第40話 大きい家は大変です。

 それから俺は家の中に招き入れられ、客間に通された。

 客間と言っても20畳ぐらいは和室で、これは合法なのか大分謎な鷲のはく製や、虎皮のじゅうたんなど……まあ、あれだ。


 恐い人が好きそうな置物や掛け軸ずらりと置かれており、素人目でも軽く億は行きそうだと、直感で感じることができる程度にはやばい部屋だ。


 そんな部屋で俺は1人ソワソワしていた。


「…………あ、あかりちゃん、ここで待てって言ったけど……落ち着かない」


 あ、ああ……あの壺とか、間違って割ったら……俺は死ぬ。借金的に……こ、ここから逃げ出したい。

 だ、だってあかりちゃんの身内とは言え、恐い人たち? の本拠地のど真ん中だよ? 一介の大学生には手は余るし……何より――。


「や、やっぱり、三矢と芽以さんを残してきたのは失敗だったか? ああ、あいつら大丈夫か? メールは帰ってきたから、何も問題ないんだろうけど……ああ、でも、心配だ……」


 俺は部屋の中をウロウロと歩き回る。

 するとその時――。


 トントン。


 入り口のふすまからノック音が聞こえた。すると俺の鼓動は高鳴り、びくっと身体が震える。


「ど、どちら様?」


『わたくし……如月望よ』


「ああ……どうぞ」


 そう言えばここで待ち合わせしてたな……俺は知り合いの声に安堵しながら声をかける。


 すると如月さんが部屋の中に入ってくる。


「ふふっ、ごきげんよう。わたくしもここで待たせて頂いてもいいかしら?」


「ええ、どうぞどうぞ」


 如月さんは今日もビシッとしたスーツ姿で小柄だが大人の女性の魅力にあふれている。そんな女性と2人で同じ部屋にいるとか……普通に緊張する。


「ふふっ、そんなに緊張しなくていいわ。楽にしなさいな。貴方たちが今日の仕事を受けてくれて助かったわ。それにしても……ふふっ、貴方可愛いくていい子を見つけたわね」


「えっ?」


(な、何のことだろうか……もしかして……)


 俺の脳裏にはカブトムシを探しに行った馬鹿の顔が思い浮かぶ……あいつ俺の両親の指輪が絡んでる所為で今回の仕事にすごく気合入っているからな……先に如月さんと連絡とったか?


「大切にしなさいな。わたくしは貴方たちのことが気に入ったわ」


「えっと……気に入られる要素ありましたっけ……?」


 俺と三矢って指輪に釣られただけの人なんだけど……。


「ふふっ、方や両親の『遺産』を全て投げて妻を助け、方や愛のために『脅威』から旦那を護ろうとしている。いい夫婦じゃない」


「?」


 な、なんかよくわからんけど、気に入られてる?

 というか、疑問がいくつか浮かぶ。俺が三矢のために遺産を投げたのはそうだけど……


「『脅威』って何ですか?」


「ああ……あまり部外者のわたくしが言うことではないのだけど……貴方達の『親族』は貴方の想像以上に厄介なのよ。2年……いえ、正確には1年半かしら? 面倒な『事件』を起こすと思うわ」


「じ、事件……」


 というか、如月っていうめちゃくちゃ超金持ちで権力もあるんだよな? そんな家が警戒するほどの相手なのか家のクズ親族は……。あ、頭が痛くなってきた……でも、今は三矢のことが優先か。


「三矢のやつ、なんかやりました?」


「ふふっ、あの子、貴方を護るためにわたくしさえも利用しようとしてる。それがとても綺麗に見えたのよ」


 あの馬鹿、何か抱え込んでるのか? ……そう言えば随分前に三矢の父親から聞いた話だと、すぐに縁を切った俺とは違って、クソ親族たちとうまく利用しあう仲って聞いたな……


 はぁ……いきなり結婚させられたと思えば、今度は隠し事か……まったく、面倒なガキだ。


「…………」


 だけど、その面倒なガキを見捨てられるんだったら、俺はここには居ない。

 はぁ……俺も馬鹿だ。


 あいつは俺のために動いてる……なら、なおさら見捨てることなんかできない。

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