28話 試される覚悟2-疾風に勁草を知る-

東櫻とうおう大学100周年記念祭当日、任務のため別館を訪れた永遠とわに声をかけた人物がいた。

眞白ましろ・・・?」

「まさかこんなところで会うなんて。どうしたの?その格好」

「あ!えっと・・・」

永遠はアルバイトを始めたことを眞白に伝えていないことを思い出し、しどろもどろになってしまった。

「永遠、アルバイト始めたんだ」

眞白は永遠の様子を見て察したのか、眞白の方から話を振ってきた。

「そ、そうなんだ。しゅうと同じところでアルバイトを始めて・・・」

「ふふっ、そういうことなら先に言ってくれれば良かったのに。まぁ、永遠のことだからその辺のことは考えてなかったんだろうけど」

「あ、あぁ。悪ぃな。それにしても、眞白もここにいるなんて・・・親に呼ばれたのか?」

「もちろん。今日は塾を休んででも来いってうるさくてさ。自分が式典で挨拶あいさつするでしょ。体裁だよ。駒葉こまば高校の制服じゃ困るからって、わざわざスーツまで作らされて」

「そっか。理事長の息子も大変そうだな」

駒校こまこうの制服で良いのにさ。嫌なんだよ。自分の息子が都立高校通っているって知られるのが」

「大学の理事長の息子は普通、都立高には行かねぇからな・・・。よくあの親父が許したよな」

「いや、反対されたよ?」

「やっぱ反対されたのかよ!」

「でも、半年かけて説得したよ。附属校の緩い空気の中に身を置きたくなかったし、親が敷いたレールの上を走らされるのも真っ平ごめんだったから。自分が指定した塾に通え、テストでは常に1位を取れって条件出されたけど、最後は折れたよね」

「今は大丈夫なのかよ・・・」

「父さんが出した条件はクリアしてるから問題ないよ。それに・・・俺はうれしかったよ。また3人で同じ学校に通えるのが。永遠どうだった?」

「そりゃ俺だって嬉しかった。そのために受験頑張ったようなもんだし。正直、怪我して走れなくなった後は全部どうでも良いって思った時期もあったからな・・・」

永遠はうつむきながら答えた。

「じゃあ、良いんだよ。俺も永遠も、きっと柊も3人で同じ学校に通えて嬉しかった。それだけで」

眞白は「だからね」と言って、永遠の肩を軽くたたいた。

「自分で決めた道は迷わなくて良いよ。言いにくいことも俺に言わなくて良い。俺は二人を信じてるから」

「眞白――」

『炎駒、別館には到着したのか』

インカムから本部長の連絡が入り、「まもなく入ります」と答えた。

「永遠、仕事の邪魔をしちゃいけないから、今度にするよ。じゃあ頑張ってね」

「眞白、また今度話そう。・・・ちゃんと」

「分かった」と言って、眞白はホールへと向かっていった。



永遠は別館入口に設置された案内スペースのスタッフに声をかけた。元々本館だったが創立100周年のタイミングで新しく本館が建てられたことで、別館という名称に変更されている。

「すいません。ここの警護を担当するたちばなですが」

「あ!聞いてます〜!こちらの腕章だけ着用お願いします〜!」

永遠は女性スタッフに「あざっす」と礼を言い腕章を身につけると、無線機を取り出した。

「本部長、炎駒えんくです。これから別館の巡回に入ります」

『連絡遅かったな。とは言え、監視カメラで見ていたから何をしていたかはわかってるが』

「すみません、任務中に・・・」

『気にするな。相手は理事長の息子だし、無下にするわけにもいかないだろ・・・早速だが屋上から1階まで巡回し、不審物はないか、不審者がいないかを確認してくれ』

「了解っす」

本部長に連絡を入れた後、永遠は屋上まで上がって、巡回しながら1階まで降りていく。別館の展示はすでに入場を開始していたため、各フロアで学生や一般客などが掲示を見たり、スタッフから説明を受けている。

