第12話 裸では困ります。

   ◇◇◇


 バイトが終わり22時過ぎ、俺は家に向かって歩いていた――

 俺はあのあと社長に事の顛末を話した。


 俺と三矢の親族のこと。

 それが縁で女子高生である三矢を引き取ることになり、これから一緒に暮らすことになったこと。まあ……さすがに結婚のことは言わなかった。


 いや、だって頭おかしすぎるし、俺もまだ認めてないところもあるしな。

 で、俺の話を聞いた社長の反応だが……


『わ、わおー、あらあら、雪城君はとんでもなくお人よしさんね。はぁ、その子のことを優先したくなるのはいいけど、自分のことは一番に考えなきゃだめよ? あんたってその辺りの境界線があやふやになるから心配だわん』


 と、本気で心配されてしまった……。

 そして……。


『そうねぇ~、少し時間貰ってもいいかしら? いいアドバイスができるかはわからないけど、一晩考えてから、お話させてもらうわ。『この件』は適当なことは言えないもの』


 と、真剣に考えてくれるようだった。

 巻き込んでしまい申し訳ないという気持ちもあるが、現役の父親の意見をきけるのはありがたい。もしかしたら、年頃の娘と一緒に住むコツ? とかわかるかもしれない。


 はぁ、正直言えば三矢ほどの美少女なら満更でもないのだが……俺結婚する予定どころか、今後も彼女できるかもわからないんだし……。


 そんな中で急に出て来た三矢の存在だ。まあ、三矢も頭がおかしいことを除けば、超絶美少女だ……数年後に俺好みのセクシーな女性になるだろう……。


 はぁ、でも……俺はいいとしても、三矢はなぁ。俺なんかと結婚して、人生台無しする必要なんてないのになぁ……はぁ、一回三矢とは腹割って話さないと……。


 と、そんなことを考えていると、自分の家のマンションの前までやってきた。

 俺の部屋は二階で、電気がついている……あいつまだ起きてるのか……まあ、16なんだから普通か。俺が高校の時は夜遅くまでゲームしてたし。


「はぁぁ、あいつと少し話してみるか。俺も三矢も細かいことは気にしない性格っぽいから、このままだと、ずるずると結婚のことがなあなあになりそうだ」


 俺は軽くため息をして階段を上り、廊下を通り、自分の部屋の扉を開ける。


「ただいまぁー」


『あっ、お帰りなさい、少し遅かったねぇ~、お仕事、大変だったの?』


「…………」


 俺の家は広めだとは言え、1DKなので、玄関から部屋の全容が見える。トイレも風呂場もだ……そのせいで湯上りでバスタオルを手に持って、前だけを隠した三矢と目が合う。


 言葉を失う……今俺の目の前に現役JKの裸があるのだ。う、うむ……こいつ顔は幼い癖に、胸は大きい……それなのに腰回りは引き締まっている。


「あ、あはは、そんなにマジマジと観察されるとさすがに恥ずかしいんだけどねぇ~。あーあ、お兄さんって、ざーこざーこだからなぁ。仕方ないのかなぁ?」


「いやお前……こういう時って『きゃあああああああ!! 変態! エッチ!』って言って、風呂場に戻る場面じゃね?」


「えっ? お兄さん、そういう子が好みなの? あー、童貞だとそういう発想しかないのかぁねぇ~。私、結構余裕しゃくしゃくだけど……ねぇ? 恥ずかしがった方がいいなら、テイク2やるけど、どうする?」


「いや、必要ないだろ……」


「くすっ、でも、お兄さんが求めてる反応できると思うよ?」


「………………」


 ニマニマと悪いながら俺の反応を楽しんでいるような視線を送ってくる三矢。ど、どうやら、この手の話題では負けのようだ。


「くそ、お前はビッチかよ」


「はあああ!?」


 俺が吐き捨てるように言うと、さっきまで楽しそうだった三矢がキッとにらみつけてくる。どこかいじけたような表情に罪悪感を感じるが……いや、俺も童貞扱いされたし、お相子だろ。


「お兄さん、その勘違いはショックだよ!? あーあ、傷ついた、傷ついちゃった。私、男の人に裸を見られるどころか、手を繋いだことすらないのになぁ。あー、精錬淑女である三矢はとても傷つきました」


「はぁぁぁぁ、精錬淑女? さん、わかったから。早く服を着てくれ」


「えええー、いいじゃん、お兄さんしかいないんだし!」


「ああああああ! 何が精錬淑女だああああ!!」


 今度は俺が吠えた。

 童貞の前にずっと裸を置いておくんじゃねぇよ!! だいたい――。


 ピーンポーン。


 その時チャイムが鳴る。えっ? この時間に来客? さ、騒ぎ過ぎた? でも今は窓閉めてるし、このマンション壁厚くてお隣さんは夜勤だから、さっき程度だとクレームなんて来ないはずだけど……。


「ん? あれ? お兄さんのお客さん? わ、私、着替えてくるね! お兄さん以外には裸見せる気はないし!」


 俺はドキッとする台詞を言いながら風呂場に引っ込む三矢をしり目に、部屋に備え付けられているインターフォンまで歩み寄り、受話器を取る。


「えっと……どちら様?」


『……っ! 雪城翔! あんたってやつは……!!! 早く、扉を開けなさい!! じゃないとこの扉をのこぎりで切断して、ゴジラの餌にするわよ!!』


「…………」


 強気でハキハキとした物言い、なのに声質はアニメ声で可愛らしい。聞き覚えのある声だ……ん? な、何で、こんなに時間に『社長の娘』が俺の家に来てるの?

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