四天王前竜面族:トーハー

第40.5話 お姫様と午後の尋問タイム


 ミアドートから南下して湖畔の町へ。

 冒険者ギルドの管轄にある宿屋で一泊。それからブッ叩いて気絶させてたを起こし、俺とルナは本題に取り掛かる。


 デデン!さて、ここでクエスチョン!


 地球からやってきた人間『転移者』と、この異世界で生まれ育った『現地人』を見分けるにはどうすればいいでしょうか?


 なお、転移者と現地人は外見、言語、基本的な思考が同じです。また、転移者は超絶マイノリティでありサンプルがほぼ皆無のため、一般的な見分け方は確立されていません。

 さあ、気になる正解は~?


「尋問じゃーい!!」


 シンプル・イズ・ベスト。ある種の粗探しだ。

 今回捜索している転移者はごく最近この異世界に来たため、異世界の知識にうといはず。そういう細かなギャップを攻めていけば……


「いや自白魔法でいいじゃん」


 ルナはさらっと言ってから『コンフェッション』を唱えた。

 相手は拘束魔法でイスに縛りつけた例の若者。

 わずかな光に照らされた後、若者はポカンとしながら苦笑いする。


「あ~、ウチ精神魔法効かへんねん。家庭の事情で」

「ヒョエ~」


 ルナが目を点にしていた。


「まーまールナよ、あとは俺に任せておけ。何と言っても俺は専門家だからな。何のかは聞くなよ?」


 ここは俺の出番だと、ルナを後ろへ下がらせる。


 俺は一度、国王リンドウにお辞儀をしたことで転移者と見破られかけた。その時はお辞儀が都市伝説レベルの見分け方で、ボロを出させる事が目的だったらしくなんとか乗り切れた。他にも俺が弱かったとか、国王に気に入られたのも役立った。

