第41話 お姉ちゃんは憂鬱です。
◇◇◇
同時刻――。
翔と望がいる部屋とは別の部屋。
東村あかり(ひがしむら)は和服美人でどこか迫力があるご婦人である母親に和服の着付けをしてもらっていた。
家柄的に和服を着る機会はそれなりにあったのだが……あかりはどうも和服が好きではなかった。
それは見た目や雰囲気の問題でなく、単純に面倒くさいからだ。
「はぁぁぁ、和服なんても着なくてもいいのに……めんどくさい」
外ではお淑やかで敬語口調のあかりだが、母親の前では口調は軽く、感情も取りつくろわない感じが出ている。
「まったくあんたは! 今日、服装に気合を入れなくていつ入れるのよ! まったく、このバカ娘は、久しぶりに帰ってきたと思ったら、成長してないじゃない!」
「別にいいよ。私はこの家と距離を置いた人間だし。どーでも」
「はぁ、それはいいんだけどね。無理に継ぐものではないし。だけど、男っ気がまったくなかったあんたが大学生を連れてくるのよ……驚きを通り越して、なんか気が抜けちゃったわよ。で? いつ結婚するのよ!? あたしゃ、早く孫の顔が――」
「うるさいなぁ。さっきからそんなんじゃないって言ってるじゃん」
あかりの母は人の話を聞かずに強引に会話を進めることが多々あり、そんな時は強引に会話を切る。
すると母親も渋々と言った感じで話題を変えるというのが、東村親子の定番の会話の流れだ。
「じゃあ、あの子は誰よ? もしかして例の『取引』に関わってくるの?」
「うーん、それはそうなんだけど、ふふーん」
ここで得意げに胸を張るあかり。
可愛らしいドヤ顔だ。
「あの子は可愛い可愛い私の弟なの! えっへん」
「……あたしゃ、あんたの弟を生んだ覚えはないんだけどねぇ」
「あと妹もいるよ?」
「……あたしゃ、あんたの妹も生んだ覚えはないんだけどねぇ」
母親はため息を吐きながらあかりの着付けを終わらせた。
そしてあかりのお尻を軽くバシッと叩く。
「きゃ、な、何するの」
「はぁ、いい身体してるんだから、いい男がいるんなら、さっさと孕んできなさいよ」
「は、はぁ!? は、はら……はら? はぁぁぁぁ!?」
あかりは顔を真っ赤にしてわたわたし始める」
「ええ、あんたの顔と身体はいいんだから、さっさと襲ってきなさいよ」
「そんなこと2度も実の娘に言うことですかね!?」
「いや、あたしも高校生の娘にはこんなこと言わないわよ。あんた26でしょ? はぁぁ」
「ため息しないでよ! わ、私だって。恋人ぐらい……」
「いるのかい?」
「弟と妹が死ぬほど可愛い」
「…………ふっ」
「鼻で笑わないでよ!」
「まあ、いいわ。そんな中途半端な娘が『けじめ』を付けに来たんだろ?」
「………………」
母親の空気が呆れたものから、真面目なものに変わる。あかりも、気持ちを入れ変えて小さく頷く……意志は強く。前を向く。
「うん、まあ、いつまでも逃げてられないし」
「ずっと逃げ回っていた子がよくいうわよ。正直あんたには期待していなかったわ。あんたの子か孫に期待していたんだけど……あんたが決意したのなら言うことはないわ」
「ごめんね。ふふっ、不出来な娘で。でも、私はお姉ちゃんとして弟と妹に情けない姿を見せられないからね」
「……ふっ、だから、あたしゃ、あんた以外の子を産んだ記憶はないっての」
あかりは決意していた。
東村家、いや『東村組』の歴史にけりを付けようと……。
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