第51話 感触を楽しんでください。

   ◇◇◇


 俺は階段を駆け上がって、外に出た。蔵の近くに人はいなかったが……何処からともなく、金属がぶつかる音や怒号などが聞こえてくる。


 なんなら銃声みたいな音が聞こえるんだが……。


「…………はぁはぁ」


 階段を一気に駆け上がってせいで息が切れているが……そんなことは一気に吹き飛ぶような不安が押し寄せてくる


『このやろう! 何しとんじゃ! ボケがががああ!!!』


『いい度胸やのう!!! カチコミじゃ!!!!』


 聞こえてくる怒号に頭が痛くなる。


「はぁはぁ……はっ!? こ、ここは戦場かなにかか!? 早く芽衣さんを見つけないと!! いったいどこに……」


『くくっく、私が案内してあげるわ』


 俺が慌てていると、背後から、邪悪な笑い声と共に南坂さんの声がし、バッと後ろを振り返った。


「あなたの力になりたくてついてきちゃったわ。連れの女の子が心配なんでしょ? くっくく、こんな状況じゃあ、その子、泣いちゃってるかもしれないもの」


「そ、それはどうも……て、手伝ってくれるんですか?」


「ええ、翔の大切なものは私の大切なものでもあるからね。お安い御用だわ」


「…………」


 それは助かる……あかりちゃんや如月さんの反応から、この人は人間離れしてるくらい強いというのはわかるからな……。


「くくっく、なんにせよ翔と初めてのお出かけね。私、初めてって大切にするタイプなの。少し、重いとは思うけどね」


「…………」


 南坂さんは俺に無邪気な笑顔を向けてくる……こう見ると歳相応の可愛い女子だよな……まあ、こんな戦場みたいな状況で笑ってられるのが、普通じゃないのかもしれないが……。


「芽以さん? だったっけ? おそらく厨房の方にいるわ。何かあってからでは遅いし……急ぎましょうか」


 そう言いながら、どこか悪戯っぽく、ニヤニヤしながら、俺にじりじりと詰め寄って気来たと思ったら、俺のことをお姫様だっこの様に抱きかかえた。


「は、はあ!?!? ちょ、ちょっと!」


「これっ、あばれないの。くっくく、今は一刻を争うのよ? 少し、我慢しなさいよ。くっくく、こういうのを好きな人とやるの憧れてたのよね」


「わああああっ!」


 俺が文句を言う暇もなく、南坂さんは走り始める。抱きつかれたことにより、柔らかな感触と、ふわっといい香りを感じる。


(こ、この人、意外と胸大きいな……着やせするタイプかもって、そうじゃなくて! えっ? 何で俺運ばれてるの!? というかとんでもないな! この人!)


 南坂さんは息1つ切らさず、余裕の表情で走り続ける。振動をも少なく、力強い走りだ。大の大人一人を抱えてるとは思えない。


「翔。私は怒ってるのよ」


 そんなことをごちゃごちゃ考えてると、南坂さんが話しかけてくる。その声には言葉に表したように確かな怒りがあった。


「えっ? お、おれがおっぱいの感触を楽しんでるからですか?」


「……それは好きなだけ楽しんでもいい」


 あっ、ちょっと照れてる……。


「はぁ、じゃなくて、芽以って子をあなたは護りたいんでしょ? 奴らはそんな翔が護りたい人を危機に陥らせてる……くくくっ、どう料理してやろうかしら?」


「…………」


 い、いや……味方としては凄まじく頼もしんだけど……味方になってる理由がファンタージーだから、恐いんだけど……。

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