第15話 落ち着いて話しましょう。平和はそこからです。

   ◇◇◇


 それから数十分後――。


「……………」


「……………」


「……………」


 三矢と芽以さんはしばらく言い合っていたが、しばらくすると互いに落ち着いたのか、俺を含めて机を挟んで3人で正座をして向かいあう。


 俺は今の状況が意味不明で、じたばたしていたが、こうやって無言になると頭も冷静に……なるような気がしないでもない。


 いや……実際、ちょっと前はどうしたらいいのかわからず、全てを忘れて酒に逃げて、意識がなくなるなるぐらい飲んで忘れたいと思っていたが、そんな逃げたいという気持ちは時間が経って落ち着いた。……いや逃げたいのは変わらないんだけど。


 三矢と芽以さんも同じなのか、落ち込みながら、居づらそうに視線を泳がしている。


「おほん、お兄さん……それで? この女は誰なんですか?」


「えっと……俺のバイト先の娘さんの芽以さんです――」


「ふん、私は雪城翔のエンゲージで結ばれた純白の花嫁、こいつの『婚約者』よ。よろしくね、娘さん?」


 芽以さんは俺の言葉にかぶせて、三矢を挑発するように言う。その言葉に三矢も挑発的な笑みで返す。


「くすっ、それはご丁寧にどうもだねぇ。私は『雪城』、雪城、ゆ・き・し・ろ、三矢だよ。くすくす、いつも『夫』がお世話になってるねぇ」


「はぁぁ!? お、夫!? それってどういうことよ!?」


「言葉通りの意味なんだよねぇ? 婚姻届け、先日出したし」


 親戚が勝手にな!

 そこは俺もまだ納得してないけどな!


「ふ、ふん、雪城翔の反応的に、それって『噂』の雪城翔の親族が勝手に出したものでしょ? そんなものは無効よ。それに闇に立ち向かう勇者である私は……」


 芽以さんは俺を見つめて、苦虫をかみつぶしたような、嫌そうな顔をしながら口を開く。


「あんたがバツイチでも構わないわ。親父の話だと、あんたはまだ童貞みたいだし、それなら聖杯の泥を啜る気持ちでギリギリ許容としましょう。感謝しなさい」


 この人は、な、何を言っているのだろうか……?


「ま、待ってください。婚約って、社長お得意の冗談だったんじゃないですか?」


「ああん? そんなことないわよ。いくら頭のおかしい悪魔に魂を売って転生したような親父でも、流石に娘の婚姻を冗談で口にしないわよ? それにあんただって了承したんでしょ?」


「えっ…?」


「くすくす、お兄さん、了承したんですかぁ? そうなんですかぁ?」


 こわっ!? 笑顔を近づけるな!!


「い、いや、待ってくれ、何かの間違いじゃ……」


「いえ、間違いないわ。証拠がある」


 芽以さんはピシャっと言い切り、スマホを取り出してテーブルの上に置く。起動しているのはどうやらボイスファイルのようだ。

 日付は3か月前ぐらい……内容は……。


『雪城きゅん、芽以と結婚しなさいよ! 芽以もその気なのよね、うふふふ、いい夫婦になるんじゃないかしら♡』


『え、ええ……、芽以さんが俺のことを好きなら、いいですけどね。美少女が嫁とか願ったりかなったりなので……ま、まあ、俺めちゃくちゃ嫌われてるんでないと思いますけど…』


「…………えっ? 証拠ってこれ?」


「私は…………あんたのことを前世の恋人が想うがごとく、その志は天使の羽! 私は雪城翔のことが誰よりも好きよ!! な、何か文句あるって言うの!?」


「!?!?!?!?!?!?!?!?」


 し、信じられない。だ、だって……めっちゃ嫌われてたよ?


「えっ? あ、あの攻撃的な態度って好きの裏返しだったんですか? い、いやぁ、まさかーあれは好きな人に向ける態度じゃないし、もしそうなら情緒不安定すぎませんか?」


「う、うっさいわね! す、好きなものは好きなんだから仕方ないじゃない馬鹿!!」


「…………」


 い、いや今の言葉をすんなり信じろって言うのは無理があるような。


「だ、だって! あんたって――年下にいじめられるのが好きなんでしょ!?!?!? だ、だから私は阿修羅さえも凌駕するように頑張ったんだけど……」


「…………はっ?」


 な、なんでそんなことになってるの?


「あ~~あ、お兄さんの特殊性癖のせいで変なことになっちゃったねぇ~~。あーあ、これどーすんのぉ。あーあ」


「…………」


 いや、どうするかだって? そんなの……俺が一番聞きたいわ!

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