18話 啓示された道3-賽は投げられた-
(誰だ・・・?)
永遠は男の様子を観察した。頭に
「
「こんなところで会うとは思いませんでした。
男は一瞬表情を崩した入江の様子を見て、薄ら笑いを浮かべている。
「誰かと思ったら
入江は口調はいつも通りだが、緊張を
「やはり・・・記憶を持っていますね?」
「それはお互い様でしょう?」
「入江さ――」
「
永遠が言いかけたところで、入江は永遠と千羽を球体に閉じ込める。それと同時に、入江の背後で
「え・・・?」
入江が左肩を斬られてその場で倒れ込む。
「入江さん!!!」
「ははは・・・さすがに痛いよねー・・・」
白虎は自分に飛んだ入江の返り血をなぞって指の腹で拡げ、口の端を吊り上げた。
「致命傷を与えたつもりでしたが・・・急所を外すとはさすがですね」
「入江さん血が!早く止めねぇと!」
「永遠くん・・・落ち着いて。ほら、深呼吸」
「え?こんな時に何言ってんすか・・・?!」
「ほら、早く」
入江の言葉に従い、永遠は大きく息を吸って思い切り吐いた。
「よし、良い子だね。永遠くん、この異空間は俺の意識が切れれば、現実世界に戻る。現実世界に戻れば、
「待ってください・・・!入江さんはどうなるんすか・・・?!」
「あいつの目的は、俺だろうから」
「なんで・・・!?」
「可能性はあると思ってたけど、何の因果だろうね・・・?」
入江は額に脂汗を浮かべながら笑った。
「永遠くん、いいかい・・・俺がどうなろうと、君はそこにいるんだよ」
「え?どういう・・・?」
永遠が飲み込めずにいる間に、入江は立ち上がると一気に巻物を広げた。
「
入江の攻撃に対応すべく、白虎も素早く印を組んだため、両者の攻撃が空中でぶつかり合い、大きな爆発を生んだ。
「うわ!」
異空間を爆風が吹き荒れる中、永遠は思わず目を閉じた。
「うっ・・・」
ゆっくりと目を開けると、そこには見慣れた河川敷が広がっていた。
「ここ・・・
永遠は思い出したように周囲を見渡した。視界には白虎と、河川敷に倒れ込んでいる入江の姿が映った。
「入江さん!!!」
永遠は球体にへばりついた。入江を呼んだが、意識を失っているのか反応がない。
「最後の力を使って、仲間に居場所を伝えましたか・・・まぁ良いでしょう」
白虎は少しずつ入江に近づいていく。
(俺はここで見ているしか出来ないのか・・・?!)
永遠が球体の結界から出たところで、おそらく白虎の攻撃を止めることはできず、千羽を危険に
入江から溢れ出る血が、周囲の河川敷を赤く染めていく。傷の深さ以前に、このままだと失血死になりかねない。
(あれ・・・俺、この光景どこかで・・・)
ここで、永遠の中で記憶がフラッシュバックした。目の前で人が血の海に沈む。そんな光景を初めて目にしたとは思えなかった。
――『守ると約束したのに!!』
頭に残るこの言葉は、誰のものだったのか。
はっと現実に戻ると、白虎が右手から攻撃を繰り出そうとしている。その矛先には意識のない入江がいた。このままでは入江に攻撃が直撃してしまう。
「駄目だ・・・」
永遠の口から言葉が
「やめろぉぉぉぉぉ!!!!」
永遠に白虎の攻撃が当たる直前で、目の前に炎の壁が出現し攻撃を無効化した。
「おや・・・?!」
白虎は驚きで顔を
「入江さんが殺されそうになってるのに、見てるだけなんてできねぇよ・・・!」
永遠は自分の身に何が起きたか分からなかったが、頭に浮かんでくる言葉があった。これに
「
永遠の言葉を合図に炎が出現し、
――『力を発動するとこんな風に一時的に模様が現れるの・・・これは
(そうか・・・これが・・・)
「・・・
「俺が何者かなんて、今はどうでも良い」
「答えてはくれませんか・・・。では、少し相手をしましょうか」
白虎の言葉を受け、永遠が大槍を持ち直して身構えると、白虎は扇子を構えた。
(扇子・・・?)
白虎は永遠の隙を見逃さず、瞬時に間合いを詰めて迫ってくる。
――ガキィィン!!!
「うわっ!」
永遠は咄嗟に槍で応戦したが、白虎の扇子の一振りを受けきれず、河川敷を転がった。
「クソ重てぇ・・・!」
すぐに立ち上がったが、相手も様子を見ているのか追撃はない。
(危ねぇ、間一髪のところで助かった・・・!)
永遠は扇子だと思って油断していたが、白虎が操る扇子は鉄扇だった。軽々振っているが、鉄の塊を振り回しているのと変わらない。
(あれを食らったら痛いじゃすまねぇな・・・)
永遠はなんとか鉄扇の攻撃を交わしつつ、反撃のチャンスを
「思ったより動けますね・・・。これは楽しめそうだ」
それからも白虎の攻撃をギリギリの状態で対応し続けたが、槍を振り回すのは想像以上に体力を消耗した。
(このままじゃ、あれを食らうのも時間の問題だ・・・)
「おや、休憩ですか?それとも仲間を待っているのでしょうか?丁度良いですね。あなたの仲間は後ほど全て亡き者にさせていただきましょう」
白虎は札のようなものを取り出し、一斉に永遠に向かって投げた。札は途中で変形し、全て小刀となって永遠に向かってくる。永遠は間合いを取り、一つ息を吐いた。
「大丈夫・・・”今度”は絶対守るから」
永遠は朱槍の石突を勢い良く地面に打ち付けた。
「
火の鳥が地中から現れて、相手の攻撃を無効化していく。炎の柱が消える瞬間に、中から永遠が白虎の前に飛び出した。そして、握っていた朱槍を白虎に向かって振り下ろす。
――ザンッ
「やっ・・・た・・・?」
白虎に会心の一撃を与えて喜んだのも束の間、白虎は人形の紙に変わっていた。
「なに・・・?」
「私の式神とあなたの攻撃は少々相性が悪いようです。今度は私が直接相手をしましょう。またいずれ・・・」
「待て・・・!」
永遠が周囲を伺ったが、河川敷は静寂が訪れていた。
「いっ・・・?!」
白虎が去った途端、永遠の体は何かが切れたように
(・・・くそ!早く、入江さんと千羽を美鶴先生のところに連れて行かねぇと・・・!!)
その時、河川敷のじゃりじゃりという音がどんどん近づいて来た。永遠は頭を上げようとしたが、その姿を確認することすらままらない。
「永遠!」
「柊・・・」
「永遠、大丈夫?!」と柊が取り乱した様子で永遠を
「柊・・・入江さんと千羽を・・・早く・・・病院に・・・」
そこで永遠の記憶は途切れた。柊は永遠を抱き抱えながら、素早くスマートフォンをタップした。
「・・・芝山さん、急ぎ救援をお願いします。入江さんが負傷しています」
『わかった。俺もすぐに向かう』
「あと・・・炎駒が覚醒しました。今のところ落ち着いているようですが、封印していた記憶の扉が・・・開いてしまうかも知れません・・・」
柊は声を震わせながら、芝山にそう伝えた。
第一章 -邂逅相遇- 完
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