56話 守りたかったものと守れなかったもの4-明日ありと思う心の仇桜-

シェアハウス兼本部を訪れた永遠とわは、眞白ましろ五麟ごりんや前世のことを打ち明けたいと芝山しばやまに交渉をしていた。

「眞白は俺達の秘密を勝手に話すようなやつじゃありません。誓約書これは芝山さんに納得してもらうために用意しただけです。

五麟の能力は精神状態が大きく左右する。俺としゅうが覚悟を決めて戦うためには・・・眞白あいつの存在が不可欠なんです」

真剣な表情で永遠の言葉に耳を傾けていた芝山はふと笑った。

「君たちのきずなは強いんだな・・・まるで昔の自分を見ているようだよ」

「あの・・・?」

永遠は状況が飲み込めず首をひねった。

「まず、3年前何があったのかを君に知らせていなかったことをびよう。茅野かやのの意志をんで3年前のことは伏せていたんだ・・・茅野は炎駒の記憶が蘇り、君が壊れてしまうことを恐れていた。しかし君たち2人に話していれば、茅野をあんなに苦しませることはなかったかも知れない・・・俺は茅野の心の奥には踏み込めなかった」

芝山はそう言うと目を伏せた。

「芝山さん・・・」

「俺は君たちのような前世を持っていない。だから、茅野や美鶴みつる・・・入江いりえの苦しみを理解することはできないだろう。君は前世を思い出すことで”戻れなくなる”かも知れない。それでも進むのか?」

芝山は永遠の気持ちを確かめるように尋ねた。

「眞白がいてくれれば、俺と柊はどんなに時間がかかってもきっと戻ってこれます」

「・・・そうか。茅野から話を聞いているとは若いが人間がよくできてると思うし、面白がって話を広めたりしないだろう。本来こういったことは許可しないが、今回は特例で承諾する」

「ありがとうございます・・・では、俺はこれで失礼します」

永遠はきびすを返して玄関につながる扉に手をかけると、「待て、たちばな」と芝山が声をかけた。

「前回会ったときとどこか雰囲気が違うが、その・・・何か思い出したのか?」

芝山の問いに永遠はニヤリと笑った。

「いえ、何も?ただ・・・俺の中で覚悟が決まっただけです。では、失礼します」

そう言って永遠は本部を後にした。

(さて・・・一之瀬眞白息子に情報を渡すことで、一之瀬怜士あの理事長はどうでるかな・・・かえで・・・美鶴・・・)

1人残された芝山は不敵な笑みを浮かべた。




演武会での護衛任務から数日後、柊と永遠は柊の祖母の墓参りに来ていた。柊の祖母の墓地は星川ほしかわ商店街の近くの駒葉こまば霊園の中にあった。

茅野家と書かれた墓を2人で綺麗にして花を交換し、線香に火を付ける。

屈んで数十秒手を合わせた後、ゆっくりと立ち上がった永遠が口を開いた。

「墓が手入れされてんな・・・柊がやってるのか」

「・・・月命日はいつも来ているから」

「そうだったんだな・・・いつまで続ける気なんだ?」

「――祖母を殺した犯人を見つけるまでは」

柊は墓を真っ直ぐに見据えながら言った。

「そうか・・・頑張れよ」

永遠がなんと声をかけたらいいのか分からずにいると、柊の方から話を振ってきた。

「今日はどうして正服なの?永遠、任務入ってたっけ?」

「いや、入ってない・・・俺が正服なのは、柊のばあちゃんに俺の覚悟を聞いてもらうためだよ」

「覚悟・・・?」

顔を強張らせる柊に対し、永遠は意を決してこう切り出した。

「眞白に”俺達のこと”を話した」

「それって・・・まさか・・・?!」

怨霊おんりょうのことも、五麟のことも、前世を持っていることも」

柊は永遠に詰め寄ると怒りをにじませた。

「どうして?!眞白は聞きたがらなかったでしょう・・・?!夏祭りの時だって・・・!」

「そうだよ。眞白あいつは言った。『言うことで救われる時もあるけど、言わないことで救われることもある』って。でも、それで柊の心が救われたのかって考えたら、違っただろ。だから、ここに来る前に眞白に伝えたんだ――・・・」


――――

駒葉こまば高校の裏山のベンチに永遠は腰を掛けていた。永遠は本部の正服を身にまとっている。眞白の姿に気づいた永遠はベンチから立ち上がった。

「おはよう永遠、急に会って話したいなんてどうしたの?」

永遠の元に現れた眞白がさわやかに言った。

「こんな朝早くから呼び出して悪いな。柊のばあちゃんの墓参り行く前に、どうしても眞白と話したくて・・・」

「永遠、柊のおばあさんのこと思い出したんだね・・・ごめん、俺の口からは言えなくて」

眞白は申し訳なさそうな表情をした。

「思い出したんじゃなくて、柊から聞いたんだけどな。眞白が謝ることねぇって・・・俺達はそれ以上の隠し事をお前にしていたからな」

「待って、それって・・・永遠と柊の仕事のこと?守秘義務があるって聞いてるし、前も言ったけど俺には話さなくて――」

永遠は眞白の前に手をかざして静止した。

「お前に話さなくて良いって言われて、俺も最初はそれで良いかと思った・・・でも柊は自分一人で全てを背負おうとして、俺達の知らないところで壊れかけてた。今更優しい言葉を並べたところで、柊の心の傷は癒えない。

俺達は柊と一緒に茨の道を歩くべきだったんだ。柊の泣いてる姿を見てそれに気づいた。3年前のことを覚えてない俺に言う資格がないのは分かってる。でも、俺達はもう柊を独りにしちゃダメなんだ――・・・」

「俺もそう思うよ・・・柊はずっと1人で頑張ってたからね」

永遠の言葉に、眞白はうつむきながらつぶやいた。

「俺達よりも、みおさんの方がずっと行動に移してたよ。あの人、柊が中1の時に身を寄せてた道場の兄弟子だったらしい。3年前のことを調べ尽くしてさ、本当にすげぇよ・・・きっと澪さんがそこまでしなかったら柊も話さなかった。だからこそ、俺達も覚悟決めなきゃな」

眞白は小さく息を吐いて力なく笑った。

「俺・・・怖かったんだと思う。永遠や柊がやっていることは薄々気づいてたけど、もし真実を知ってしまったら今まで通り幼馴染でいられるのかなって――・・・だから柊に話さなくて良いなんて言って、柊を独りにさせてしまっていたのかもしれない」

「・・・聞く覚悟できたか?」

「俺に話すことで永遠にペナルティついたりしない?」

眞白は心配そうに永遠に尋ねた。

「お前も言った通り、俺達には守秘義務がある。万が一お前が他のやつに話した場合は俺が罰を受ける・・・でも、俺はお前がバラすなんて思ってないから問題ねぇよ」

「俺を何だと思ってるの・・・命の危険が迫ったら話すかも知れないよ?」

「そんな理由ことでお前は話さねぇよ」

微動だにしない永遠を見て、眞白は吹き出した。

「すごい信頼されてるね。分かったよ・・・話して、永遠。ちゃんと聞くから」

「ちょっと長くなるだろうし、ベンチに座って話そうぜ」

そう言って永遠は眞白を促した。眞白は困惑しながらも、観念した様子で永遠の隣に座った。

――――


「この後、眞白の塾の時間になるまでじっくり2人で話し合ったんだ。もう二度とお前を独りにしないためにな」

「・・・眞白はなんて言ってたの?」

柊は恐る恐る尋ねた。


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