第32話 過去の自分よりもです。
「この指輪は……」
「い、いや、知らん……はぁ、如月さん、こんな高そうなもの受け取れないですよ」
俺はとっさに知らないふりをする。
三矢には引き取った際にこの指輪を手放したことは言ってなかったからな……半ば三矢に脅されたとはいえ俺が決めてやったことだし、わざわざ恩着せがましく言う必要もないだろう。
それに……
(……如月さんがなんでこの指輪を持ってるのか? とか、なんで俺に返すのか? というか、なんで指輪をクソ親族に渡したことを知ってるんだ? とか、いろいろ疑問はあるけど……これはさすがに受け取れんだろう……数千万クラスの指輪だしな)
俺がそんなことを考えていると、隣から大きなため息が聞こえた。
「はぁぁぁ、お兄さんは……まったく、面倒な性格なんだから。私なんかの為にそんな高そうな物を渡しちゃなんて」
「…………えっ?」
「如月家の人が会いに来てこのタイミングで指輪を渡すのもなんか変な話だし……何よりもお兄さんの反応でバレバレでしょ」
「…………」
どうやら、俺の考えなど三矢にお見通しのようだ……こいつ、普段は狂った言動が多いけど、地頭はいいよな。時々めっちゃ察しがいい。
……本当にその察しの良さを自分のために活かせばいいのに。ただの馬鹿だ。馬鹿。フォローもできな程の馬鹿だ。
「……お兄さん、人の顔を見て憐れむような視線を送るのを辞めてもらってもいいかねぇ?」
「いや、馬鹿だな……こいつ。って、心から思って」
「声に出して言えって意味じゃないよ!? お兄さんのばああああかあああああああ!!」
いや、お前に言われたくない。まあ、なんにせよ……。
「如月さん、これは受け取れませんよ。受け取ったらこの馬鹿をなんのリスクもなしに、引き取ったことになる……それは過去の自分を否定するみたいで嫌なんですよ」
「……このお馬鹿お兄さんは何でライトノベルの主人公みたいなことを言ってるんだろうねぇ~。ふん……本当にお馬鹿」
「ふふふっ、私もそうね……人生苦労しそうだとは思うわ」
いや……2人そろって手のかかる子供を見るような目で見られても困るんだけど……普通に恥ずかしい……まあ、本心だしいいか。
「えっと……まあ、そういう訳です。悪いけど、これは受け取れません。いきなりもらうものにしては金額がでか過ぎますし」
如月さんには悪いがこっちのうまみが多すぎて、悪徳商法にしか見えない。絶対に何か裏があるだろこれ……。
と、警戒をしていると……。
三矢が何かを考え込んでいる。その表情は真剣だ……まあ、如月家に不信感があるんだろう。
「…………」
「ふふふっ、まあ、その警戒は当然ですね。いきなりものを受け取れと言うのが無理があるわね……ただ、こちらに悪意はないわ……と、言ってもそれを証明できないわね。まあ、慌てる必要は…………」
「いえ、お兄さん、仕事を受けて、その指輪は頂きましょう」
「えっ?」
「ふふっ、そう……」
「待て待て! い、いいのか!? はっきり言ってクソ胡散臭いぞ!?」
「うっわ、お兄さん、本人を前によく言うね」
「うるせぇ! このクソガキ、何で自ら騙されに行くんだよ!」
「大丈夫、大丈夫、指輪を取り戻しても、私はお兄さんの物だから♪」
「そんな心配はしてねぇよ!!!」
「ふふっ、わたくしとしては仕事を受けてくれるのは嬉しいんのだけど……まっ、2人で話し合いなさいな。言っておくけど、危険な仕事はさせないわ、『ある人物』との契約を成立させたいだけなの。貴方たちにはその交渉手伝ってほしいわ」
「受ける!!!」
「黙れ、このクソガキ!!」
くっ、こんな美味しい話には絶対裏がある。指輪、数千万だぞ……。
ああ……俺は果たして三矢の馬鹿を説得できるんだろうか。
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