第50話 後継者…です。
◇◇◇
翔が蔵の地下から出て数秒後――。
三矢は慌てて立ち上がって、翔の後を追おうとするが……。
「くっくくく、あなたは翔に待つように言われましたでしょ? 大丈夫、あの人は私が護る」
三矢の横を通り抜けていく南坂杏珠。
そのスピードは常人の域を軽く凌駕しており、長いゴスロリのスカートをなびかせて翔の後を追った。そのしぐさにはどこか優雅さがある。
「か、カシラ!?」
「ああああああああ! どいつもこいつも勝手なことばかりするんだからああ! 私だって怒る時は怒るよ!?」
この時三矢は愛する翔が芽以のために飛び出していった嫉妬と、外にフレアが警戒するほどの敵がいるのに飛び出ていった事実にパニックになっていた
「くああああああ! お兄さんはもう! 今出たらやばいでしょ!? 何でそれがわからないの!? ううん、わかってるっぽいのがタチが悪い! お兄さんっていっつもそうだよねぇ!? こっちの感情は置いてきぼりで、自分だけで背負い……うがああああああああああああもう!!! 私も行く!!」
「三矢さん、待ちなさいな」
叫びながら蔵を出ていきそうな三矢を止めたのは如月望だ。
望としても翔が飛び出していったのは予想外な行動だ。
(翔さんはもっと、自己愛、自己保身の強い人物だと思ったけど……そうでもないみたいね。それは三矢さんの言葉が証明してる)
「待つなんてできないよ! お兄さんは絶対に無茶するもん! あああああ! お兄さんはもうううう! いつもはざーこ、ざーこなくせにこういう、大ピンチの時だけイケメンになるのは『昔から』ちっとも変ってない」
「…………」
(翔さんの昔話か。『危険な血』を持つ彼の人となりを知れるチャンスだけど……今はそれよりも)
「フレア……この『戦場』で最適解は何かしら?」
望はフレアの意見を聞く。こと戦場においてはフレア以上に信頼できる人間を望は知らない。
彼女はいくつもの戦場を渡り歩き勝ち抜いてきて、でたらめな戦闘能力を持つ数持ちの中でも『狂人』と言われるナンバー7『デスサイズ』なのだから。
彼女の持ち味はまさに死の鎌を思わせる『暗殺術』だが、それともう1つ明確な強みがある。それはいくつもの戦場を渡り合歩くことで得た、生への活路を見出す戦術眼だ。
「……この地下室ですが、離れへの抜け道があります。そこからお嬢様たちは非難をして頂くのが最適解かと……どうもこの戦場は嫌な『匂い』がします」
フレアの言葉にあかりと、東村組の組長であり、あかりの実父でもある『東村兵介(ひがしむらへいすけ)』は小さく反応を見せる。
「抜け道のことをご存じでしたか」
「いえ、この場に来た時に気が付きました。妙な風の流れと、壁の一部のつなぎ目が不自然です……どうやら、爆薬の仕掛けもあるようですね。入ってきた入り口を爆破できますよね?」
「さすがは数持ちだ……大した危機察知と観察眼だ」
「いえいえ、私の危険察知など『死の否定』に比べれば小石程度です」
「うむ、噂の『石神』の秘蔵っ子か……なんにせよ我らはフレア殿の言う通りするとしましょう」
「ええっ!? おじさん何言ってるの!? 私はいかないよ! お兄さんを置いて逃げられるわけないじゃん!!! あの人最強の一般人ピーポーだよ!?」
「三矢ちゃん、安心して。確かに雪城さんは心配だけど……」
「あかりちゃん……?」
慌てふためく三矢にあかりは安心させるように優しくほほ笑みかける。
「雪城さんの傍には大丈夫……カシラがいる。むしろ心配するのは敵の方でしょう……敵は『死神』を相手にしているのですから」
あかりは杏珠の『力』に全幅の信頼を置いていた……それが声色に出ており、そしてその言葉には決意と覚悟が出ているようだった。
「……で、でも、お兄さんに何かあったら」
「ふふっ、雪城ちゃんは本当に雪城さんが大好きなんだね。では、私と一緒に行きましょうか。お姉ちゃんが護ってあげます」
「えっ?」
あかりは笑顔を消して、兵介の方を見る。その顔にいつもの甘さはない。
あかりは自身の方向性を示す……それはずっと否定して、避けてきた道。だけど、自分が『終わらせない道だ』。
「『最後』の『後継者』として役目を果たします……」
「ふん……今更遅いわ馬鹿者め」
兵介はあかりの言葉を待たず、隠し扉の用意をする。無表情だが……どこか重荷が下りて……満足しているようだった。
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