27話 試される覚悟1-疾風に勁草を知る-
学校法人
「すみません。本日こちらの警護を担当します
「
受付でスタッフをしている女子学生に声をかけると、「少々お待ちください」と言われ、『STAFF』と書かれた腕章を手渡された。
「理事長から聞いています。こちらの腕章を付けて頂けますか。付けたらスタッフ用の通路からお入りください。不審物については事前に確認していますが、その他に気になるところがないか、確認いただくようにと言われています」
「ありがとうございます。承知しました」
言われた通り腕章を付け、スタッフ用入口と書かれたドアより入場した。1階と2階合わせて500名ほど収容が可能で、講演会だけではなくコンサートにも利用ができる。柊と澪は手分けしてホール内に不審物がないかを確認して周った。
「茅野さん、こちらは問題ありませんでした」
「澪さんありがとうございます。私の方も問題ありませんでしたので、受付に伝えてきましょう」
柊はホールの入口に戻ると、受付のスタッフに入場を開始するように伝えた。
「わかりました。では入場を開始させます」
女子学生が、周辺のスタッフに声をかけて、まもなく入場が開始した。来場者は手荷物検査後、事前に購入していたチケットを手に指定席へとついていく。
「本部長、
『分かった。引き続き注意を払ってくれ』
「分かりました」
柊は入場開始直後に、無線機で芝山へ連絡を入れた。すると背後から「すみません」という声がしたので振り返ると、40歳前後のスーツに身を包んだ男性が立っていた。眼鏡の端に映る
「あのー・・・ひょっとして、柊ちゃんじゃありませんか?ほら、
「・・・!失礼ですが、どちら様でしょうか・・・?」
「突然失礼しました。僕は東櫻大学文学部で准教授をしています
「申し訳ありません。今、こちらの警護にあたっているところでして・・・」
柊はすかさず謝罪を入れたが、澪が「茅野さん」と話に割って入った。
「ホールの公演が始まるまで30分ほどあります。来場者の確認は俺がしてますから、お話をされたらどうでしょう。ご事情がお有りのようですし」
「・・・わかりました。澪さん、すみませんがしばらくお願いできますか」
「もちろんです」
そう言って、柊は久我とともにホールの外へと移動した。
「突然すみませんでした。僕はあなたのお母様、松任姫乃さんの教え子だったんです。その縁で、幼い頃の君にも何度か会ったことがありまして」
「・・・そうだったんですか」
「いやぁ、立派になられて驚きました。最後にお見かけしたのは、もう7年前になりますか・・・」
両親のお通夜に参列していたであろう久我の言葉に、柊は当時のことを思い出して固まってしまった。
「気を悪くされたらすみません・・・。ご両親は本当にお気の毒でしたね・・・確か、交通事故でお亡くなりになられたとか・・・」
「いえいえ、とんでもないです・・・。お気遣いありがとうございます」
「3年前のお祖母様のことも風の
「・・・そうですか」
「今はお兄様と一緒に?」
「いえ、兄は海外で仕事をしておりまして。私は兄の友人たちに世話になっています」
「そうだったんですね」
久我は柊を見て柔らかく笑みを浮かべた。
「あなたの雰囲気はお父様に似ていますが、目元はお母様そっくりですね」
久我はポケットから名刺とペンを取り出し、何かを書き始めた。
「プライベートの連絡先を書いておきました。君のお母様には本当にお世話になったんです。進路のことでも良いですし、
そう言って、柊に名刺を差し出した。
「ありがとうございます」
「お仕事中に大変失礼いたしました。では頑張ってください」
柊は一礼すると、ホール内に戻っていった。
「・・・きっとまた会うことになりますよ、柊ちゃん」
久我は嬉しそうに
*
別館に向かう途中、永遠は何度も大丈夫と自分に言い聞かせていた。
久しぶりの任務で緊張していたところに、
以前眞白に聞いていたにも関わらず、一之瀬怜士がこの大学の理事長であることをすっかり忘れていた。学校のイベント等で何度か会うことがあったが、永遠はあの太々しさと見下すような口調が昔から苦手だった。眞白も柊もそのことに薄々気づいていたため、3人で会うのは永遠の家が通例になっていた。
(今日は任務で来てるんだから、うまくやらねぇと・・・)
記念祭自体は17:00開始で、ホールの公演は18:00から始まる。ホールの公演を見るために別館周辺からホールへ人の移動が始まっていた。
別館の看板を見つけ建物の中に入ると、さらに各フロアの展示物に関する案内があった。1階が公認サークルの展示、2階が東櫻大学の歴史に関する展示、3階と4階が各学部に関する展示となっている。建物内には永遠と年齢が変わらない人から卒業生と思われるご年配の人まで幅広い人が集まっており、在校生もいるようでサークルの看板を持って歩いていた。
「もう勧誘なんて気が早ぇな。まだ入学してねぇだろ」
「永遠?」
聞き慣れた声がして思わず振り向くと、スーツに身を包んだ眞白が立っていた。
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