第39話 お姉ちゃんは器がおっきいの!

   ◇◇◇


「ここが私の実家の『本家』です」


「す、すげぇぇぇ……」


 それからしばらく歩き、俺たちは目的地であるあかりちゃんの実家? に到着した。それは歴史を感じさせる武家屋敷で、もう東京ドーム程の広さの庭とそれに負けないぐらい大きなお屋敷だ。


 手入れされた庭はもはや皇居のようで、家は国の重要文化財と言われても違和感ない……どんな悪いことをすればこんなところに住めるのだろうか……。


「さあ、つきました。今、家の者を呼んできますね」


「…………あ、ありがとうございます」


「あれ? どうかしました? ああ……家が大きくてひいちゃいました?」


「えっと……」


「ふふっ、古くて大きいだけですよ。田舎だから土地の値段なんて二束三文です。むしろ固定資産税とか、いろいろ大変です。それに……ここはあくまで『本家』ですから、分家の私とは直接関係はありません……『今のところは』。あ、あはは……はぁ」


「…………」


 な、何だろう。あかりちゃんから強い悲壮感や疲れが伝わってくる。

 いろいろ言いえない苦労があることが読み取れた。


「あ、あの……あかりちゃん、もしかして実家に帰るのは嫌だったりします?」


 親族と距離を置きたい気持ちは誰よりもわかる。

 俺と三矢の依頼のせいで無理に来させているとしたら、本当に申し訳ない。


「ふふっ、雪城さんが気にする必要はありませんよ? 雪城さんの件がなくても、如月さんのお話は受けていました。いい加減、家の問題から逃げていても仕方がないので……はぁ」


「それはすごいですね……」


「すごい?」


「ええ。あかりちゃんと実家がどういう関係かはわかりませんが、実家の問題を解決しようとするのはすごいことですよ」


 これは俺の勘だけど、今までの言動からあかりちゃんの家……俺の親族並みにこじらせてそうだしな……

 というか、裏の匂いが強い……。


「ありがとう♪ 可愛い弟にそう言われるとお姉ちゃん、嬉しきなっちゃいます。でも、そんなに大きい問題じゃないです。別に家族と仲が悪い訳ではないので……いえ、むしろ良すぎるのが問題と言いますか……はぁ」


「…………」


 なんか。闇が深そうだ……。

 そんなことを家の前で話していると――。


「あまり無理しないでくださいね」


「心配してくれるの? お姉ちゃん、嬉しい!!! ぎゅううううううう!」


「!?!?!?!?!??!?!?」


 と、言うと、あかりちゃんはいきなり俺に抱きついてくる。

 なっ、この人、なんでいきなり抱きついてきてるの!? か、感触が! 香りが! いろいろ情報過多で死にそうなんだけど!?


『お嬢!!! お帰りなさいませ!! 帰ってくるのなら連絡してくださればすぐに探しに行きましたのに……!!』


 その時、庭の右側にある離れの方から野太い声で声をかけられる。振り向くとそこには、強面のスキンヘッドの大男が立っていた。


 男は大柄で190近い慎重に、派手な紫色のスーツで、筋骨隆々だ。俺なんか5秒で骨を砕かれそうだ……。


 あ、明らかに堅気には見えないよな。どう見てもその筋の人だ。


「ああん? なんだお前は?」


 男はあかりちゃんに抱きつかれてる俺に視線を止めると、ドスの利いた声で脅すように詰め寄ってくる。


「お嬢に手を出してるのか! ああん!? エンコじゃすまされん話じゃぞ!?」


「えっ、す、す、す、す すみません!!!!」


 人間とはか弱き生き物だ。こんな強面の男に詰め寄られたら、もう謝ることしかできない……これが生存本能というものだ。


 プライドじゃ生き残ることはできない。俺はもう土下座の準備もできている。


 と、心の中で負け犬覚悟を決めたが――。


「『佐武(さたけ)』さん? あなたは私の可愛い、可愛い、弟を脅しているんですか? ……殺しますよ?」


 俺を抱きしめてるあかりちゃんが男よりもドスの利いた声で男にい放つ。男は目に見えて動揺をして、俺に頭を下げる。


「も、も、申し訳ございません」


「二度はありません。家の若い者に伝えなさい。弟と妹2人……手を出したら殺すと……」


「わ、わかりました!」


 佐武と呼ばれた男は走って家の方に向かっていった。

 嵐が過ぎたようだ……というか、俺今……魔王みたいに言い放った人に抱きしめられてるんだけど。


「ふふふ、雪城さん、安心してね。家の者は少し? 恐いけど、手は出させないから! もし、なんかあったらすぐにお姉ちゃん言うんだよ?」


「あ、あはは……は、はい」


 一番怖いのはあなたです……とは、とても言えなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る