっとしている。冴木はすかさず攻撃を繰り出した。
「
竹が一気に地面から飛び出し大鹿を突き刺そうとするが、その攻撃は怨霊をすり抜けてしまった。
「まさか――?!」
冴木が動揺している隙に大鹿は一気に間合いを詰めた。そして「オ前ノ攻撃ハ効カナイヨ」と
――ドゴン!
「冴木さん!!」
冴木はバットに当たったボールのように数十メートル先までふっ飛ばされた。
「
怨霊が冴木を追撃しようとしたところで、永遠は炎の渦を作り出し怨霊の動きを封じた。その隙に冴木に駆け寄って状況を確かめる。
「冴木さん、大丈夫っすか?」
「橘くんすまない・・・僕の攻撃はあの怨霊に当たらないようだ。考えたくもないが、中に神官が取り込まれている可能性がある」
(本当に取り込まれているとしたら、その神官は生きてるんだろうか・・・?出来れば助けたい。でも・・・一瞬の隙が命取りになる。なんせ未知の相手と戦っているんだ。手加減はできねぇ・・・!)
永遠は頬を伝う汗と血を
「・・・良い感じに頭が冴えてきました。神官の力を使って戦う怨霊ってことすね・・・?冴木さん、お願いがあるんすけど」
「――なんだい?」
「アイツを俺のところに誘導してくれませんか?攻撃を当てられなくても、幻術をかければアイツは混乱するはずです。なるべく角度を付けながら、余裕がない状態で突っ込んで来てもらえると助かります」
「わかった!」
「鹿の視野は広すぎるからこそ、見える映像に混乱するはずです。アイツが突っ込んで来たところで最大火力をぶつけます」
永遠に目配せを送ると、冴木は神楽鈴をリーンリーンと2回鳴らした。すると冴木の足元に陣が形成され、地面から一斉に木々が飛び出した。
「
大鹿はすんでのところで冴木が次々に出現させる木々を躱しながら進んでいく。その様子を眺めながら、永遠は朱槍を構えて集中力を高めた。
「行くぞ・・・
永遠の言霊で、大鹿の何倍もの炎が膨れ上がっていく。
永遠は大鹿が目の前に到着した瞬間に、間髪を入れずに朱槍を振り下ろした。
――ザンッ!!!
「グオォォォォ!!」
大鹿は叫び声を上げているが、なかなか浄化されない。
そして炎を体内に吸い込み大鹿の体が膨張すると、膨らみ過ぎた風船のような状態になった。
(なんだ・・・?まさか・・・!)
――ドカァァァン!!!
永遠が身構えた瞬間に大鹿が大爆発を起こした。
「――
(え・・・?)
永遠が恐る恐る目を開けると、目の前には土壁が出現していた。
(なんだこれ・・・?いったい誰がこんなことを――)
永遠が混乱していると、「はあ」と背後からため息が聞こえた。
「詰めが甘すぎ・・・あんたら本当に五麟?こっちは使う気なかったのにさ」
制服をパンパンとはたきながら、少年が立ち上がった。永遠よりも10cmほど身長の低い小柄な少年で、左の目元には涙ぼくろがある。そして、右の
「炎駒に聳弧か・・・本当は会いたくなかったんだけど」
そう言いながら少年は右手の掌を2人に向けた。
「俺は
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