カルバリー駆除依頼:ハリエット
第6話 クエスト・ゲスト
神殿地下にある自室という名の仮住まい。
「冒険者ギルドに行きまーす!」
ルナの声と扉を蹴破る音によって、心地よい神殿の朝は崩壊した。
俺はイスから落ちる。
「クソッ、なんだ!テコ入れか!?」
「王道だよ!……って、何してんの?それ」
ルナは机の上に山積みになった本を見て顔をしかめた。古びた大きな書物たちが開いて置かれている。
俺がイスを立て直すと、なぜかルナが堂々と座る。
「おい座んなよ……」
「これ何の本?ずいぶん古いけど」
「書庫にあったやつだよ。帰る方法が見つかるかもしんねーだろ」
「へー……」
ルナはわかりやすくションボリした。
純真無垢なやつだ。これが異世界ハーレム生活か。いやまだ友達だ。ハーレムでもないし。
気を取り直し、ルナはイスに膝立ちして顔を近づけてくる。
「まあとにかく、ギルドにゴー!」
「俺はいいよ。一人で行ってこい。てか俺が行く必要ねーだろ」
「ふん!そうくると思ったわ愚か者め!」
「敵?」
「魔王の領域に繋がる道に入るためには1級か特級の『冒険者ライセンス』が必要です!以上!」
ルナは自信満々の表情をしていた。
そういう使命だったな。自分が勇者なの忘れてた。
しれっと部屋を出ようとすると、ルナは子犬みたいについてくる。
「……魔王って本当にいんの?この国、平和だけど」
「多分!」
やっぱり所々雑なんだよな、この世界。
俺たちは神殿を後にしてギルドに向かう。
冒険者には2つのタイプがある。ライセンス無しで世界中を駆け回るタイプと、ライセンス有りで1つの国に属して依頼を受けるタイプ。どちらもメリットデメリットはあるが、安定を狙うなら後者だという。
王国冒険者ギルド南西支部、通称『荒れ地』。
王国内でも指折りの強者が集うギルド。三階建ての大規模なギルドだが、外見も中身も薄汚れ、全体的に茶色い。両隣の建物が白い分、余計に目立つ。
中に入ると受付嬢……ではなく受付のオッサンが黄ばんだ紙とペンを渡してきた。
「これ書いて。名前と住所、あと保証人」
「は、はい……」
このオッサン渋いな、ヤクザか?ギルドの中に佇む冒険者たちも殺伐としているが、このオッサンが一番ヤバそうだ。タバコ吸ってる幻覚が見えてきた。
「はじめは12級。クエスト受注制限はお仲間のランクとの平均値だから、忘れんなよ」
「はいぃ……」
オッサンのオーラがスゴすぎて噛み締めるような相槌しか打てない。闇金から金借りてる感覚がする。
パパっと記入を終えると、オッサンが一瞬でライセンスを発行した。ライセンスは運転免許証と材質がそっくりだ。
オッサンはライセンスとともに、木の実を2つ渡してくる。パチンコ玉サイズの赤い三角錐の実。
「はい、ライセンス。あとこれも」
「え、これは?」
「ヒコイチ、お前パクス人だよ」
「パク……え?」
「月だよ月。7番目の月の住人」
「何の話で……?」
「
それだけ言ってオッサンは奥に引っ込んでいった。
占い好きなのか。てか月多くね?
木の実をポケットに突っ込み、俺の背中に抱きつくルナを引き剥がす。やはり人目に晒されるのが苦手らしい。
「作ったけど、12級だってよ」
出来立てのライセンスを見せた。
ルナも懐からライセンスを出す。ルナのライセンスには金色のラインの上に『特級』と書いてあった。ゴールド免許だな、これ。
「アタシが特級だから、2人の平均値は6ね。じゃあとりあえず……制限が6のやつを……」
掲示板の前に行き、貼り出されている依頼書を吟味していく。
ランクの制限が6級と書いてあるものを片っ端から見ていくと、シンプルな文面が目につく。
「お、これなんかどうだ?」
「どれどれ?」
「『シーレ
「あー、クルマウみたいなヤツね」
「なるほどわからん」
クルマウに似た生き物、カルバリー。犬か猫で言えば鳥って感じの名前だ。
ルナは特級だし、俺も俺で相応の力はあるハズ。6級なんてお茶の子さいさい。
依頼書を剥がし、受付のオッサンに渡す。
「ん……」
オッサンは依頼書と俺たちを見比べ、目を細めた。
「後ろのソイツもお仲間なの?」
「え?」
俺とルナの間のわずかな空間を見つめるオッサン。
わけもわからず振り返ると、確かにそこにもう一人、3人目の冒険者がいた。
ソイツはピンク色の長髪の剣士。風体だけで言えば超一流の品格があり、おまけに胸もデカい。
「今から仲間になるところです。お構いなく」
彼女の性格は難アリのようだ。
「え……怖っ」
俺たちにしか見えない幽霊かな。
そんな中、オッサンはいつの間にか受領印を押しかけていた。
「なんだ、違うのか」
「違います!」
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