第三章-千変万化-
44話 緻密な計略1-酸いも甘いも噛み分ける
つばめ
「――茅野さん、こちらは異常ありませんでした」
警察官から報告を受けて、柊は
「ありがとうございます。全ての場所の確認が済みましたので、規制線は解除して問題ありません」
「わかりました!」
警察官は配置についている他の警察官に声をかけつつ、慌ただしく去っていった。
「柊ちゃん〜!お疲れ☆」
「入江さんお疲れ様です」
「こっちの首尾はどう?」
「収束しましたので規制線は解除しております。そちらは・・・」
「うん、俺は問題ないよ☆でも澪くんがちょっとダウンしちゃったみたい。永遠くんも一緒に
「親子・・・ですか」
「お母さんの方はたぶん一般人なんだけどさ、息子くんの方は怨霊の記憶があるみたいなんだよね〜。これ、資料ね」
入江からタブレットを手渡され、柊は一通り目を通した。
「そうですか・・・」
「気になる?まだ小学生なんだって・・・」
入江は柊の顔を
「今回、怨霊を引き寄せたのは
「神官側に任せちゃっても良いよ?
「有坂に預けるということは新潟に住まわせるということです。小学生なんですよね?その年齢で親と引き離すのは・・・」
「自分と重なっちゃった?」
入江の言葉に柊は一瞬動きを止めたが、「いえ、別に・・・」と
「柊ちゃんは優しいな」
「澪さんはどんな症状なんですか」と、柊はこの話題を遮るように尋ねた。
「なんか負荷が高い術使ったみたいなんだよね。見た感じ、生気使いすぎちゃったんじゃないかな。澪くんもそんな馬鹿じゃないから、加減はしてると思うんだけどね。無理しちゃうのは師匠に似てるのかな」
「・・・からかわないでください。何の術を使ったのかは何となく想像はついています。おそらく、今の
「柊ちゃん、澪くんが心配なところ悪いんだけどさ、もう1件任務が発生しそうなんだ。澪くんは今日は任務に入れなさそうだし、永遠くんも万全じゃない。他に動ける人がいなさそうでさ・・・。夏都くんは夏季合宿で不在だし。俺はあの親子の様子を見に行くから、先に向かって貰っても良い?」
「わかりました。問題ありません。場所は・・・」と柊が言いかけたが、入江の視線を感じて言葉を途中で切った。
「――美鶴さんさ、たぶん澪くんにあの術を使うと思うよ」
入江は先程までのふざけた表情と異なり、真剣な眼差しで柊を見つめている。
「・・・そうですね」
柊は目を伏せてから小さな声で答えた。
「じゃあ、永遠くんに何とかしてもらわないとね。柊ちゃんには任務に行ってもらわないといけないし」
「永遠ならきっと大丈夫です」
「美鶴さんが3年前のことを伝えちゃうかも知れないけど、
「話すかどうかを決めるのは彼女ですので、私が言及することではないかと」
入江と柊の視線が空中でぶつかり、辺りに一瞬緊張が走ったが、入江はすぐ笑顔に戻った。
「そうそう、来週なんだけどさ、柊ちゃんのお師匠様がこっちに来るみたいなんだよね。護衛の依頼あったんだけど、柊ちゃん行けそうかな?」
「師匠が東京に・・・?」
「あれ?聞いてない?こっちには正式な依頼が来てたんだけど」
「いえ・・・聞いておりません。こちらにいらっしゃる時は私に連絡をして欲しいと申し上げていたのに・・・」
「まぁ、あの人はしょうがないんじゃない?それに、
「兄弟子・・・?」
「そうみたいだよ。なにか気になることでもあった?」
「・・・いいえ、ありません」
「おっけー。来週の件は明日以降に共有するね。今日の任務の場所は、今スマホに詳細情報送ったから確認しておいてくれる?」
「わかりました。では任務に向かいます」
そう言って、柊はつばめヶ丘神社を後にした。
*
永遠と澪はつばめヶ丘神社からタクシーに乗り、東雲医院に向かっていた。
――『・・・茅野さん、3年前にお祖母様を亡くしてるでしょ。中2で戻ってくるまで、
(思い出そうとしても、中1の春から夏までの記憶がほとんどない。なんでこんな抜け落ちてんだ?)
タクシーで東雲医院に到着すると、駐車場に待機していた美鶴が永遠たちを出迎えた。状況を入江から聞き取っていたのか、澪の移動用に
「お二人とも大変でしたね」
「美鶴さん、夜分遅くにすいません」と言って澪が頭を下げた。
「澪くんが謝ることではありませんよ。さぁ、手をこちらへ・・・」
「ありがとうございます」
澪はお礼を言いつつ永遠に肩を、美鶴に手を借りて車椅子に腰をおろした。
美鶴に先導してもらい、永遠が澪の乗る車椅子を押した。
(良かった。澪さん、思ったより元気そうだな)
「――でしたね、永遠くん」
美鶴の言葉で現実に引き戻されて、永遠は「へ?」と声を上げた。
「永遠くんが楽しみにされていた夏祭りだったのに、災難でしたね」
「あぁ・・・それっすか。仕方ないっすよ・・・てか、なんで俺が楽しみにしてたこと知ってんすか?」
「入院中もうわごとのように繰り返していたじゃないですか。『夏祭り・・・』って」
永遠は顔を真っ赤にして「わー!」と叫んだ。
「美鶴先生聞いてたんすか・・・」
「はい」
美鶴は嬉しそうに答えた。
「――俺がもっと早く特定できたら良かったんですが・・・」
澪が申し訳なさそうな顔をしている。
「いや、俺も柊も気づかなかったんで・・・澪さんの到着が早くて助かりました」
「永遠くん、澪くんを診察室へ運んで頂けますか」
「わ、わかりました」
永遠は美鶴の誘導で車椅子に乗った澪を診察室へ運んだ。
「さぁ、こちらへ」
美鶴が診察室の扉を開けながら声をかけてきたので、永遠は「は、はい!」と威勢よく返事をした。
「・・・美鶴さん、外傷はないので休んでいれば落ち着きますよ」
澪にそう言われたものの、美鶴は大きく息をつき、真剣な眼差しで澪を見つめた。
「そういう訳にはまいりません。今のご自身の状態を分かっておいでですか。このままだと命の危険が伴います」
「は・・・?なんて・・・?」
永遠は状況が飲み込めずに言葉を漏らした。
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