8話 明かされる秘密1-隠すより現る-
――ゴロゴロゴロ・・・・。
雷鳴が徐々に近づいて来ているのを感じる。気温が下がり霧も出てきているようだ。永遠は走りながら辺りを見渡すが、人影は見えない。この悪天候の中、
「ガウゥゥゥゥゥゥゥ・・・!」
森の奥から獣の
「なんだ今の・・・?」
永遠は胸がざわついた。柊はいったい、どこに向かっているのだろう。もし何らかの理由があって森の奥に向かっているのだとしたら、あいつに遭遇してしまうかもしれない。そうなる前に、早く連れ戻さなければ。
「全く何なんだよ!くそ!」
森の奥に向かう途中、咆哮が何度も響き渡った。獣は移動している訳ではないようで、その声は森の奥に進むにつれて徐々に大きくなり、進めば進むほど霧が深くなっていく。永遠は息を切らせながら懸命に走ったが、柊の姿は一向に見当たらなかった。
(どこだよ・・・柊)
森は霧でかなり視界が悪く、小さな音は雨音に遮られる。
「グルルルル・・・」
呻き声が聞こえたと思ったら、目の前の霧が揺れてゆっくりと”何か”が姿を現した。全身にまとう紫の炎。狼のような姿をしているが、全長は3m近くある。開いた口からは鋭い
「な・・・なんだ、こいつ・・・?!」
化物は心なしか笑っているようにも見える。永遠は血の気が引いていくのを感じた。
(は・・・早くここから離れねぇと・・・!)
永遠は急いでその場を立ち去ろうとしたが、恐怖のあまり足がもつれ、木の根に足を取られて転んでしまった。
「いってぇ・・・!」
すぐに起き上がろうとしたが、転倒した際に左足を
「おい、うそだろ・・・」
永遠はじりじりと後ずさりをするが、左足は言うことを聞かない。走って逃げることは不可能だった。
「ガウウウゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
けたたましい声を上げて、紫炎の化物が永遠に飛びかかる。永遠は思わず目を閉じた――。
「ギャン!!」
次に目を開けた際に見えたのは吹き飛ぶ化物と見慣れた後ろ姿だった。
「永遠、大丈夫?」
驚く永遠をよそに、柊はいつもの調子で尋ねた。走ってきたのか息が切れ、肩を上下させている。
「柊・・・?!」
「あんまり大丈夫じゃなさそうね」と、柊は永遠の回答を待たずに言った。目の前では化物が
「俺は足を痛めて逃げられない。柊だけでも逃げろ・・・!」
永遠は柊の腕を掴んだ。永遠の手は震えている。柊は静かにその手を外した。
「心配してくれてありがとう。でも、私には仕事が残っているから」
「仕事・・・?」
柊が右手のサポーターを外すと、火傷の
「グルルルル・・・」
化物は柊との距離をじりじり詰めている。あの巨体なら一気に襲いかかることもできそうだ。柊の四肢を食いちぎることだって・・・そこまで考えて、永遠はぞっとした。
「柊!俺のことはいいから!」
永遠はそう叫んだが、柊はその場を動こうとしない。真っ直ぐ化物を見つめて、先程の短い棒を体の前で構えた。
「
柊が言葉を唱えながら、柄の先へ左手を伸ばしていくと、バチバチと音を立てながら刀身が出現した。柊の刀は雷のように白く光っている。
「あなた、思ったより速いのね。森の奥まで誘い込まれるとは思わなかった。でも残念。あなたは森の中が戦いやすいのかも知れないけど、天候は私に味方したみたい。この雷雨は私にとっても都合が良いの・・・あなたは私が浄化する」
その直後、化物は
「ガウウウゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
――ガキィン!!
柊は紫炎の獣の牙を雷の刀で受け止めた。巨大な獣にぶつかられた衝撃で、柊の体が数m後ろに押される。初撃を防がれた獣は仕切り直すことにしたのか、飛び退いて柊との間合いを取り直す。そして柊と獣はほぼ同時に走り出すと、空中で白光と紫炎が衝突した。両者が空中でぶつかる度に太刀と牙の鈍い音が響いたが、永遠の目では追いきれない程のスピードだった。
「永遠!耳塞いで!」
戦いの最中、柊が永遠に向かって叫んだ。
「は?耳?!」と永遠は混乱しながらも、柊に言われた通りに両耳を
柊は刀を両手で握りしめ、姿勢を低くして走り出す。瞬時に間合いに入った柊に、化物はついていけない。
「
柊が刀を振り下ろした瞬間に辺りが一瞬明るくなり、落雷したかのような
「グルルルル・・・」
一刀両断された化物はまばゆい光となって辺りを照らして姿を消した。柊は刀を収めてその場に
「柊!!」
永遠は心配でいてもたってもいられず、左足を引き
「大丈夫か?」と永遠が確かめようとすると、柊はすくっと立ち上がったが、その際に痛みが走ったのか小さく声が漏れる。
「・・・ちょっと疲れただけだから。早くみんなのところに戻りましょう」
「待てよ!!!」
永遠は力強く呼び止めると、柊の腕を
「さっきの何だよ!!!」
「さっきって?」
「とぼけんなよ!!化物と戦ってただろうが!!」
柊は永遠の顔をじっと見つめている。
「あの巨体を刀で斬ってただろ?!覚えていないとは言わせねぇからな!」と詰め寄ると、柊は目を見開いた。
「・・・永遠は記憶があるのね」
「は?何言って・・・」
困惑する永遠をよそに、柊は少し考えてから口を開いた。
「雨も酷くなってきたし、移動しない?」
柊はすぐ近くにそびえ立つ、ひときわ大きな大木を指差した。
「は?雨宿り?」
「話すから。永遠が知りたいこと。ここにいても風邪引くでしょ」
「それはそうだけど・・・おい!柊!」
柊は肩に永遠の腕を回して歩き出す。こうなったら柊は聞かないので、永遠は黙って従うことにした。永遠は柊に支えられて歩きながら、この痛みが現実であることをひしひしと感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます