第47話 原魔勇竜混合決戦 活劇


「シュート!」


 ルナは自身の足に杖をあて、魔法でブッ飛んだ。そして原住種げんじゅうしゅへ剣を一振り。


 原住種はルナの担当。俺はウェニリグスの担当。

 ただ相手側はそうもいかない。原住種はウェニリグスを狙うし、ウェニリグスは全員を狙う。

 封印魔法の関係上、混戦は勘弁だ。つまり俺とルナは担当する怪物のヘイトを常に集め、互いにタイマンで戦い続けなければならない。


 そういう縛りはウェニリグスにも筒抜けだろう。

 奴はどう出る。封印を恐れて原住種の力にタダ乗りするか、封印魔法陣を持つ俺とタイマンを張るか。


「クゥアッ!!!」


 ウェニリグスは空気砲を三発とも俺に向けてきた。


 来たか。体への直撃は剣で避けられるが、それでは空気砲の衝撃を吸収しきれない。

 だから回避法を考えた。シンプルな力業を。

 空気砲を剣の自動防御で受け、あとは跳んで回って、いなす!


「ッしゃあ!どうだ!」


 走ったまま威力を流せた。

 やはり身体強化魔法の恩恵はデカいぞ。


「貧相だな!」


 ウェニリグスが肉弾戦を仕掛けてきた。ちょくちょくかするが、挙動の大きい攻撃は避けやすい。


「聞け!!戦争は終わった!勇者はもういない!」


 剣に魔力を蓄積しつつ、念のためにも説得してみる。


戯言たわごとをッ!」

「2000年前に終戦してんだよ!」

「ならば何が変わったと言う!世界が変容するまで戦いは止められんぞ!!」

「何が目的なんだよ!世界征服か!?」

「敵に話す筋合いがあるかァッ!」


 話す知能があるくせに話し合いには応じないか。


「このッ……わからず屋が!!」


 斜めに一閃、魔力の斬撃を放つ。狙い目は頭部。


「リフレクション!」


 ウェニリグスの目の前で魔力がひっくり返って、俺のほうに飛んでくる。

 反射魔法は卑怯だろ。あの斬撃のヤバさはよく知っている。当たるわけにはいかない。


「あぶなっ」


 斬撃は剣に吸い込むことで難を逃れた。

 実は剣に備わっている魔力吸収という魔法、たまにしか使わないので忘れがちだ。


 視界にあった斬撃が消えると、ウェニリグスがいなくなっていた。

 地表付近に強めの風が流れている。


「つまらん」


 索敵の高音が耳の裏から聞こえた。あの巨体で、俺の真後ろに密着しているのか。

 パァン!── 唐突な破裂音が響く。それと同時に、俺の体は抜けるように吹っ飛んだ。


「ぁがっ……!!」


 岩にこすりつけられる。なんとか剣を地面に突き立て、火山湖の手前で止まった。

 殴られたのか?速すぎてわからなかった。身体強化があってもこのダメージ、そしてあのスピード。明らかにさっきとは違う。


「いいか、勇者とは進化の象徴!比類なき理知と暴力で人の世を統べる英雄の事だ。汝のように怠惰な人間が有終の美を飾りたければ、勇者を連れてこい」


 ウェニリグスが少し浮いている。ホバークラフトってやつか。やたら風が流れているわけだ。

 破裂音もおそらく、圧縮空気をパンチのスピードに乗せている証。テンション上がってきたな。


「言ってくれるじゃねーか……」

「何度でも言おう!未熟者の勝利などッ!」


 破裂音を響かせて一瞬で接近してきた。


「死のうが有り得ないッ!!!」


 一発、二発、数えきれない殴打と風圧。

 ウェニリグスの一方的な攻撃が襲ってくる。止まらない。自動防御など意味はなく、なすがままに殴られ続ける。

 一発ごとに響く破裂音は、圧倒的な連撃によってマシンガンのように鼓膜を揺らし、俺の体に刻み込まれる。


 ひたすらに痛い。体が地面にめり込み、肺が押されて声が出せない。


 仕方あるまい。最終奥義を見せてやる。


「ッ…………アアァッ!!!」


 噴き上げた魔力でウェニリグスを退かし、久しぶりに空の下に立った。

 視界が赤い。顔面が血まみれなのか。


「ハァ、ハァ……いってぇ…………」


 俺の剣は紫色の抽象的なエネルギーをまとっていた。

 すまん、最終奥義は言い過ぎた。ただの荒技だ。


 これはマモルの魔力放出と魔力吸収の合わせ技。

 持続的に魔力を放出し、それを即座に吸収することで魔力を刃の周囲に留める。要は剣の当たり判定を肥大化させた、刃渡り2メートルはある魔力の剣。


 その欠点は、肥大化した当たり判定によって自分さえも普通に斬られること。死ぬほど危ないが、今はそんなこと言っていられない。

 通常の剣よりもダメージを与えやすい魔力の剣をぶつけることで、ウェニリグスと渡り合う。


「未熟者だって……?俺の恩師はこう言ってたぜ!」

「恩師ィ?」

「諦めたらそこで……」


 握った手と思考をリンクさせる。

 

