第43話 魔偽魔耳・注意報
「オイ!ここのギルド、お
広場の側に建設されている冒険者ギルド。その入口の横に大きめのお土産屋がある。
驚いたままエルネスタと入ってみると、これでもかと商品が陳列されていた。
「四天王クッキーに
「いらんやろぉ、明日帰るわけでもないのに」
「そうだけどさ……一つくらいなら……」
ストラップ買おうかな。そう思って商品を吟味しつつ、俺は重大な事に目をガン開いた。
「あっ!!!」
「どしたぁ?」
「財布がない……」
所持金を確認するため財布を取り出そうとするも、ポケットには虚無があるのみ。さすがにまさかと希望を抱き、必死に体中をまさぐる。
「ちゃんと探したん?ここの内ポケとかに……」
「俺いつも同じとこに入れてるし……なのに無いんですけど!」
「あ~、ウチら観光客やしなぁ。スられたんちゃう~?」
「そんな…………」
絶望でぐったりと膝をついた。
テンションだだ下がり。エルネスタの手が俺の肩に乗る。
「そ、そや!ギルドなんやし依頼受ければええやん!そんで金稼ごーや!」
「でも俺、王国のライセンスしかないし……あ、財布にライセンス入ってるんだ……再発行しないと……」
「いちいち落ち込むなって!ウチのライセンスあるから!帝国が発行したやつ!」
「え、お前冒険者ライセンス持ってんの……?」
「うん」
「何級?」
「2級やけど」
「あぁ、そう…………」
俺まだ6級のままだ。年下に負けた。
「なんで落ち込むねん!もうええ!ウチが依頼受けてくるから待っといて!」
エルネスタが一人でギルドのほうにズカズカ歩いていった。
ギルド内の窓際の席で呆ける。財布を失くすと色んな心労が現れる。もう絶対返ってこないもんな、どうしよう。
そんなこんなで数分後、エルネスタが手ぶらで帰ってきて右隣に座った。
「なんか手続きいるんやって。ちょい待つらしい」
「……うん」
「テンション低っ。あとこれ、名物らしいで」
デカい餃子のような食べ物をくれた。
薄いパン生地に具材が入った、戦闘前に丁度良いグルメだ。
「ウチの故郷やとパンドンて名前やったけど、ここやとナードンって名前やねん。なんか違和感あるわぁ」
そう言ってエルネスタはナードンにかぶりついた。中には肉や豆、野菜が詰まっている。
2人して黙々と頬張る。背中に当たる日光が熱い。
「…………一つ真面目に聞くけど、ええかぁ?」
エルネスタが前を向いたまま、いつものダウナーな雰囲気で食べる手を止めた。
俺はナードンを食べながら「ん」と
「なんでフォルトゥナと一緒におるん?」
そういう系統の質問かぁ。答えづらいな。
「いや、やめとけって意味ちゃうで。ウチは魔女フォルトゥナの事件なんてどーでもええ。でも世間的にはそうはいかないワケやんか」
「……だな」
「フォルトゥナっちゅう魔法至上主義の体現みたいな特例と暮らすんはさ、なんでなん?」
魔法至上主義の体現……言い得て妙だ。
「なんでって……」
正直に話すことはできない。適当な言い逃れのウソなら「恋に落ちた」とか「恩人だから」で事足りる。実際は若干人間不信なルナとそんな理由で打ち解けるのは難しそうだが。
ルナといる理由は完全に成り行きだ。転移させられて行くあてもなく、俺は帰り方を探すため、ルナは魔王を倒すために一緒にいる。
「魔王を倒すため……」
「え?」
「俺もルナも、魔王を倒すために冒険者やってるんだよ、そういえば」
思い出した
頭から抜け落ちかけてた。大事な目標だ。
「いやいや~、んなワケないやろ」
しかしエルネスタは茶化すように笑っていた。
「魔王なんてどこにもおらへんやん」
それは端的で衝撃的。
過ぎ去る寒風のような、心臓に刺さった矢が抜かれたような。そういう衝撃。
