第42話 見知らぬ世界です。

「やあやあ、お兄さん! 久しぶりだね! いや~ごめんね。カブトムシでテンション上がっちゃってね! いやぁー。心配だったんだよ? 見知らぬ土地で、ざーこ、ざーこなお兄さんが寂しい想いをしてないかなっと、心配だったんだよー?」


「……このクソガキ何言ってるんだよ」


 如月さんと話してしばらくすると、三矢が1人でドヤ顔で客室に入ってきた。誰かに着付けてもらったのか、三矢は綺麗な青色の和服を着用している。


 まあ、三矢は元々顔が整っており、清潔感があるので、妙に似合っているのだが……なんでこいつ和服に着替えてるの?


 三矢はうざいが……今はそれよりも気になることが多すぎた。


「おい、芽以さんはどうしたんだ?」


「喰われた」


「俺がにこやかなうちに答えろやクソガキが」


 笑顔でそう言うと、三矢はわたわたしながら、そっぽを向いてしまう。いたずらがバレた子供みたいだ……。


「あ、あ~、まあ、あの子は『今回の件』には関係ないので、ちょっと、嘘というかそれに近しいことを言って、関係のない場所に居てもらってる……」


「嘘?」


「うん、お兄さんが和食が大好きであかりちゃんのお母さんが和食のプロで教えてもらえれば、お兄さんの心をばっちりゲットできるって。そしたら喜んであかりちゃんのお母さんのところに向かった」


「…………」


「お兄さんのために本当に健気だよね……浮気かぁ、浮気だよね。浮気だね」


 待て、今はお前の浮気芸に付き合っている暇はない。


 あ、あの、ここあかりちゃんの実家とはいえ、その恐い人たちの家の可能性が大きいんだけど……。


「ああ、大丈夫、大丈夫。そこの如月さんに芽衣さんにはボディーガードを付けてもらってるから」


「ぼ、ボディガードって……」


 俺はおそるおそる如月さんの方に向く……すると如月さんは俺を安心させるように笑う。

 その笑みにはどこか暖かさがある。


「安心しなさいな。飯田芽以さんには如月にいる『2人』の『数持ち』の1人を付けているわ。それにわたくしの警護を含めてすぐ近くにもう1人いるわ。まあ……仁義にあつい東村が一般人に手を出すのは考えづらいのだけどね」


「…………」


「だけど、先方の戦力は国家級、それに『数持ち』の中でも異質な『血刀』を前にしては保険をかけておくに限るわ」


 えっと……色々とツッコミたいんだけど……ツッコむと後戻りができなさそうな感じがひしひしとするのだけど。


 とういか、この言葉の重さ……命に関わることじゃね? これ……。

 凡人が口を挟むのがいけないことのような空気だ……そんな空気の中、三矢が口を開き、如月さんに敵意を向ける。


「別に戦争でも縄張り争いでも、好きにすればいいよ……だけど、お兄さんに危害を加えるんだったらーー潰す」


「…………いや、何でお前がガチギレしてるんだよ。それも俺のことで……普通に恥ずかしいわ」


「は、恥ずかしい!? 今は泣いて喜ぶ場面だよ!? 何でドン引きしてるの!?」


 いやだってなぁ……俺のことでここまで感情的になってくれるのは嬉しいけど……恥ずかしさが勝る……嬉しいけど。


「ふふっ、ボディーガードはあくまで保険よ。貴方達に危害は及ぶことはないわ。安心しなさいな。数持ち同士の無意味な戦争なんて東村が最も『嫌う』ことでしょうからね」


 如月は笑う。その笑みには自信が満ち溢れていた。

 はぁ、状況はわからんけど、ここまで来たら、俺の役目を果たすか……役目ってよくわかってないけど。


 それでいいの俺!? とは思うが、如月さんいわく俺は『その場にいればいい。それで如月が有利になる』とのことだし……俺が何かをする必要なんてないんだろうけど……。


 でも……なんか不安だ……。

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