17話 啓示された道2-賽は投げられた-

「何なんすか、シカンって・・・?朱雀すざくの方はゲームとかで聞いたことあるような・・・青龍せいりゅう白虎びゃっこ玄武げんぶとセットのやつっすか?」

教育実習生の入江智大いりえ ちひろ四官しかんの一人”朱雀"の力を継承した神官だと打ち明けられた橘永遠たちばな とわは、疑問に思ったことを尋ねた。

「朱雀に関してはそうだね。四官は代々適性者に継承されてたんだけど、強大な力を危惧きぐした時の権力者が終わらせちゃったんだ。あれは確か、平安時代の終わりだったかな」

「じゃあ、入江さんは誰から力を引き継いだんすか?」

「俺は記憶を思い出しただけなんだよね。だから、新たに儀式を受けた訳じゃないよ」

「俺の聞き間違いじゃなければ、平安時代の記憶があるって言ってるように聞こえるっすけど・・・」

「そうそう。俺、前の朱雀の記憶を持ってるんだよね。千年の前の」

「まさか・・・!入江さんは、平安時代から現代に転生したってことすか?」

「あー、そう言った方がしっくり来るのかな?生まれ変わりねぇ。確かに、朱雀の続きを生きている感覚がしたこともあったなぁ。でも、今はもう馴染んだし入江智大として生きてるけど。ね、柊ちゃん?」

「・・・私にそういう話題を振らないでください。反応に困るから」

茅野柊かやの しゅうは入江から視線をそらした。

「柊ちゃんを困らせちゃったみたい」

「入江さん、さっきから全然話についていけないんすけど・・・」

「永遠くんは心配しなくて大丈夫だよ。とりあえず、俺は本部の人間で、柊ちゃんの協力者って思ってくれれば。ちなみにキャンプ場の後処置したり、永遠くんが初めてシェアハウスに来た日に、君の家の前で張って、芝山さんに情報を伝えてたのは俺ね♪」

「そうだったんすか・・・」

「この人普段へらへらしてるけど、隠密行動は得意だから」

柊が無表情で補足した。

――ブー・・・ブー・・・。

柊のスマートフォンが鳴り、柊が席を立った。

「茅野です。入江さん、永遠と一緒にいるのでスピーカーにします」

柊が画面をタップすると芝山の声が聞こえるようになった。

『入江と一緒だったか、何か誤解を招くようなことにはなっていないか』

「入江さんがいて、すんなり話が進むと思います?茶化してばかりでちっとも進みませんよ」

『橘くん・・・すまない。後ほど補足する。今は緊急の案件だ。駒葉こまば駅付近で怨霊おんりょうが出現した。急ぎ茅野に向かってもらいたい。冴木さえきは別案件対応中で応援に行けない。くれぐれも注意してほしい』

「わかりました」

柊が力強くうなずいた。

『あと、星川ほしかわ商店街で襲撃事件も発生したようだ。こちらはすでに襲撃犯がいなくなった後らしい。後処理のために入江に向かってもらいたい』

「星川商店街って・・・」

柊は永遠の顔を見た。

「俺んちの近くで襲撃・・・?」

星川商店街は500mに渡り商店が連なっており、永遠の親が切り盛りする定食屋もある。

「一旦わかりましたー。おっけーでーす」

入江は手でOKマークを作ったが、柊に「ちょっと緩くないですか・・・」と突っ込まれている。永遠は居ても立っても居られなくなり、柊のスマートフォンを手に取って話し始めた。

「芝山さん、橘です。あの・・・俺も入江さんと一緒に行って良いっすか。星川商店街だと、知り合いが襲撃に遭ってるかも知れない。なんだか胸騒ぎがして・・・」

『橘くんも一緒だったのか。本来であれば、まだ君を現場に連れていくべきではないが・・・まあいいだろう。星川商店街の襲撃については、すでに収束している案件だ。今後のアルバイトの検討材料として、現場でどういうサポートに入って欲しいのか、入江に確認するのが良いだろう』

