59話 涙ぼくろと邪悪な炎2-情けに刃向かう刃なし-

駒葉こまば高校での警護の任務についていた永遠とわ冴木さえきは、怨霊おんりょうが作り出した異空間に巻き込まれてしまった少年から麒麟きりんであることを打ち明けられた。

「お前が麒麟・・・?」

「だ・か・ら!そうだって言ってるじゃん!五麟ごりん2人そろえて苦戦するとか何やってんだよ。こんなんでよくやってこれたね」

黛璃玖まゆずみ りくは大きなため息をついて頭をかいている。

「黛くん、君に聞きたいことは色々あるが・・・その前にたちばなくん、ひとまずこの結界から脱出しよう。ここに留まっていても神官の思うツボだ」

「そうっすね」

永遠の了承を得て、冴木は神楽鈴かぐらすずを突き上げた。

――リーン・・・リーン・・・

飛花落葉ひからくよう

神楽鈴を2回鳴らし現れた巨大な根から樹が大きく伸び、結界を突き破った。駒葉高校のグラウンドに戻ってきた時にはすでに日が暮れていて、規制線が張られていた。

「永遠、冴木さん!」

しゅう!」

「2人とも怪我してるみたいだけど大丈夫?」

永遠と冴木の姿を見つけて柊が駆け寄った。

「僕は受け身を取ったから問題ないが橘くんが・・・」

「頭を少し切ったけど、大した事ない」

「何言ってるの、血だらけじゃない・・・!」

索冥さくめい、俺の心配もしてくれない?2人が弱いせいで俺まで危なかったんだからさ」

柊が目線をやると、璃玖が大きく息を吐いていた。

「あなたは・・・?」

「ごめんごめん、先に名乗れば良かった。俺は黛璃玖。璃玖で良いから・・・でも、茅野かやのサンが居てくれて丁度良かった。これで交渉ができる」

「・・・おい、勝手に話を進めんなよ。お前、その様子だと覚醒かくせい済みだろ・・・?なんで今まで出てこなかったんだよ――・・・!」

永遠は怒りで体を震わせながら璃玖に尋ねた。

「お前に話して何になるんだよ?

記憶が空っぽの・・・・・・・炎駒えんくなんて。それにしても残念だよ。炎駒とは唯一分かり合えると思ってたのに」

「はあ?!」

「橘くん、落ち着くんだ」と言いつつ、冴木が永遠を制した。

(なんだこいつ・・・!すっげー腹立つ・・・!)

永遠がこぶしを固く握りしめると、璃玖はその様子を見てニヤニヤしている。

「さて、そろそろ話そっか。1級情報統制官の茅野柊サン?」

本部俺達のことを知って・・・?!」

永遠は驚きの声を上げたが、璃玖は平然と「隠す気があるならもっと気をつけた方が良いよ」と言い放った。

「お前なぁ!」

「永遠、落ち着いて」

柊は左ポケットにつけられていた校章と「3-B」というバッジを食い入るように見つめた。

駒葉七中こまばななちゅうの校章・・・こんなに近くにいると思わなかった」

「茅野サンとも2年被ってるよ。でも全然気づかなかったでしょう?茅野サンは七中じゃ有名人だったもんね。高校でも言われてるの?・・・”茅野柊はのろわれている”って」

――ヒュン

「――騎士ナイトが来ちゃったか」

璃玖がつぶやいた瞬間、首元に刀が突きつけられた。

みおさん!!!」

永遠は驚きのあまり大声で叫んだが、澪は反応を示さない。

「俺に近づく直前まで殺気消すとかどんな芸当?・・・アンタだけは情報が少ないから想定外だった。前世でもほぼ接点ないしね」

刀を突きつけられているものの、璃玖は平然と言い放った。

「麒麟ですね?」

「そっちは角端かくたん・・・じゃない、鷲尾わしのお澪サンか」

「駒葉七中に怨霊の出現が多かったのは、索冥だけではなく麒麟・・・あなたがいたことも影響しているでしょう。なぜあなたは当時の柊さんに手を差し伸べなかったんですか?」