その間にホールからの通信が聞こえてきた。距離はあるものの、この無線機は問題なくホールの音声を拾えるようだ。

警備員から事前に確認したとの報告は受けているものの、怨霊おんりょうの気配はないか、兼路かねみちのように人を襲おうとする不埒ふらちな輩がいないかどうかも含めて、今一度4階建ての建物内を確認していく。次第に人が減っていったので、ポケットからスマートフォンを取り出し時刻を確認した。

(17:45。みんなホールの方に行ってるのか)

1階まで降りると、先ほどの女性スタッフに声をかけられた。

「お疲れ様です〜!そろそろホールのイベントが始まるんで、こっちは人がいなくなると思いますよ!ちょっと休まれてはどうですか?」

「あざっす。別館の周辺も確認したら休憩取りますんで」

そう言って別館を出た瞬間――。

永遠は異変を感じ取り、咄嗟とっさにその方角に目をやると、別館の屋上に結界が出現していた。

(は・・・!?まさか神官か?!)

永遠はすぐさま無線機のスイッチを入れた。

「こちら炎駒、別館の屋上に結界が出現してる!応答してくれ!」

報告を入れたものの、ノイズ音だけでだれからも反応がない。スマートフォンも確認したが圏外になっている。

(あれ?さっきは大丈夫だったのに。通信障害か・・・?)

結界が張られている以上、神官があそこにいることはほぼ間違いなかった。神官が何の目的で結界を張ったのかがわからず、中には兼路のように人を襲う神官もいる以上確かめなければならない。永遠は急いで別館内に戻った。

「ひぇ?!」

自動ドアが開いた瞬間に建物内に転がり込んだため、受付にいた女性スタッフが驚いて変な声を上げた。

「危ないんで、屋上に近づかないでください!」

永遠は屋上への階段を駆け上がった。結界は一般の人には見えないため、構内にいる人間が気に留めている様子はない。階段を蹴り飛ばし屋上に到着すると、目の前に直径10メートルを超える結界が出現した。永遠は周囲を見渡したが、結界を張ったはずの人間は見当たらない。

(俺でも分かるくらい、中から嫌な感じがするな・・・)

『こちら炎駒、別館屋上の結界に到着。聞こえますか?』

永遠はもう一度無線機から呼びかけたが反応はない。スマートフォンも確認したが、圏外のままになっている。

(やっぱり結界の影響か・・・?!)

永遠は恐る恐る黒い球体に手を伸ばした。自分の手がすっと通っていくのを確認すると、意を決して結界に飛び込んだ。

「・・・入れた!」

喜んだのも束の間、目の前には青い炎をまとった巨大なひょうのような怨霊がこちらをにらみ付けていた。結界内を見渡したが神官の姿はない。永遠が後退りをすると、背中に結界が触れたのを感じた。咄嗟に手で叩いてみたが、先程はスッと通った結界が硬い素材に変わっている。

(マジか。入れるけど出れないのか)

永遠は左足に括り付けていたやり石突いしづきを手に取った。

「古の火の力よ、我、炎駒と共に闘わん!」

永遠の言霊に反応して、槍の柄は火をまとっていく。一振りすると朱槍しゅそうが出現した。

「俺がやるしかないのか・・・」

――『もし今後、命をやり取りする場面に出くわしても絶対に気後れしてはならないよ』

永遠は冴木さえきの言葉を思い出した後、自分の朱槍を握る両手が震えていることに気づいた。

(訓練を思い出せ・・・!やるんだ!)

視線を戻すと怨霊の姿がない。

(あれ?どこ行った?!)

「ガゥゥゥゥ!!」

咆哮ほうこうが頭上から聞こえ、顔を上げた瞬間に怨霊から無数の氷の塊が放たれた。永遠は咄嗟に炎の壁を張ったが、攻撃は壁をすり抜けていく。

「なっ・・・!」

――ドドドドドド!

怨霊の攻撃の衝撃から粉塵ふんじんが舞い上がった。











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