第17話 あの人の好みになりたいです。

   ◇◇◇


 翔がコンビニに行ったあと――。

 家には雪城三矢と芽以が残されていた。


「…………」


 三矢は心に霧がかかったようなモヤモヤした気持ちで芽以を見る。正直言って歓迎のできない客だ……翔とラブラブするのにあかりの存在だけで頭が痛いのに、ここに来て、高身長美女が仲間入りだ……。


 しかも、許嫁ときた……。


(はぁ、お兄さんって、どんな星の下に生まれたんだろう……でも、私は譲る気は一切ない)


 三矢には翔を想う理由と『過去』と『覚悟』がある。その覚悟は……葬式場で初めて出会った時からできている。誰にも翔は渡さないという想い。


 それは今でも思いだせる10年前の記憶……三矢の記憶の中の翔は少しも色あせていない。翔は三矢にとって『ヒーロー』だ。


 そんな想いを持っているのだが……芽依を見ると。


「えっと……え、え? わ、私、こんなとこまで来て、何をしてるの? き、嫌われちゃうよ? で、でも、ここで引く訳にはいかないし。で、でも、流石に自分勝手すぎない……で、でも、でも、でも、でもでも……」


 目の前にいるおどおどしていて、ブツブツと聞こえないぐらいの小さい声で何かを呟いている芽以……さっきまでのキリッとした態度は微塵もなく、今は弱々しい雰囲気だ。


(お、お兄さんが出て言った瞬間、弱々しくなったけど……ど、どうしたんだろ?)


「あ、あの……」


「……!!! ひゃい! な、な、何んですか!? 何か文句あるんですか!? や、やるならやるわよ! おらあああああああああああ!!! がるうるるるるるうるる」


 三矢が話しかけると芽衣は野生動物の様にいきなり威嚇をしてきた。少しだけど、さっきの強気な態度が戻ったが、まだ視線はあちらこちらをさ迷っており、情緒不安定だ。


(こ、この子もしかして……)


「えっと、お兄さんの好みに合わせるために、無理してキャラ作ってたりする」


「うぅ」


 図星をつかれたのか、びくっと肩を震わせて、顔を真っ赤にする芽以。その表情に余裕がなく、年齢よりも幼く見える。


「だ、だって、翔さんが、罵倒されるのが好きだって言うんだもん! だ、だから、ぬいぐるみ相手に罵倒し続けて、練習したんです!!」


「えっ…………きも」


 1人暗い部屋でぬいぐるみに向かって罵倒をする姿を想像して、つい本音が出た。


「あ、あなたに言われたくないです! わかってるわよ! 普通じゃないって、パパに見られて、本気で精神科に連れて行かれそうになった私の気持ちがわかる!?」


「い、いや……わかりたくないし」


「ドン引きしないで! あ、あなただって、翔さんに色目使ってるじゃないですか! ふ、ふん、裸で迫るとか、品がなくてビッチじゃない。私もあそこまでできないわよ! 節操がないです」


「せ、節操がない!? いやいや、あれはお兄さん好きだから仕方なくやってることだし。別に私の意思で裸で迫ってるわけじゃないし。お兄さんの趣味知らないの? メスガキだよ? メスガキ」


「??? め、メスガキ? ……メスガキ…………それって何? 言葉的にいやらしい感じがするけど」


「えっ? 知らないの? …………いや、知らないのが普通かねぇ~。というか、女の子的には知らない方がいいか……」


 ピュアな反応の芽以を前にして、普通に反省にしてしまう三矢。そんな反応に芽以はさらに首をかしげる。


「? どういうことですか! よくわからないけど、翔さんの趣味なら教えなさいよ!」


「あああああ! もうっ、ググレカス!」


「??? ググレカス??? よ、よくわからないけど、馬鹿にしてるのね!」


「くぅぅ、可愛いなぁ チクショウ! あーあ、ネットに毒され過ぎてる自分がなんか嫌だ!!!」


 純真なものを見て出てくる、心からの叫び……。

 そして……三矢は思う。


(お兄さんの周りには可愛い女の子ばかり……頑張らないとお兄さんを取られちゃう! もっと、お兄さんの隣が似合う女になるために、努力しないと!)


 三矢は心中で固く決意した。

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