第7話 お姉ちゃんは頑張ります。
◇◇◇
同日、午後3時――
東村あかり(ひがしむら)、26歳は慌ただしく自分の家のキッチンをパタパタと歩いており、1DKの1人暮らし用の部屋には美味しそうな香りが充満していた。
3口コンロにはそれぞれ鍋やフライパンが熱されており、数人分の料理の調理中だった。
メニューはハンバーグ、カレー、から揚げと若い子が好きそうなメニューばかりだ。それでいてサラダやみそ汁、五穀米なので栄養のバランスを考えている。
この料理は1人暮らしのあかりが1人で食べるわけではない。
「えへへ、雪城さんと雪城ちゃん、喜んでくれればいいですけど。学生さんだと、食費とかもきついだろうし、2人とも料理はできないって言ってたから……」
そこまで自分で呟いて少し不安になる……。
そう料理を作ってはいるがいくつか問題がある。
まずはあかりは異性に料理を作ったことがない……というか、仕事以外で遊んだことも稀だ。あかりは元気で気が利いて、学生時代モテるのだが『家庭事情的』に彼氏どころか、仲のいい友達すらいなかった。
そんなあかりがご飯のお裾分けなんて言う高等テクニックができるのか……。
「いやいやいや……雪城さんは雪城ちゃんとご結婚されているわけだし、そういう気持ちはない。でも、事情があるみたいだし、互いに好き同士なんですかね……うぅ、2人とも若いのに苦労されて可哀そう……うん! 私が助けてあげないと! 2人のお姉ちゃんとして!」
それは本心だ。あかりはもう2人のお姉ちゃん気分だ。2人のために何かしたくてしょうがなかった。あかりは……一度気に入った相手には依存しやすい。
まあ、そこまでのハードルが完全に隠れ人見知りのあかりの感覚なので、決して低くはない。翔は本人が『知らず知らずのうちに』そのハードルを超えていた……
「えへへ、2人のお料理作って、お休みはお掃除と、それから、あっ、お小遣いもあげたいなぁ。雪城さんも雪城ちゃんも可愛いから、何でもしたくなっちゃいます♪ 雪城さんは『やっぱり』いい人だし、雪城ちゃんは優しいですし♪」
そしてハードルを超えたら、この通り、デレデレである。
もう前の飲み会が楽しくて仕方なかった。
「あ……で、でも……いきなり持って行って迷惑じゃないかな? お母さんは大丈夫だって言ってたけど……」
実は翔には連絡をしていない。というか、電話番号を知らない……知っているのは家の場所だけという不思議な状態だ。
そして、昨日夜に親から電話がかかってきて、お客さんと仲良くなったと話したら……
『あんた男と仲良くなったの!? よし、あんた料理得意でしょ!? 明日作って持っていきなさい! 迷惑? ないない、大学生でしょ? 私に似てあんた男受けする容姿だし……はぁ、何で、それなのに、今まで彼氏の1人も連れてこないのよ……だいたい、あんたは――』
と、話が長くなりそうだったので、速攻切ったのは秘密だ。まあ……断られても、最悪冷凍できるものが多いし、無駄になることはないだろう……悲しいが。
「…………でも、手作りの料理だけを届けるのはなんか勘違いされるかな? 新婚? なのに……雪城ちゃんに喜ばれるものも用意できれば……うーん、でもあんまり今日は時間ないしな……」
問題の1つが今日は夜勤だ。
夜8時からのシフトなので、料理を届けるだけなら、そこまで気にする必要はないのだが、今から買い物に行くのは、料理する時間を考えてギリギリなってしまう……。
「あっ! そうだ! 確かホットケーキ粉があったからそれも焼いて行こうかな? えへへ、雪城ちゃん甘いもの大好きって言ってたし、喜んでくれるかな?」
あかりは2人が喜んでくれることを妄想しながら、鼻歌交じりで料理を続けていった。
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