「どうして俺が助けなきゃいけないの。この人は好きで五麟の仕事をやってたんでしょう?」

璃玖がそう言った途端、澪はすさまじい殺気を放った。

「澪さん、刀を下ろしてください」

「ですが・・・柊さん」

「璃玖さんの言う通りです。私は自らの意志でやっていたのですから、彼を責めるのは筋違いです」

柊の言葉を受けて、澪は悔しさをにじませながら刀を下ろした。

「交渉権があるのは茅野サン、あんただけだよ。他は聞くだけだけど良い?」

「それは――・・・!」

「構わないよ、茅野くん。どちらにせよ、僕たちに話させるつもりはないだろうからね」

柊が難色を示したが、冴木はうなずいて承諾した。

「・・・分かりました。あなたの話を伺いましょう」

「じゃあ条件を言うよ。俺はあんた達の情報を突き止めてる。本部のことも、あんた達の素性も。神官や外部に情報を売らない代わりに俺のことをあきらめて欲しい・・・俺は五麟として任務に当たるつもりはない」

「それが条件ですか」

「そうだよ」

はっきりと言い放つ璃玖に対し、柊は一拍空けてから口を開いた。

「・・・私に決定権はありませんので、上層部に報告の上で回答させて頂きます。よろしいですか」

「やけにあっさりだね。俺が麒麟って分かっても全く驚かないし。全部想定の範囲だった?」

「――どういうことでしょう?」

璃玖の言葉に、柊がピクリと反応した。

「茅野サンは麒麟の存在にはずっと気づいていたよね?だけど見過ごし続けていた理由を教えてもらえる?・・・まぁ、想像はつくんだけどさ」

「柊、お前気づいてたのかよ!」

永遠は思わず声が出たが、すぐに両手で口をふさいだ。

まれに麒麟の気配を感じる時はありましたが、あなたが他の五麟を探しているなら気配は辿たどれたはずです。にも関わらず、自らの気配をことごとく消し、私達との接触を避けていた。私も聳弧しょうこも感知能力は高くない・・・こちらの戦力が限られている中で、麒麟あなたを探すのは今ではないと判断しました」

「そう。まぁ、君は自分の能力を犠牲にしてまで、炎駒の記憶を封じていたんだから探さないよね。確かに俺は、索冥きみよりも炎駒を良く知っているしねぇ?」

璃玖が悪びれることなく言うので、永遠にも澪の殺気が増しているのが分かった。2人の間に険悪なムードが流れたが、先に折れたのは璃玖の方だった。

「そういや、角端には借り・・があるんだった。怒らせるとまずいから、もう口をつぐむよ。今後の連絡は茅野サンにさせてもらうから教えて」

そう言って璃玖がスマートフォンを取り出したので、柊もスマートフォンを差し出した。連絡先を交換すると、璃玖は「じゃあまた今度」と言ってその場を離れようとした。

「待ってください。怨霊や神官から命を狙われる可能性もありますし、麒麟の正体が分かった以上このままにしておけません。あなたには警護がつくと思われますが、よろしいですか?」

「警護なんていらないよ。何かあっても自分で対処できる・・・じゃあね」

璃玖は手を振ってその場を後にした。



「4人とも、ご苦労だったな」

入江に現場を引き継いでシェアハウスに戻ってくると、本部長の芝山に出迎えられた。4人とも意気消沈していて、無言で各々テーブルに着いた。

「麒麟の件は聞いている。今後どうするかについてだが、本人が望んでいないとなると無理に引き込む訳にもいかない――茅野と澪が現場に出る前に集まってもらったのは、新種の怨霊の件を共有しておきたかったからだ」

そう言って芝山は4人に書類を見せた。

(これは・・・?!)

永遠は食い入るように書類をのぞき込んだ。



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