第16話 JKに不能と言われる男です。

「それで? お兄さん、どうするの?」


「え? どうするって……どうすればいいの? 是非とも俺に教えて頂きたい。いくら払えばいい? 5000円までなら払う」


「お兄さん、本当に大切なことはお金では解決できないんだよぉ? うぅ、今までそのことを誰も教えてくれなかったんだね? これから1から学んで行こうね」


「ええ、雪城翔……うぅ、今までお金で解決することでしか、愛を得ることができなかったのね。悲しまなくていいわ!!これからは私が愛を教えてあげる!」


「憐れむんじゃねぇよ! 惨めになるわ! はぁ、そうじゃなくてな……」


 俺は部屋に備えつけている時計を見る。時刻は夜12時……とにかく芽以さんを家に送っていくか……社長、タクシーに詰め込めって言ってたし。


「芽以さん、今タクシー呼ぶんで準備をして下さい」


「ふんっ、私帰らないわよ? 今日はここに泊まることにするわ。親父の許可もあるんだし、いいでしょ?」


「いや……許可って……」


 ヤッていいとは聞いたけど、泊めていいとは聞いてない……。


「ふ、ふん、どうせあんたは私と結婚するんだし、いくらでもヤッてもいいんじゃない? それこそ、記憶がかすむぐらいに鮮明な夢を刻みつけながら……」


「いい訳ないじゃん! たくっ、早く帰りなよ。しっしっ、ざーこ、ざーこなお兄さんがJKに手を出す勇気なんてあるわけないじゃん。そんな勇気があるならとっくに私は襲われてるし」


「えっ……? あんた襲われてないの? もしかして、お風呂を覗かれてもいないの?」


 芽衣さんの一言に、ぴきっ……と空気が割れる音が聞こえた気がした。

 三矢は不機嫌そうにそっぽを向く……そして、芽以さんは鬼の首を取ったように得意気になる。


「ほらっ、雪城翔はあんたのことなんて眼中にないのよ。こいつの心の中の奥底、サンクチュアリの神殿にはいつも私がいる。あんたなんか、眼中にないのよ。ふっ、格付けは済んだわね」


 芽以さんの挑発じみた言葉に三矢はうつむいて肩をプルプルと震わせ、やがて顔を上げて、キッと芽以さんをにらみつける。


 やれやれ、三矢も芽以さんも所詮は感情のままに動く10代の子供か。ここは大人であるおれが冷静にこの子たちを諭さねばならない。


「違うもん!!! それは私が悪いんじゃなくてお兄さんがヘタレで不能なのが悪いんだもん!!!!!! たたないんだから仕方ないでしょ!?」


「テメェ!!! 何を大声でトチ狂ってやがる!! 不能じゃねぇよ!!」


 もう、1秒前の感情は彼方に消えた。もうブチギレである。いや、どんな悪口を言われてもいいが、不能扱いは納得いかない。


 しかし、いきなり必死に否定したせいか、真実だと受け取ってもらえず、一瞬沈黙が流れて、なんだか部屋には気まずい空気が流れる。


「…………雪城翔。い、いいじゃない。今は不能でも、私が長い時間をかけて何とかするわよ」


「お、お兄さん、ご、ごめんなさい……私、言っちゃいけないないこと言ったね。本当にごめんなさい……」


「やめろ。いや、やめなくてもいいけど、これ以上言われると本気で……泣くぞ」


 もう小学生みたいにわんわん泣く自信がある。くっ、何が面白くて、JKに不能だって言われて、変な気を使われなくちゃいけないんだよ……マジで襲うぞ。


「あ、あはは、ねぇ、芽以って言ったっけ? 早く帰らなくていいの?」


「だから、私は帰らないっての。誰が、旦那と浮気女を置いて帰るのよ。既成事実なんて作らせないわよ」


「あはは、法的に見たら、芽以の方が浮気女なんだけどねぇ~。うんうん、自分の立場がまだわかってないみたいだねぇ~~」


「…………」


 そして一向に前進しない話……はぁ、これはあきらめるしかないか……芽以さんも明日の朝には帰るだろう。


「? お兄さん、どこ行くの?」


「こんな時間に外に出るのは危ないわよ?」


「はぁ、こんな時間にここまで押しかけて来たJKに言われたくないですね……」


「うぅ、いいわ。今日のところは痛み分けで許してあげる」


「何が痛み分けなんですか……まぁ、今日泊まるぐらいはいいです」


 法的にいいのかは大分謎だが……ま、まあ社長がヤッてもいいって言ってたぐらいだから、一泊ぐらい、いいだろう。三矢もいるしな……。


「ちょっとコンビニで酒買ってくるんで、そこのクソガキと留守番しててください」


「ちょっとクソガキって何!? そういうこと言うの反対! は・ん・た・い (/・ω・)/!」


「ああ、もう! 好きな物買ってきたやるから!」


「えっ!? ほんと! 何にしようかなぁ……うん、私アイス! チョコ!」


 ほんとコロコロ表情が変わるやつだな……単純で普通に可愛いと思うのは、俺も単純なんだろうか。


「芽以さんは?」


「そ、そんな、悪いです……悪いわ!」


 ん? 今一瞬、雰囲気が変わったような……気のせいか。


「いや、今更お兄さんに遠慮しても仕方ないよ? 家に乗り込んでるわけだし」


「そ、それは……そうだけど」


「三矢の言う通りです。何なら、ハーゲンダッツでジェンガやりましょうか?」


「そ・れ・に! 三矢ちゃんのワンポイントアドバイス!!! たんたらったんんん~~~」


「変なコーナーが始まったな……」


「お兄さんはドM」


「早く買ってきなさい!! この豚!! 私はストロベリー!!!」


「手のひらの返し方がやべぇですね!?」


 そして、俺は頭を冷やす意味を込めて、1人コンビに向かった。決して酒に逃げたかったわけではない……。

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