「隙アリィッ!!!」


 剣を振り上げた。隙を見せたほうが悪いのだ。

 ウェニリグスは剣に拳で対抗してきたが、その拳ごと切り裂いてやった。

 これが魔力の剣の真価。触れることすら許さない。


 さあ、拳を構えて向かい合おう。

 ハチャメチャな乱打戦の始まりだ。


「クォアッ……ウォアァァァァァアアアッ!!!!」

「ウラアアアアアアアアアアア!!!!」


 相手の一撃を弾き、かわし、自分の一撃を叩き込む。そのためだけに腕を振り、足で踏ん張り、また腕を振る。

 ウェニリグスは裂傷と再生を繰り返し、俺は自動防御で攻撃を全て弾く。自分の剣で身体中が切り刻まれているけど。


 全身が熱い。どれくらい経っただろうか。

 ゲシュタルト崩壊してきたぞ。そろそろ決めるか。


「スーパーウルトラデラックス……!!」


 あえてウェニリグスの拳を受け入れ、自らの一撃の正確性を上げる。


「死ねやオルァァァアアーーーーッ!!!」


 吹っ切れたパワーにより、ウェニリグスの胴体を横に真っ二つにした。


 今こそ封印のチャンス。封印魔法陣の描かれた羊皮紙を素早く取り出す。その瞬間、ぐぐっと羊皮紙が引っ張られる。


「うおっ、吸引力ゥ……!」


 踏ん張っている足がスライドしていく。再生途中のウェニリグスの手のひらに空気が吸われている。

 再生中でも抜け目ないか、さすがの四天王だ。


「このっ……!」


 羊皮紙と剣が手から離れた。両方とも奪われたら最悪だ。

 まずは自分の身を守るため、吸われていく剣に向かって走る。


「と思わせて…………こっち!」


 直前で方向を変え、魔法陣の羊皮紙を掴んだ。

 剣を取ると油断してくれたかな。この至近距離、詠唱さえすればチェックメイトだ。


「展開束ばっ」


 破裂音と、腹に伝わる強烈な衝撃。

 切り離したウェニリグスの下半身に蹴り上げられ、空をグルグルと回っている。


「ぬかったな」


 ウェニリグスの空気砲の構えが見えた。空中にいる俺を狙うか。容赦ないな。

 剣はないからガード不可。さてどうする。


「ありえなァ~~いッ!!!」


 野太く女々しい竜の声が、俺とウェニリグスの間に侵入してきた。巨大な翼がはためいている。

 オカマドラゴン、セシュア様。生きてたか。


「痛っ!」


 セシュアの腹あたりが浮いた。まさか今の、空気砲を受け止めたのか!?

 竜の鱗は硬いと言うが、空気砲を耐えられるとは。高等硬質化魔法のかかった高硬度金属レベルだぞ。


 セシュアは怒りそのままに、急降下でウェニリグスに襲いかかった。前足でウェニリグスを押さえつけ、口を大きく開いた。


 セシュアから大熱量の火炎が放射される。

 ウェニリグスを隠してしまうほどの火炎は平たく広がり、周囲の温度が一気に高まった。


 頬が照らされ、汗がしたたる。着地した俺はとりあえず剣を拾った。

 あの大怪獣バトル、介入する余地がない。焼き尽くしてくれれば封印も楽になるか。


 その時だった。火炎が突如として勢いを弱め、いっぱいの白煙が立ちのぼる。


 地から空へ、『何か』が軌道上の全てを切断した。

 セシュアはズタズタの細切れになった。跡形もない、シュレッダーにかけられたような凄惨せいさんさ。


「な、何だ……!?」


 未知の攻撃。あれで生きているワケがない。セシュア様死んじゃったよ。


「名をびたまえ……」


 煙の中にたたずむシルエットは、さっきの封印時に見せた形態変化、いや、さらにその先。


「我が明日で死ねるよう……汝が最期に目覚めぬよう……欲しいままに舞うがよい!!」


 こんな長ったらしい詠唱はないはず。

 煙を散らし、血を被ったそいつは叫ぶ。


「『空回る空ウェニリグス』!!!」


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