「ありがとうございます」

「永遠くん、よろしくねっ」

入江は永遠にピースサインをした。その様子を柊が不安そうに見つめながらも、身支度を整えていく。

「芝山さん、私先に出ます。現場の場所を携帯に送ってください・・・永遠、気をつけてね」

「あぁ」と永遠が応えると、柊は永遠に駆け寄って、永遠の左手を両手で握りしめた。

「危険だと感じたら、すぐに逃げてね。入江さんはなんだかんだ強いから、置いて行っても大丈夫」

「柊ちゃん、それは俺への全幅の信頼と受け取って良いのかなー?」

入江が尋ねるが、柊も永遠も反応を示さない。

「――大丈夫だから、心配すんなって」

永遠は不安そうな柊にニカッと笑ってみせた。柊は頷くと握っていた手を解き、先に国語準備室を後にした。

『入江、橘くん、くれぐれも注意してくれ。詳細はこのあと送る』

芝山との通話が終了し、入江はロッカーから黒い制服を取り出した。以前冴木が着ていたものと同様に、左胸にエンブレムが入っている。

「よし!永遠くん、着替えよう。さすがに学生服で行けないから。あ、でも下はブカブカだから上だけで良いか」

入江は永遠よりも頭ひとつ分大きい。ズボンについては文句なかったのだが、永遠が着ると上着もブカブカだったので、何重にもそでをまくった。

「準備できた?じゃあ職員用の駐車場に向かおう。他の生徒にバレないように帽子とマスクしておいてね」

「これは逆に怪しくないっすか・・?」

「良いの、良いの」

永遠は入江に誘導されるがまま、校舎裏の職員用駐車場にやって来た。そして、停めてあった黒いバンの助手席に座った。

「おし、行こうか」

先程までへらへらしていた入江が真剣な表情でエンジンをかける。

「こちら、入江です。これより現場へ向かいます」

入江はタクシーについている無線機のようなもので芝山に連絡を入れると、永遠に声をかけた。

「永遠くん、現場に行った時に、気をつけてほしいことがあるんだけどさ」

「なんすか?」

「・・・被害者が友達や家族、知り合いだったとしても、落ち着いて任務を遂行してね。現場では冷静に、淡々と任務をこなすことが重要なんだ。たとえ冷静じゃなかったとしても、冷静を装うんだよ。心が揺れてしまうと、現場ではそれが怨霊のすきになる。おっけー?」

入江は運転しながら永遠に確認した。

「・・・っす」

「よし!じゃあ、手順を説明するね」

そう言って入江は永遠に後処理の方法について説明した。まとめると、被害者の状況確認、一般人の誘導、現場保存が主な仕事だった。ただし、現場保存については人の命には変えられないので、心がけるくらいで良いとのことだった。

「――よし、着いた。降りよう」

入江の言葉に続いて永遠も車を降りた。現場は星川商店街の駅付近の歩道だった。女子生徒が倒れており、辺りが騒然としている。

「これは目立ちすぎるねぇ・・・さて」

入江はポケットから小さな巻物を取り出し、素早く広げた。

現世うつしよ隠世かくりよを隔てたまえ、活殺自在かっさつじざい

入江が言霊を唱えると、気づいたら女子生徒と入江、永遠だけが異空間にいた。

「ちょっと別の場所に移動したよ。さすがにあそこは目立ちすぎるからね。でも、なんであんな人通りの多いところで騒ぎを起こしたのか・・・相手は見つかることも、辞さないってことなのかな」

入江が女子生徒に近づいて脈を確認する。永遠も恐る恐る顔をのぞき込んだ。

「え・・・・?千羽ちわ・・・?」

「やっぱりそうだよね。顔を見たことがあるなって思ったんだ」

「入江さん!千羽は?!」

「大丈夫。気を失っているだけだよ。ひとまず、千羽ちゃんは俺の転移術で美鶴みつるちゃんの医院に送ろうか。一日に何度も使えないんだけどね」

「入江さん、すごいんすね。怨霊はどうにもできないけど」

「永遠くん、一言余計だよ?俺、傷ついちゃうからね・・・?」

「あ、すんません」

「よし、じゃあやろ――」

――バチィ!!

永遠は音がして初めて、入江が攻撃を防いだことに気づいた。攻撃を防ぐために使用したと思われる巻物が一部焦げて転がっている。

「入江さん!!」

「あれ、おかしいな?この空間は俺が引き込んだもの以外、入って来れないはずなんだけど。君は何者なのかな?」

そう入江が声をかけた先に、1人の男がたたずんでいた。

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