13話 不穏な影1-焦眉の急-
「っつ・・・!」
永遠がいつも通り起き上がろうとすると、左足に痛みが走った。その痛みがきっかけとなり、永遠は徐々に昨日の出来事を思い出した。
(そうだ・・・昨日の遠足で足をひねっちまったんだった・・・)
永遠は足が不自由ながらも、やっとの思いでクローゼットから服を取り出して着替えを済ませた。そして壁と手すりを伝いながら、3階の永遠の部屋から2階のリビングへ移動した。永遠の自宅は1階が定食屋で、2階がリビング・ダイニングと両親の部屋と水回り、3階が永遠と千羽の部屋だ。
「もう、
永遠がリビングのドアノブに手をかけようとしたその時、千羽の
「眞白・・・?!」
千羽と2人仲良く並んでソファに腰掛けている眞白の姿を見て、昨日荷物を渡しに行くというLINEが来ていたことを思い出した。
「永遠、おはよう。朝早くからごめんね?塾の前に荷物を渡そうと思って」
「お兄ちゃんやっと起きた!何度も起こしに行ったのに全然起きないんだから・・・!次起きなかったら、耳元で大声出して起こそうと思ってたの!」
「お前声デカいんだから、それは止めろって・・・」
千羽の言葉に永遠はげんなりした。
「永遠、足の具合はどうなの?」
「あぁ、折れてないって。2週間くらいで治るらしい。朝から面倒かけて悪いな」
「ううん。久しぶりに永遠の家に来れて嬉しいよ」
眞白は笑顔で答えた。
「千羽、もう部活行く時間なところ悪ぃけど、眞白に飲み物出して行ってくれるか」
「あ、そういえばそうだった!お兄ちゃん、今役立たずだもんね♪待ってて、眞白くん!」
「役立たずは言い過ぎだろ・・・」
千羽がテキパキと準備をしている間、眞白は笑いを堪えている。
「眞白、笑うなって・・・」
「ごめん、ごめん。2人のやり取りが懐かしいなって思っちゃって」
「眞白くん、お待たせ!よかったら麦茶飲んで!」
「ありがとう、千羽ちゃん」
眞白はそう言うと千羽から麦茶が入ったグラスを受け取った。
「お兄ちゃん、じゃあ私部活行って来るから!」
「分かったって」
「眞白くん、ゆっくりして行ってね♪」
「ありがとね」
じゃあ!と、言いながら千羽は慌ただしくリビングを出て行った。
「千羽ちゃん、相変わらず元気だね」
「うるさすぎるくらいだけどな」
眞白はリビングの棚に飾られた盾や賞状に目をやった。
「永遠が怪我したタイミングで地域の陸上クラブ入ったんだよね?この盾や賞状もほとんど千羽ちゃんのだって教えてくれたよ。中学では陸上部に入ったんだってね」
「どうやら期待の新人らしくてさ、今は俺よりタイム早いかもだわ」
「それはすごいね。・・・そうだ、これを渡しておかないと」
そう言って眞白は永遠のショルダーバッグを手渡した。
「はい、これ。すごい軽くて驚いたよ」
「遠足で弁当も要らねぇし、荷物なんてほとんどねぇだろ」
「なんか永遠っぽいね。それにしても大事に至らなくて良かった。折れてたら体育祭も出られなかったでしょ」
「確かに・・・そうだな」
「
「あぁ・・・心配かけて悪ぃな」
永遠は歯切れ悪く答えた。
「・・・ねぇ、永遠」
「なんだよ」
「
「いや・・・見間違えだったらしい。けど、”俺が森に入ったって聞いて、柊も慌てて森に入ったら体調悪くなったみたいで”」
――『永遠は
永遠は眞白の言葉を思い出し、右上を見ないように意識して話した。今眞白に話したのは、芝山が決めた”設定”だ。学校側にも裏で根回ししている。永遠が話を合わせれば、問題にはならない。その一方で永遠は、柊には隠すなと約束させたにも関わらず、眞白に隠している自分に罪悪感を感じた。
「そうだったんだね。本当に気をつけてよ」
「・・・悪ぃ」
眞白はスマートフォンで時刻を確認した。
「そろそろ塾に行かないと」
「玄関まで送るわ」
「ちょっとの移動も大変でしょ?大丈夫だよ」
「別にこれくらい・・・」
「いいって」
眞白はリュックサックを肩にかけた。
「――永遠、俺には嘘ついても良いからね」
「は?」
永遠は図星をつかれて、思わず固まってしまった。
「じゃあ、また学校でね」
「おい・・・!」
永遠の制止を聞かず、眞白は
「眞白のやつ、お見通しかよ・・・!」
――ブー・・・ブー・・・。
永遠のスマートフォンに着信が入り、ディスプレイには本部長の芝山の名前が表示されている。
「・・・橘っす」
『芝山だ。今大丈夫か』
「大丈夫っす」
『今、君の自宅の近くに車を停めているんだが、シェアハウスに行けそうか?来客があっただろう?』
「なんで知ってるんすか・・・。近くの駐車場って、商店街の駐車場っすよね?タイミング良過ぎじゃないっすか?」
『部下が優秀なんでな。じゃあ、君の自宅の前まで向かおう。昨日の同じ定食屋の裏手に止めれば良いな?』
「はい、お願いします」
永遠はリビングから一度自分の部屋に戻り、出かける支度をした。そして2階の玄関を出ると、店の裏手に
永遠が慎重に階段を降りきると、見たことのある車が停まっていた。永遠の姿を確認すると、運転席の窓が開いて芝山が顔を出した。
「おはようございます、芝山さん」
「よお、橘くん。怪我はどうだ?」
「まぁ、ぼちぼちです」
「そうか。あまり停められないから乗ってくれるか」
「・・・っす」
永遠は後部座席の扉を開けて車に乗り込んだ。
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