第46話 原魔勇竜混合決戦 覚醒
「おはよ!ヒコイチさん!」
前のめりに話しかけてきたのはブギーだった。
「おー、さっそく元気だな」
「うん!それでね、ちょっと試したいことがあって」
「ん?」
「これ、魔力計って言うんだけど」
ブギーは手のひらサイズの細長い棒を取り出した。縦の芯に目盛り付きの空洞があり、青緑色の液体が2割ほど入っている。
「大気中の魔力濃度はこんな感じで、私に近づけるとこんな感じ」
ブギーの肌に魔力計を近づけると、液体のかさがほんの少し上昇した。
「でもね、ヒコイチさんの近くだと……」
ぐいっと近寄ってきた魔力計の目盛りはさっきの2割ほどに戻った。だけでなく、液体が引っ込んでゼロになったり、急に2割に戻ったりする。
「あー!やっぱり、ブレちゃうんだよ。新品なのに。何でだろ?」
ブギーは首をかしげる。俺にもてんでわからない。
魔力濃度を測る機器がゼロと通常を行き来する。
決して通常以上にならないことから考えるに、俺の近くで部分的に魔力が消えている?
「あっ、そういや……」
この時は魔力を感じた経験がなかったから、勘に近い証言だった。
きっとアレが関係したりしてな、くらいの話。
あの『ビリビリのフィールド』は何だったのか?
それを以前、ルナに質問したことがある。
答えは単純。『過剰な魔力を送り込む事で倒す』という、2つある原住種の攻略法のうちの1つ。
ルナの魔力量は常軌を逸しており、並の魔法使いからすれば非現実的なその攻略法を実現できる。
その際、俺は
結局その攻略法は原因不明の失敗を遂げたわけだ。しかも、ルナは総魔力量の0.1%しか使わない予定だったのに、なぜか魔力枯渇に
ルナは冗談のように言っていた。
「ヒコイチのせいじゃない?」
と。
今ならわかる。
確かに、俺のせいだ。
霧が肌に染み込むような感覚。でも霧と違うのは、濡れない事と目視できない事。
血の涙が斜めに流れ、鼻血が顎を伝わり、発せられない声を発する。
「……これが…………魔力………………」
空気が無いことで、ようやく感じられる。
涼しく、細かく、いくらでも取り込める不可視の何か。これこそが魔力。魔法の源。
そしてやっと気づけた。俺のもう1つの能力。
周囲の魔力を集め、無に帰す能力。つまり、ルナの莫大な魔力を消し去ったのは俺だ。
また俺の謎スキルの名称を変えないとな。
『魔力生成』じゃなく『魔力支配』……とか?
カッコつけた名称になってしまう。考えものだ。
まあとにかく俺の能力には操作性がある。魔力をゼロから生み出せるし、魔力をゼロにもできる。俺の手のひらは魔力生成、全身は魔力消去。
創造と破壊、そんな感じで。
「クアッ…………ガ……!」
ウェニリグスは後ろにふらつき、バタンと倒れた。
魔力枯渇は魔法使いにとって致命的。常に魔力を溜めているために、枯渇に慣れていないのだ。慣れられるわけがない。貧しくなれないのだから。
ハイ・プロテクトが
「ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!……グッ……!」
やっと呼吸ができた。
急に再開したせいで喉が詰まる。胸も痛い。
「ハァッ、ハァッ…………ハァッ……!」
シャワーでも浴びたのかと思う量の汗と、全身に残るむくんだ痛み。
まだ意識がおぼろげだが、回復してるのはわかる。酸素が供給されているということか。
よく気絶しなかったもんだ。もしかしたら、真空状態になってからまだ数秒しか経っていないのかもしれない。走馬灯のような番狂わせだった。
ウェニリグスが展開したハイ・プロテクトとやらも役に立ったのだろう。
おそらくウェニリグスは真空状態を作り出すために空間を仕切った。普通のプロテクトには通気性があるが、ハイ・プロテクトにはない。密閉したがためにウェニリグスは魔力の消滅をモロに食らった。
「お互い様だぜ…………」
俺は空気の消滅に、ウェニリグスは魔力の消滅に弱かった。ハチャメチャな命の取り合いだ。
ウェニリグスは瀕死。何せ魔力が枯渇どころではなく、一度消滅したのだから。
それで言うとルナもだ。ヤバいヤバい。
「ルナ……!」
瀕死のルナに駆け寄り、ルナの腰のバックを漁る。
魔法陣の描かれた小さな羊皮紙。それを手にして魔力を込める。
「ヒーリング」
回復魔法をかけると、ルナは息を吹き返した。
「ゲホッ!ゴホッ……!」
両方の消滅を食らった病み上がりのところで悪いが、時間はありそうにない。戦闘再開はすぐだ。
「……ルナ、一応説明しておくぞ。ウェニリグスが空気を消して、俺が魔力を消した。まだ戦いは終わってない」
「…………後半がわからん」
ルナは口を拭い、早くも起き上がった。
「つまり、俺はアイツの天敵だった」
俺の存在は真空戦法を封じた。この価値はデカい。
「魔力ちょーだい」
「ああ」
ルナの手をとって魔力を流す。
「まずはアイツにドドメを刺したい……けど」
「けど?」
「……来るよ」
原住種が空から降ってきた。竜はいずこへ。
ウェニリグスも魔力が回復したのか、背中から空気を放って直立不動で立ち上がった。窪地に風が巻き起こる。
地獄の戦場に思えるが、たった今俺は十分な戦力になった。
ルナは自身と俺に回復魔法と支援魔法をかけ、準備万端で臨戦態勢に入る。
「天敵ってまで言うんなら、四天王任せられる?」
「あたぼうよ!」
「アタシは原住種!あんたはウェニリグス!」
封印魔法陣の羊皮紙を受け取り、目標に焦点を合わせた。
規格外が3つ。そこに放り込まれた俺は果たして通用するのか。手の震えは止められる。だったら多分、大丈夫だ。
「GO!!」
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