エルのこの言い方、俺がおかしいのか。ルナは転移者の使命が魔王を倒す事だと言っていた。俺もそんなもんだろうと特に調べもせずに信じていた。
普通ここで
「まぁ、無理には聞かへんわ」
エルネスタは席を立った。
「手続き終わったみたいやでぇ。さっさと行こーや。ウチ、ヒコイチの実力知りたいし」
「あ……おう」
「しっかしあれやな、被り物付けてへんとホンマにエロい目で見られるんやな……」
ナードンを食い終え、受付で依頼受注を完了させた。
魔王の事がまだつっかかる。財布なんてどうでもいい。いや、どうでもよくはないけど、後でキッチリと問いただす必要ができた。
まずは目の前の事に集中しよう。
エルネスタが受けたのは4級の依頼。
「『山の王の駆除依頼』ね……そういや、エルって武器持ってないのか?」
「持っとるで」
エルネスタは腰の鞘から刃渡り50センチくらいの両刃剣を抜いた。
けっこう特徴的。ノコギリのようでいて民芸品のような、長方形の銀刃に金の装飾が入った魔法武具。
「『サラディアスス』。切れ味良し、持ち主に吸い付く優れモン。基本は変身魔法で戦うからオマケの武器やけどな~」
「名前は自分でつけたのか?」
「いや元からついとった。そや、ヒコイチの背負っとる剣の名前、なんやっけぇ」
「マモル」
「プッ」
「君毎回笑うじゃん」
こうして俺とエルネスタは暇潰しがてら、山の王を討伐しに行った。その一部始終は既に繰り広げたので割愛する。
最終的に起こったことは、ルナが封印保護に失敗して四天王が復活し、こっちに向かって来ているということ。
向かって来ているというか、もうなんか見える。
戦いの舞台は山の中腹、崖の上。
竜巻の跡が目立つここには俺とルナとエルネスタの3人。更に追加で、大きな影が落ちてきた。
その名を『ウェニリグス』。大昔に勇者達と戦い、封印されても死ねなかった大怪物。
長い首と隆起した筋肉は砂漠色に、胸部は甲殻に覆われ、四肢は太く発達している。頭部は顎が無いのか想像以上に気味悪く、ただ一つ、眼が見当たらない。
「……魔王の……名の下に…………」
降り立ったウェニリグスは喋った。そこそこハッキリ喋った。
「いざ」
続いて、側頭部に垂れ下がるベールのような皮膚か何かを展開させ、耳障りな高音を放ち始めた。
脳に直接届く音で、俺たちは耳に手でフタをする。エリマキトカゲ的な威嚇じゃない。おそらく潜水艦のソナーのような技術か。
「180、163、160……3人か……上質な魔力だ」
音を納め、ウェニリグスは空を仰いだ。
ここからどう戦うか、俺たちは出方を待つ。勇者と渡り合った四天王だ。油断はできない。
「アレ、君って女の子?」
油断はでき……ん?
誰が言ったかと思えば、どう見てもそこにいるウェニリグスだ。エルネスタのほうに顔を向けているが、セリフがおかしい。
「胸小さいけどあるもんね。エコロケで触っちゃったよ~!ギャハハ!」
「え……何?」
エルネスタも困惑し、助けを求める顔を俺に見せた。
「でも君さ、もっと女の子っぽい格好しなって。そんなんじゃ結婚できないよ~?」
「は、はぁ……」
「……何その態度?年上なんだからさ、敬おうよ」
やけに流暢で高飛車な物言い。伝説としての貫禄が薄れていく。
この感じ、わかったぞ。不思議なことじゃない。
「コ、コイツ……」
「男のほうは頼りないね~。身なりもなってないし、本当にやる気あるの?」
2000年も封印されてたせいだ。
この四天王、明らかに……
「価値観が古い!!!」
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