第33話 逆転の星、それは中華です!
◇◇◇
同時刻――。
都内にあるマンションの一室――。
ここはオカマ社長として冷凍食品業界でも有名な『飯田権蔵(いいだごんぞう)』の事務所の1つで2LDKのマンションだ。
権蔵は都内でいくつか部屋を借りてそこを事務所としており、夜の時間は時折、社員のドライバーの仮眠室にもなっていた。
今日は夜間作業はなく、事務所には社長の娘である『飯田芽以』1人がいて……。
「ああ……もう! また失敗! な、何で上手くいかないのよ……」
広めのキッチンで頭を抱えていた。
テーブルには中華料理を基盤とした品々が所狭しと並べられていた。
エビチリ、麻婆豆腐、チャーハン、バンバンジー、よだれ鳥、その他もろもろ……軽く5人前ほどはある。
見た目は豪華で、食器類も気合を入れているので、どこかのホテルで出てきそうレベルだ。
「はぁ……食べれない程ではないけど……味はスーパーのお弁当レベルなのよね……とてもじゃないけど、あの人に胸を張って出せないわよね……はぁ、この料理はとりあえず冷凍して、親父の弁当にしよう……ああ、当分中華ね……」
芽衣はため息をつきながら、お皿から用意したタッパーに料理を詰めていく。その際に今日食べるだけは別にしていく
「はぁ……翔さんに早く振舞いたいな……」
そんなことを考えていると先日の翔の家での出来事が頭に過る。あろうことか深夜に家に乗り込んで、無理やり泊まり込んだ記憶が……。
「~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」
顔が赤くなり、あまりの自分の馬鹿さ加減に頭が痛くなる。穴があったら、入って数日間は誰とも話さない、暗闇の世界にいたかった。
「はぁぁぁぁぁぁ、私は何で翔さんのこととなると、こうもう月の女神にも中指を立てるぐらいの反抗期になるのかしら……い、いや、でも、翔さんの好みに合わせた結果なんだから多少は仕方ないんだけど、でも、でも、あそこまで、きつく言う必要なんてどう考えてもないし。ああ、翔さんを前にすると、頭が真っ白になるから! ああでもでも、結婚してもキャラ作らないと喋れないとか、ありえないでしょ……はぁぁぁぁ」
また深いため息をする芽以。完全に恋する乙女だ。
芽衣のこの恋は『2年前』から始まっている……それから空回り続けていたのだが、芽以は今のままでいいと思っていた。
漠然と、いつか、この想いを翔に伝えて、やがて結ばれたいと願っていた。
しかし――。
「ま、まさか、いろいろすっとばして結婚するなんて。どんな神に依り代にされればそんな奇跡が起こせるの? しょ、翔さん、女っけなかったじゃん……ま、まさかここでラグナロクが起こるなんて想像もつかなかった……しかも相手は超美少女と……も、もう、結婚してるんだから無理かもしれないけど……そう簡単には諦められない」
芽衣の想いは強い。
はい、そうですか、とは諦められない。
(……翔さんもあの結婚には納得してなかったぽいし……なら、まだ私にもチャンスがある筈。なら……!)
だからこそ、芽以は――。
「まずは料理! 本格的な中華の満漢全席で翔さんの胃袋をハンドクローする! そして、ちょっと気になる女の子ぐらいに格上げされるぐらいには」
料理を取り組み始めた……そして、社長の食事は当分中華漬けになるのだった。
◇◇◇
数日後の休日の昼間――。
芽衣はこの日、独学で勉強してきた料理の腕前を見せる気でいた。あれから、あらゆる中華の料理動画や本を見て、勉強し、実践もして、腕を開けた。
そのおかげで社長と芽以のご飯は3食中華になっているが……それはまた別の話だろう。
「はぁぁ、翔さん、喜んでくれるといいけど……ま、まあ、大丈夫。ネットの知恵袋で相談したら『女子校生がご飯を持っていけば深夜の3時に持って来られても怒らない!』って書いてあったし……」
自分に厳しい芽衣としては正直まだ、翔に出せるレベルではない……もう少しじっくり練習を重ねて、それこそ高級店並みの実力をつけるつもりだったが……簡単に言うと我慢ができなかった。翔に早く手料理を振舞いたかった。
(ま、まあ、今回はあくまでファーストブレイクエクスプロージョンよ。あくまでこれは伏線……このあと、神すら超える次元進化をして翔さんを驚かせるんだから)
緊張した面持ちで家のチャイムを鳴らす。
一応、今日来ることは伝えてある……昨日電話で……。
『あ、明日、翔さんの家に行ってもいい!? い、いいわよね!』
『えっ? あ~11時ぐらいならいいけど、明日は――』
『いいの!? ふ、ふん! ならドラゴンを討伐する剣を装備してジャイアントキリングするから、待ってなさい!』
『あっ……っちょっと』
という会話が繰り広げられた。
(冷静に考えたら強引過ぎだったかしら……うぅ、またやっちゃったった私? はぁぁぁぁぁぁ……勝手に料理を作ってきて迷惑だよね?)
料理を持ってくることはあえて言ってない。サプライズにした方がよろこんでくるかなっ?……と、甘い考えを抱いていたからだ。
「…………」
(ま、まあ、いらないって言われたら、お料理は持って帰ればいいし……だ、大丈夫よね? うぅ、やっぱ昨日電話した時に言えばよかったかな? う、ううん、こんなことで怯えていたらあの女には勝てないわ! ここは自信満々、竜の極みを纏う覚悟で行くのよ)
『ピーンポーン』
芽衣は意を決してチャイムを鳴らす。
心臓の鼓動が自分でわかるくらいバクバク言っているのがわかる。せっかくお洒落をしてきたのに、うっすら汗もかいてきた。
(お、落ち着きなさい……冷静に冷静に。ただ料理を食べてもらうだけなんだから、大したことはないわ。冷静に冷静にただの一辺の油断もなく、刺すように……)
と、心の中で意味のわからない呪文を呟く。
……芽以は一点失念していた。 第三の勢力の存在を……
『はーい! 今開けまーす。』
(うん? あの女の声じゃない?)
扉が開かれるとそこには可愛くも大人の雰囲気を持つエプロン姿のあかりがそこにいた。
「わあああ、貴女が飯田ちゃん? わああ、可愛いい!」
「…………」
あまりの出来事に思考が停止する。
三矢がで迎えるのなら、正直嫌だが……そういうこともあるだろう。
だが、ここで他の女が出てくるとは微塵も考えていなかったので、思考がなかなか再起動しない。
そんなか、あかりは芽以が緊張していると考えたのか、優しくほほ笑む。
「私は雪城君のお姉ちゃんのあかりです♪ よろしくね」
(お、お姉ちゃん? でも翔君のことを雪城って呼ぶの? うん????????)
芽衣の思考は中々普通には戻らなかった……
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