第38話 大自然は最高です。

   ◇◇◇


 同時刻――。

 雪城三矢と飯田芽以のJKコンビはこの雄大な自然が花咲くド田舎で――。


「あああああ! カブトムシを追いかけてたら、迷子になるとか小学生でもしないでしょううううう!!!」


「あっ、芽以ちゃんのカブトムシの方が角がトライデントみたいでかっこよくない交換しようよ!」


「うん? ああ……ふ、ふん、あんたのやつの方が大きいわね。感謝しなさい! 私は黒煙のダークエンドジェネラルと交換してあげるわ」


「うん、わかった! よろしくねマオ太!」


「黒煙のダークエンドジェネラルよ!」


「…………だっさ」


「今小声で何を言ったああああああ!?」


「はいはい、ああ、可愛いなぁ、ダークエンジェルたんは」


「違う! 黒煙のダークエンドジェネラルよ!」


「……あっ、虫かごあるよ? 使う?」


「ふん、田舎に来ると聞いたから、自前の物を持ってきたわ! 小さい箱庭、ひとかけらの幸福をね!」


「おっ、準備いいね! ふふっ、可愛いなぁ」


「かっこいいわね……」


 2人はカブトムシの魅惑の虜だった。

 各々の虫かごに入れたカブトムシをうっとりした表情で見つめる。


「って、だからそんなことをしてる場合じゃないのよ! 翔さんに心配かけてるんじゃないの!?」


「ああ……確かにお兄さんから鬼着信来てるね」


 三矢はスマホを見つつ、今後のことを考える。


(あの指輪は私のために使ったんだから、私が如月さんの仕事を頑張らないと……とりあえず、如月さんには『話を通してある』。今から向かえばお兄さんよりも『先』に交渉相手と如月さんと話せるかな?)


「えっ? あんた……翔さんから着信が来てるの? 私きてないんだけど? は、はぁ? どういうことよ!!」


「ふっふっふ、これが愛人如きと正妻との違いじゃない?」


「はぁ? ぜっころ」


「ガチギレはやめたまえ」


 三矢はめちゃくちゃ殺気立っている芽以をいなしながら、『ごめーん! すぐあかりちゃんの家にいくね~』とさっと翔に送る。


「さあ、あんまり、ざーこ、ざーこなお兄さんをあかりちゃんの家に一人ぼっちで、待たせると可哀そうだし、さっさと行くよ~?」


「……あんたに言われるまでもないわよ」


「じゃあ、レッツゴー!」


「はぁぁ、あんたを追いかけたつもりが、カブトムシに夢中になるなんてまだまだね」


 芽衣はそう言いながらスマホのGPSを起動させる。ちょっと、テンションに任せた自分の行動を後悔しているのか、少し悲壮感がある。


 そんな芽以を見て三矢はふと疑問が浮かぶ。


「ねぇ、芽以ちゃんって、ここみたいな田舎大好き?」


「ああん? そんなの……大好きに決まってるじゃない! 漆黒に輝くナスや、この世で最も純白な米も育ててみたいし、それに虫も害虫以外なら大好きよ! 特にカブトムシ、クワガタ、王者の心を持つ昆虫は――」


「お兄さん、田舎も虫も大嫌いだけど」


「私も大嫌いだわ……」


「……そんな苦々しい顔で言われても」


 三矢は心中でため息をつく。


(一途で、少し天然で中二病で可愛くてさらには、お兄さんのためなら自分を曲げることをいとわない……それにお兄さんのためにここまで着いてくる行動力。う、うーん、お兄さん、このままだと押される? わ、私、頑張らないとお兄さんを取られちゃうかも……)


 もんもんと考えていると、芽以が真剣な眼差しでこちらのことを見ていることに気が付いた。


「? どうかした?」


「あんた、翔さんのことは本気で好きなのよね?」


「…………」


 三矢は自分でも思うが、天邪鬼であまり他人に本心を見せるのは好きではない。いつもなら、のらりくらり、適当なことを言うだろう。


 だが――。


「好きだよ。『10年』も前からずっと……」


「ふん、そう……私は裏ボスより強いわよ?」


 芽衣は不敵にそう笑みをこぼしてスマホの地図を見ながら先に進んだ。


「…………」


(本当に厄介だなぁ……負けたくない)


 三矢は心を引き締めて、分析をし……相手を恋敵と認めた。

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