第53話 浮気現場は抑えてなんぼです。
「浮気現場というのは現場を押さえてなんぼ……お兄さん、今日夜ベッドの上で、わかってるよねぇ?」
「お前! 少しは空気はよめや! 空気はこの世で生きていくための最も大切な力だぞ! お前にはそれが徹底的に足りていない!」
「うっわ、あーあ、ざーこざーこなお兄さんだけには空気を読めないとか言われたくなかったねぇ。一番空気読めてないじゃん。自己犠牲の精神なんて流行らないよ~?」
「翔さんが悪いわけないじゃない! あんたが全部悪いわ! ただ、一番悪いのはおめおめと人質になった私よ!」
「あーあ、芽以ちゃんまでそんなこと言うんだ。お兄さんを甘やかさない方がいいよ? 調子に乗る天才だし。今だって自分のことも考えないで、こんな危険な場所に来ちゃってるし」
「それこそお前に言われたくねぇわ! お前だって自分1人で背負い込もうとしてただろ! 大体お前は――」
『おほん……』
「くくく、仲が良くて羨ましいわね」
俺と三矢と芽以さんが状況も考えず子供がやるようなレベルの低い言い合いをしていると、あかりちゃんの冷めたような声が後ろから聞こえる。
あかりちゃんの恐さを知っている3人は一瞬で黙り、身体をビクッと反応させる。あ、ああ……俺と三矢はもうすっかり教育されている。
というか、三矢が心配だったから、ちょっと我を失ったが……めっちゃやばい状況だった。南坂さんがジジイににらみを利かせてなかったらと思うと、怖い。
「可愛い弟と可愛い妹達が夫婦喧嘩しているのはお姉ちゃんとして、悲しいんですよ」
さ、さいですか……ま、まあ、いくら空気の読めない俺らでもあかりちゃんに逆らうことはしない。それは三矢と芽以さんも同じようで壊れたおもちゃの様に首を縦に振っている。
すっかり教育されてる……。
「さて……可愛い兄妹たちと戯れはここまでしますか」
「ふん、あたしゃ、あんたの妹も弟も生んだ覚えはないんだけど……」
「お母さんは黙ってて」
あっ、やっぱり、あかりちゃんのお母さんなんですね……どうりでお美しい。
「はぁぁぁぁ、まあ、不良娘が覚悟を決めて来たみたいだね……」
「不良娘って……家を継ぐ方が不良じゃない?」
「かっかかか、そりゃそうだ」
「呑気に笑っちゃってまぁ……でも、結果は何にしろ、これからの人生への『覚悟』は決まったかな……可愛い弟の面倒をカシラだけには任せておけないし」
「くっくく、私はそれでもよかったのですけどね」
あかりちゃんの空気がいつも以上に柔らかい。言い合ってはいるが、どこか温かみを感じるような会話だ。
だが、その温かみから、どこか『重さ』のようなもの感じる。
「あ、あかりちゃん……?」
「ふふっ、お姉ちゃんは弟のことはなんでもお見通し何です♪ 雪城さんを1人行かせることなんて絶対にさせないですから」
あかりちゃんは笑顔を浮かべて、雪城のジジイの前に立つ。
「貴方が今回の事件の首謀者でしょうか……? 察するに雪城家の当主ですか?」
「うむ……こちらの素性は既にお見通しか。わしは雪城雷蔵……」
「私は……16代目東村組組長――東村あかりよ」
俺には深い事情は分からないが……ここに来た時のあかりちゃんには確かに迷いがあった……だけど、今のあかりちゃんの瞳には迷いが一切なかった。
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