初めての冒険:ルナ

第3話 お試し


「キャー!誰かー!」

「ちょっと待ったぁーっ!」


 チンピラに追われているテイのルナを助けてみたり。


「くっ、殺せ……!」

「死なせはせんぞぉ!」


 死にそうなテイのルナを救出してみたり。


「いっけぇええええええええええ!!!」

「ウオオオオオオオオ!!!」


 必殺技を出そうとしてみたり。


 こんなことをバカみたく小一時間試していたが、結局何も起こらなかった。

 異世界に呼び出された俺に与えられた力とは何なのか。どう動けば火が出るのか、何を考えれば脚が速くなるのか。それはルナですら知らないことだ。


「ぜーんぜんダメだね。なんでだろ」


 ルナは空に向かって声を吐いた。


「それで、何でここに?」


 俺たちは外に来ていた。神殿から離れた場所にある山の麓の、芝生の上を歩く。


が出るって噂聞いたからさ、実戦やればヒコイチの能力もわかるかなーって」

「……さっきやられたばっかだろ、あの変な鳥に」

「あれはモンスター、今探してるのは魔獣。魔王が設計した魔力を使えるタイプの、なんというか……悪魔的なやつね」

「魔が多いな」


 ルナはどんどん草木の深いほうへ入っていく。


「おーい、どこまで行きゃいいんだよー」

「魔獣が見つかるまで」

「本当にいんのか?もう討伐されたんじゃ……」

「ここらへんは穴場だから、まだ倒されてないって!多分!」


 謎の自信に満ちた顔を横目に、俺は足を動かす。

 さっき回復魔法をかけてもらったため体は万全だが、心が回復していない。

 はやく自分の能力を知らないと。このままでは俺は無知な一般人。アイデンティティが無いまま異世界を生き抜く自信はない。


 歩き続けて日が真上に昇った頃、開けた場所に出た。

 そこには武装をした人々が数十人。祭りかと見間違うほどの騒ぎだ。


「あれ!?めっちゃ人いる!?」

「穴場じゃねーじゃん……」


 人々は魔獣を狩りにやってきたのか、鎧を着ていたり槍を持っていたりと千差万別の格好だ。

 しかし何やら視線が集中している気がする。


「お、おい!魔女だ!魔女が来てるぞ!」

「横にいる男は誰だ!?」

「ヤベーぞ!ヤベーって!」


 人々は驚きと畏怖が混じった喧騒を生んだ。


「俺ら人気者だなぁ」


 何の気なしに静観していると、ルナに腕を引っ張られる。


「違うから!ここはナシ!別のとこ行こ!」


 ルナは見るからに焦った様子で、そそくさと退散を促した。

 どうやら彼らにとってルナや俺は、良いとは言いがたい、マイナスの印象らしい。


 俺とルナは来た道を戻り、別ルートに入る。

 なだらかな上り坂を進む道中、ルナは怒りの炎を滾らせていた。


「低級の冒険者ごときがピーピーわめきやがって……!いつか燃やし尽くしてやる……!」

「口悪っ!」

「ふん!別にどーでもいい奴らだよ。そんなことより魔獣がいないよ!」

「俺に言われても……」


 今のところ一般人の俺が何か出来るはずもなく。


「ルナ、お前には便利な魔法があんだろ。なんかこう……探知魔法とかないのか?」


 頼れるのは目の前のルナだけ。魔法とかいう超絶便利な謎パワーがあれば、たいていのことは乗り越えられるだろ。


「……あー、魔獣の毛とかがあるならいけるけど」

「んー、だったら俺みたいに、魔獣をここに呼び出すとか」

「リームーだね」


 ルナは首を横に振った。


「じゃあ、俺を召喚したあれは何なんだよ?」

「あれは物体を呼び寄せる魔法の究極型。他の世界から適性のある人間を呼び寄せて、能力をパパっと授ける。発動さえできればノーリスクで即戦力が手に入るってわけ。魔獣は論外」

「へー、俺は一応適性アリなのか……」

「そこは神様が判定するみたい。唯一わかってる共通点は『死ぬ寸前だった』ってこと。ヒコイチも前の世界で死にかけたでしょ?」

「え……いや別に」


 つい正直に答えると、ルナの顔色が一気に悪くなる。

 足を止め、俺のほうに詰め寄ってきた。


「はいぃ!?」

「何だよ」

「神様に会わなかったの!?」

「ああ」

「ステータスオープンってやった!?」

「言われてねぇだろ」

「言われなくてもやってよ!」

「嫌な上司かお前は」


 言われてみれば、俺はテンプレを通らずにここまで来た。となると当然、テンプレたる神様からのギフト的な物も無いことになる。

 あれ、けっこうピンチ?無能力の男が異世界で生きていけます?


「え、じゃああんた……いったい何なの!?」


 ルナは青ざめた顔で後ずさりした。

 俺はいわば転移の魔法に反した存在。ここにいるはずのない異物。何故いるのかと訊かれたら困るが、誰だと訊かれたら答えられはする。


「何ってそりゃあ……」


 瞼をより大きくして、ふと呟く。


「……魔獣」

「はっ!?」

「う、後ろ!後ろにいるって!!」


 気づいたのとほぼ同時。明らかに魔獣だろう黒い怪物がルナを吹っ飛ばした。


 尖った4本の長い脚と、垂れ下がった耳が特徴的な首長の怪物。そこらの樹木より大きな体躯は、ルナを視界から消し去った。


「や、やべ~……」


 一人取り残された俺。

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