 しかし今回はそうはいかない。なんせ転移者本人が尋問を行うのだ。わずかな隙も見逃すまい。


 まずは一礼……チッ、反応なしか。お辞儀はしなかった。ならば次は本格的な尋問だ。


「それじゃあ今から質問をする」

「お~」

「1秒以内に答えろ」

「普通にキツない?せめて2秒に……」

「いくぞッ!!」


 質問連打だ。これで詰まればクロに近づく。


「名前は!」

「エルネスタ」

「何歳だ!」

「12かな」

「出身地は!」

「サイカン公国」

「好きな偉人は!」

「勇者リオン」

「座右の銘は!」

「少年よ、まず歯を磨け」

「犬派猫派!?」

「え……猫?」

「はい遅いーーー!!!」


 アウトもアウト、これはクロだな。ちなみに一応言っておくと、12歳は地球換算で18か19だ。


 若者、もといエルネスタは脚をバタバタとさせる。


「いやいや、今のは質問が悪いわ」

「イチャモンかぁ?」

「なんで猫なん?猫人族キャットマンならわかるけど」

「……まあいい」


 定型的な質問ではなかったのかもしれない。

 正直、答えが正確かつ早すぎて逆に怪しいが。


「そこまで現地人のフリをするんなら勝手にしろ」

「いや現地人やし」

「しかし!俺には『秘策』がある!」

「最初からそれやれや」


 いちいちうるさいな。てかなんで関西弁?うーん、関西弁だから怪しいと捉えることもできるな。


 まだ確定とは言えない。有罪を勝ち取るためにも、あの作戦を使うしかない。


「ルナ、紙と塗料が欲しいんだが……なるべくカラフルなやつを」


 ルナは床板を取り外し、それを使って魔法で即席の紙を作り出した。塗料は魔石から作られた魔法陣用の物があったため、それを水に溶かして指につけ、紙に書いていく。


 秘策と言ったのはただのホラで、ちょっとした思いつきだ。

 準備が終わり、エルネスタの前に立つ。


「よし!待たせたなエルネスタ」

「エルでええよ」

「じゃあエル、お前、英語は読めるか?」

「英語ぉ?何やそれ」

「AとかBとか、アルファベットで言葉を書くやつだ」

「あ~、あれか~。さすがに無理やわ。だってそれお偉いさんが趣味で覚えるやつやろぉ?あんなん読むもんちゃう、お絵かきやお絵かき」


 すごい小馬鹿にしてるな。でもそれで良し。

 ここで読めると答えられた時の事を考えてなかったのでまずは一安心だ。


「わかった。それじゃあ今から『ある文字』を見せるから、その文字がを答えてくれ」


 文字ではなく色を答える。これで転移者と現地人の抗いようのない差を露呈させてやろう。


「よーわからんけど、色を答えろってことやな」

「そうだ。これも1秒以内に答えろよ」

「はいは~い」

「よし、いくぞ……」


 俺の手元には4枚のザラついた紙。その紙の表面を素早く見せつける。


「ハイ!」


 紙には青色のインクで書かれた『Red』の文字。


「青」

「ハイ!」


 続いて黄色のインクで書かれた『Blue』の文字。


「黄色」

「ハイ!」


 赤色のインクで書かれた『Green』の文字。


「赤」

「ハイ!」


 黒色のインクで書かれた『Red』の文字。


「黒」


 再び青色のインクで書かれた『Red』の文字。


「青」


 赤色のインクで書かれた『Green』の文字。


「赤」


 黒色のインクで書かれた『Red』の文字。


「黒」

「負けたァァアーーーッ!!!」


 俺は膝から崩れ落ちた。


「何やったん?英語なん今の?」

「脳年齢が若すぎる……!」

「えぇ……もー意味わからん」


 説明しよう、今のはちょっとした引っかけ問題だ。


 そう、この世界の言語は日本語のみ。外来語という発想は存在しない。

 しかし魔法名や諸々の関係でか、英語がわずかに生き残っている。それは人工言語で遊ぶようなものであり、真面目なコミュニケーション手段として用いられることはない。

 それがこの異世界での常識、概念だ。

 しかし転移者は違う。おそらく転移者=日本人であることからして、義務教育は当然行き届いている。相当なバカでなければ簡単な英語ぐらい読める。


 そのギャップをついたのが今の脳トレ風の炙り出しだ。もし転移者なら書かれた英語を反射的に理解してしまうため、インクの色との違いでラグが発生する。日本人でも『青色で書かれた赤という文字』で似たような体験ができる。

 なかなかにえた作戦だと思ったが、どうやら誰にも伝わらないらしい。悔しいぜ。


「いーやまだだ……お前がバカか天才のどちらかだという可能性は残っている……!」


 諦めずに立ち上がる。この程度で現地人判定はやれない。まだ二択もある。簡単な英語のわからないバカか、処理能力の高い天才か。


「もういいって!フツーにこの世界の人だよ!」


 ルナにはばまれる。


「そやそや、ウチが何したって言うんやー」


 エルネスタはわざとらしく体を揺らした。

 立場がわかっていないのか。まあ、この性格が続くのであれば攻撃性は無いだろう。今は許してやる。


「……疑って悪かった。俺はヒコイチ、こっちはルナだ」

「何度か聞いた。てか、ルナじゃなくてフォルトゥナちゃうん?有名人やろ自分」


 エルネスタが小さな口で何気なく言った直後、ルナが颯爽と殴りかかる。


「テメーがルナって呼ぶんじゃねぇー!バカアホこの野郎ぉーっ!」

「おい落ち着けって!今はやめとけ!」


 今度は俺がルナを羽交い締めにした。


「すまんって!愛の証なんやな、ウチがわかってなかったわ」


 エルネスタ、口が軽すぎるぞコイツ。ルナの力が弱まったので羽交い締めを解く。


 肩を落としたルナはエルネスタと向かい合った。


「はぁ…………じゃあ最後に尋ねるけど、あんた何者なわけ?」


 エルネスタは「また尋問?」と呆れていたが、ルナは構わずに続ける。


「エル、あんたは魔力量が人より多い。それなのにあんな極寒の土地で一人……王国もあんたを未確認の魔法使いとして手配した」

「そら大層なこって」

「エルネスタって魔法使いはアタシも知らない。だから聞くけど……あんた普段何してんの?」


 今回は転移者の捜索を主としている。その傍らで、未確認の魔法使いへの対処も命じられている。

 例えばユーヴァンのような大罪人だった場合、それを放っておくことは任務と身の安全の上でできないことだ。


 エルネスタは目を斜め上や下にやったりしてから、ニヤニヤとした笑みになる。


「……自分探しの旅?」


 瞬間、ルナがエルネスタの喉元に剣を突きつける。


「ちょい!ホンマやて。親に勘当されてん」

「どう信じろと?」

「どうって……ムズっ。そ、そやな~」


 焦っているように見えて、エルネスタは汗一つかいていない。危機回避として顎を上げているだけで、目の奥はまだ笑っていた。


「ルナって呼ばせてくれたら教えたる」


 そんな戯れ言を前に、俺たちは半ば諦めていた。

 自白魔法が効かない分、尋問から拷問に変えたいくらいだ。

 俺たちに良心があって幸運だったな。他のチームなら回復魔法を言い分に半殺しだ。


「ダメだ。もう行こうヒコイチ」


 ルナは剣を納めて扉に向かった。その時、エルネスタが地団駄を踏んで悲しげな声を上げた。


「ちょお、ウチも連れてってや~」


 不穏な言葉だ。

 ルナは振り返り、眉を傾ける。


「……連れてく?」

「帝都まで」

「いや……帝都には行くけどさ……」


 ルナは俺の顔を一瞥いちべつし、同じような困惑具合だったのを再確認した。拷問しとくべきだったか。


「断ってもついてくでウチは」


 俺たちの意思などそっちのけで、エルネスタはダブルでピースをする。


「それじゃ、よろよろ~」



 エルネスタが仲間になった!


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