第52話 雪城との交渉

   ◇◇◇


 数秒後――。


 俺は南坂さんにお姫様だっこをされたまま、厨房に到着した。


 そこには親族の一人である、雪城雷蔵と軍人のような筋骨隆々の外国人が4人いた。

 そして外人たちが壁のように立つ奥には……なぜか偉そうに不機嫌そうに腕を組んでいる芽衣さんと上品そうなご婦人がいた。あかりちゃんのお母さんかな?


「……………………」


 待て待て待て待て、なんだこのツッコミどころの多すぎる状況は……。


 何で俺の親族の中でも筆頭のクズであるジジイがここにいるんだ? それに明らかに人質になっている芽衣さんが怖がるわけでもなく、妙に不機嫌そうなのが気になる……。


「やっと来たわね……」


 その時、芽衣さんが吐き捨てるようにつぶやく。

 え、えっと……この状況だと俺のせいで人質になってるのを怒ってるのか?


 あ、ああ……何となくわかった。雪城のジジイは特別金に鼻が利く……大方俺のよくわからん血を求めてやってきたってところか?


「ふん、雪城翔。私が怒りに震えている理由が気になるようね。ナイアガラの滝のように美しい精神を持つ私が、特別に教えてあげるわ!」


「お、おう……」


 この人、人質になってるんだけど……なんで偉そうなんだ。


「1つ目は無様に人質になった自分への煉獄から煮えたぎるような呪いよ! 愛する人を危機に落とし入れておいてなにが妻よ! これが最善だったとしても! ああああああああ! 私がスーパーサイヤ人だったら、ここの外国人たちをバッタバッタ倒せたのに!!!!」


「………………」


 この人、本当に人質だよな……?

 ジジイも外人たちもなんか疲れてるように話を聞いてるし……あの偏屈ジジイを疲れさせるとか地味にすげぇことだからな。


「2つ目は!!!! 何よそんな女は!!!」


 今も俺のことをお姫様抱っこをしている南坂さんを指さす。どういえば……おっぱいの感触を堪能中だった……


「あ、ああ……南坂さん、もう下して頂いて大丈夫です」


「はぁ、そうね。あの人質さんに絡まれるのは面倒そうだし」


「あん? あんた私のことを面倒だって言った?」


「はいはい、今下すわよ」


 南坂さんは芽衣さんの言葉をさくっと流すと、俺のことを下して、雪城のジジイに向かい合う。

 その瞳に優しさ……いや、人間としての感情はなく、ロボットの様に感じた。


「さて……東村に土足で上がり込むだけで重罪なのですけど……目的は翔ですか?」

 

 口調にも感情が乗っておらず、淡々と喋る。

 直接話しかけられていない俺も、背筋が凍るような恐怖を感じた。


 だが、雪城のジジイはそれにひるむことなく、口を開く。


「ああ……そやつは我が一族のほこりだということがわかってのう」


「どの口が言うんだよ……俺の事を迫害しまくってたじゃねぇか」


「へぇ、貴方様は翔を迫害していたんですね……万死に値します……」


 あっ、これ止めないやばい奴じゃね? こ、この人、生物兵器みたいな人なんでしょ?


「ま、待ってください! お、俺の身内なんで俺と話をさせてください! それにここで戦ったら芽以さんとご婦人が危ないでしょ!」


「…………私は好きな男を危険にさらされて温厚でいられるような、女じゃないわ。この場にいる『天血』を持った翔を除いた全員を『血刀』で切り裂きたい気分だわ。ふふっ、安心して私の『血刀』で生物の命を奪うことはできないから、あなたの大切な人は無事で済む。まあ、吐き気と眩暈には襲われるでしょうけど」


「…………」


 あっ、これ詰んだんじゃね?

 俺じゃ止められないっぽい。あ、あ~、目の前の外国人たちは軍人上がりっぽい雰囲気だけど、この人の前だと迫力負けする……こ、この人ならセルにも勝てそうだもん……。

 というか、南坂さんに怯えてないか?


「ふっ、あんたの血刀とこのお嬢さんに致命傷を負わせるのどっちが先かな? それに……この外国人たちは『博士』の『改造』を受けている……試してみるか」


「……ここに来ているのは『博士』ですか……確かに厄介ですが、安い脅しには屈しないです。私が負けを認めても、人質を解放するという根拠が乏しいので」


「………………」


 数持ちうんぬんはわからんが……このジジイは利益のためなら、人の命なんて無視する。ここのベストは……


「わかった、クソジジイ、俺がついて行けばいいのか?」


「……正気で言ってるの? 貴方、いい扱いはされないわよ?」


 南坂さんはチラッと俺を見る。その瞳には心配の感情が読み取れた。まあ……そうだろうな。俺の血が珍しいのなら生きたはく製にされる可能性さえある。まあ……自分のせいで芽以さんが無事ならいいだろ。


「……震えてるけど、カッコつけてもいいことないわよ?」


「はん、ここでカッコつけないでどこでカッコつけるんですか。俺はイケメンでも高身長でもないですからね。カッコぐらいつけないと――」


「ちょっと! 雪城翔! 貴方はイケメンよ! って、違う! そんなの許さないわ! そこの貴女!」


 俺の言葉を遮るように芽衣さんが叫び、南坂さんの方をみる。


「あんた数持ちっていうインチキ集団でしょ!? 私のことはどうでもいいから、この場のやつらを地獄に落としなさい!」


 芽衣さんの叫びに同調するようにおばさんが口を開く。


「……ふっふふっ、面白い子だねぇ。あたしも同じ意見だ」


「くくくっ、面白い子ね。安心しなさい、翔」


「いやいや、何であんた達テンション上がってるの!?」


 ま、まずい、このままじゃ――。


『お兄さん!!!!!!!! 私が浮気現場にやってきたあああああああああ!!!』


 このカオスな状況で三矢とあかりちゃんが厨房に飛び込んできた。

 お前は状況をカオスにする天才なの!?

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