22話 新たなる敵2-木に竹を接ぐ-

橘永遠たちばな とわ茅野柊かやの しゅうは中高生連続襲撃事件の目撃者・鷲尾澪わしのお みおから新たな情報を入手した矢先に、澪の兄・兼路かねみちが永遠達の前に姿を現した。

「しかしこの高校、思ったより広いね。おかげで探すのに手間取ってしまったよ・・・おや、そちらにいるのは澪の知り合いの方かな。はじめまして、澪の兄の兼路です。・・・貴女のことは、澪から話を聞いてますよ。ねぇ、茅野柊さん?」

その言葉を聞いた瞬間に柊は雷刀らいとうを発動し、兼路は術を解放した。

――ドンッ!

衝撃音と共に発生した爆風で、永遠は咄嗟とっさに顔を腕で覆った。目を開けた時には見慣れない空間にいた。

「ここは・・・異空間か?」

「茅野さん!」

澪が大きな声で柊を呼んだ。柊を見ると、全身傷だらけで赤い線が至るところに浮かんでいる。

「大丈夫、かすり傷です」

「あぁ、やっぱり貴女は五麟ごりんでしたか。澪を泳がせた甲斐かいがあった」

兼路は口を大きく開けてにんまりと笑った。

「兄さん、どういうことですか・・・?」

「澪に襲撃現場を見せたのはわざとだよ。関係者が澪に接触してくると思っていたから。ただ、澪が一族秘伝の術の情報を教えてしまうのは想定外だった・・・澪は医大生だし、今回の裏切りがなければ一族を説得できたかも知れないのに。おかげで澪を消す予定が早まってしまってね」

「あんた、自分の弟を・・・?!」

永遠は驚きのあまり、顔をひきつらせながら言った。

「元々大学を卒業するまでに澪を抹殺することになっていたんですが、今回の裏切りを一族はどうしても許せなくてね」

「俺は・・・一族から疎まれているのは知ってました。それでも兄さんだけは、俺のことを分かってくれていると思っていたのに・・・」

「それはもちろん。俺は澪の一番の理解者だ。お前を手に掛けることは本意ではないよ。だからこそ澪には残り僅かな人生を謳歌おうかしてほしくてね・・・。ずっと新潟にいれば良いものを、わざわざこっちへ戻って来るなんて・・・弟を手にかけなければいけない俺の気持ちも考えてくれよ。俺はこの先ずっと、いくら優秀とはいえ"弟を殺した冷酷な兄貴"だと思われてしまうんだから」

「兄さんは・・・ひょっとして、出来の悪い弟を始末しなければならない自分のことを哀れだと思ってるんですか・・・?」

「そうだよ」

澪は兼路の言葉に唇をんだ。

「澪さん、こんな奴の言うことなんて聞く必要ありません」

そう力強く告げると、柊は雷刀を構え直した。

「古の火の力よ、我、炎駒えんくと共に闘わん!」

永遠も応戦するため、朱槍しゅそう石突いしづきを構えて、言霊を発動した。朱い大槍が出現すると、兼路は少し目を見開き嬉しそうに笑った。

「あぁ、君が炎駒でしたか。これは好都合です。・・・君はご存知ですか?最後に出現した五麟と、あなた達の主人である太陽のげきが現世でどのように伝わっているか」

「なんだよ?」

「ご存知ないんですね。では教えて差し上げましょう。太陽の覡は千年前に世界を破滅させる陰謀を企み、露見したことで自害したと伝わっています」

「どういう・・・?」

「太陽の覡の従者である五麟はのろわれた従者と呼ばれていたそうですよ。魂の結びつきが強く、太陽の覡の命令には逆らうことができなかったそうですから。炎駒はご自身を怨霊おんりょうを退治する正義の味方のようにお思いかも知れませんが、我々神官からしたら、五麟も太陽の覡も、怨霊と同じくらい危険な存在なんですよ」

王駕雷臨おうがらいりん!!」

柊の刀から雷の斬撃ざんげきが繰り出され、しなりながら兼路に到達した。

――バチィ!!

兼路が神術で防護術を使ったものの、威力が高かったために防護術を突き破り、兼路の頬に傷をつけていた。

「――真っ二つにしたつもりだったんですが」

「これはこれは。索冥を怒らせてしまいましたか。でも、澪も文献を読んでいたのなら知っているでしょう?主人の太陽の覡と従者の五麟が当時の人々にどのように思われていたのか」

「それは・・・」

澪は言葉を詰まらせた。

「五麟も太陽の覡も世界を破滅させようとしていたのか・・・?」

永遠は動揺して構えを解いてしまった。朱槍は永遠の腕にぶらんとぶら下がっている。

「炎駒!しっかりして!」

柊が叫んだが、永遠は反応を示さない。

「可哀想に。炎駒は何も知らなかったんですね。あなたが何も教えてあげないからですよ、索冥。・・・炎駒の始末は後にして、まずは澪を始末してしまいましょうか」

兼路は澪に向かって神術を繰り出そうとしている。柊は咄嗟に澪の前に飛び出した。

含沙射影がんしゃせきえい

――ズバン!

兼路がそう唱えると、黒い光が柊の背中を切り裂いた。柊の背中には三本の傷が浮かび、血しぶきが舞う。

「うっ・・!」

痛みから柊がその場に倒れ込み、澪が駆け寄った。

「茅野さん!しっかりしてください!」

澪は自らが羽織っていた上着を柊の傷口に押さえて止血を行う。そして、「円頓止観えんどんしかん」と言って回復術を施し始めた。

「庇いながらも急所は外しましたか。さすがですね。でもその怪我ではすぐには動けないでしょう」

思いがけず柊を戦闘不能にできたことで、兼路は満足そうな微笑みを浮かべながら言った。

「駄目だ・・・血が・・・止まらない・・・!また貴女を救えないなんて、一体何のための回復術なんだ・・・!」

澪が処置を続ける一方で、永遠はその場に立ちすくんでいた。

(頭が重い、体が動かない・・・柊はもう戦えない。俺が戦わねぇと・・・)

永遠の口から朱槍を発動するための言霊がなかなか出てこない。その様子を見て、兼路はニタリと笑った。

冥土めいどの土産です。貴方たちが探していたものをご覧入れましょう」

そう言うと、兼路は札を2枚取り出した。

陰陰滅滅いんいんめつめつ

兼路が言霊を唱えると、どす黒い霊が2体出現した。

「兄さん、その生霊いきりょうって・・・」

「そうだ。この子たちに中高生を襲わせていたんだよ・・・お前がもう少し優秀であれば、手伝わせたんだけどな」

澪は兼路をにらみつけた。

――『タスケテ』

「え?」

澪は微かに声が聞こえた気がするが、辺りを見回しても姿が見当たらない。

「さぁ、終わりにしましょう」

そう言って兼路が両手を振り下ろすと、生霊2体が柊と澪へ一気に襲いかかってきた。



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