邂逅の砂漠:イワン
第52話 ドワーフの国
砂漠の国『ガズウェル』。
帝国領に加わったのは比較的最近、約200年前まで抵抗を続けてきたドワーフの国だ。
帝都の近くにもかかわらずそれほど国を守れたのは、ドワーフの性格や豊富な鉱石資源、そして非魔法使いにも扱える魔法武具の大量生産にあるという。
また、天文学と数学にも秀でており、貿易の重要地点でもある。
国土の大半が砂漠に覆われたガズウェルであるが、砂漠にしては緑が多く、やたらと平らな地平線の先にまで短い草が点々とある。
乾燥しているため猛暑は思っていたより耐えられるが、風景に代わり映えがないのが難点だ。
「お」
鼻の長いガゼルのような動物がいた。
そういう目新しい生き物を見つけると、エルネスタが飛びついて
川や露天掘りの鉱山が見えてきた頃、やっとドワーフたちの住む街についた。
ドワーフと言えば、平均身長1.3メートル、ずんぐりむっくりのヒゲ面で質実剛健な種族。そして何より、金属加工や手工芸の技術がピカイチだ。
今の俺にピッタリと言える。この街で彼らの技術を買う必要があるからだ。
荒涼とした樹木と城壁にも見える門を抜け、砂色の市場区画に入る。
「これ頼む」
「うい」
あらかたの荷物をルナに任せ、ウェニリグスとの戦いで損傷を受けた
汗と煙の匂いがする。むさ苦しい室内には店と呼べる物品はなく、火と金物と作業台たちが鎮座するのみ。修復が早く終わるよう
奥から出てきたのは無愛想な職人気質のドワーフ。標準装備の大きな鼻や長いヒゲで顔がほとんど隠れている。
「無理だな」
剣を見せた職人のドワーフの第一声はそれだった。
思わず「え」と声が漏れ、目が広がったのを感じる。
「魔法回路が高度すぎる。直せないこともないが、無闇にいじれば剣そのものがナマクラになる。ベストは製作者本人に持っていくことだ」
製作者本人か……それは難しいな。
「魔法の発動に不具合はないんだろ」
「……ええ」
「だったらこのままにしておけ。そもそもこんな高品質の剣が欠ける事は滅多にない」
職人のドワーフは剣を(俺からすれば)低い作業台の上に置いた。
「
「じゃあ、それで頼みます」
そこそこの金貨銀貨を支払う。こういう時は交渉でもするべきなんだろうが、職人の屈強な体が怖いのでやめておく。
剣の修復はせず、今まで代用で済ませていた鞘と柄を専用の物にしてもらうことにした。
「お前冒険者だろ。代わりの剣を持っていけ。街の外は盗賊がいるからな」
職人のドワーフは棚に置かれたシンプルな一本の剣を鞘に納め、俺に半ば押しつける形で渡してきた。
「どうも」
車検の時の代車みたいだな。
材質ではなく軽量化魔法が無いせいだろう。いつも頼っていたんだな。
「あ」
俺は工房を出ようとしたとたんに
「あと一つ、お願いがあるんですが」
今やっておいたほうが良い。大切ではなくとも、役には立つはずだ。
俺はある物を職人のドワーフに託し、工房の敷地から出た。その瞬間、見知らぬ2人のドワーフが俺にぶつかってきた。
「出すもん出しなァ!!」
「早くない!?」
もう盗賊が!?
「えぇ!?店の前だぜ!?」
ドワーフの手にある短剣、二人組の極悪面、ちゃんと盗賊じゃんか。
「早さが売りなんだよォ!!」
「信頼と実績だァ!!」
俺を見上げる2人のドワーフは追い剥ぎだか物取りだか、分類は知らんが、盗賊としての意気込みがあるようだ。
「はよ出せィ!!」
「何なんだよマジで……」
短剣の反射がすぐそこだ。金出すフリしとこ。
「とりあえずこれで、勘弁してください」
なけなしの路銀を手に乗せて、ドワーフどもの手が近づくのを待つ。
しかしなんとも、望んだ結果とは程遠く……。
「あんだぁこりゃあ?賄賂のつもりかァ!?」
「はい?」
「出すもんっつったら身分証だろーがよォ!こちとら軍の警備だぞ!パトロール中の職務質問からは逃れらんねぇぞコラァ!!」
コイツら公務員かよ!
「今、身分証ないんですよ。財布盗まれたんで」
唯一の身分証である冒険者ライセンスは紛失中につき、ドワーフたちに渡せる物はない。
「じゃあ、逮捕です」
いきなり冷たい言葉が飛んできた。
「え?」
厳しくなーい?
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