第11話 うちの社長は最強ですよ。

   ◇◇◇


 それから家を出て、バイト先に来ていた。


 俺のバイト先は社員20名ほどの小さな冷凍食品の販売会社だ。このバイトを始めたのは大学1年の時なので、もう3年近くになり、仕事内容は夜間走るトラックの納品物データをまとめるパソコンの入力作業だ。


 パソコンの入力作業は得意だ……高校の時、家庭事情がバレて同級生から距離を置かれていて、パソコン室だけが憩いの場だったからな。

 こんなふうに役に立つとは思ってなかったけど……。


 今日のシフトは22時までで、この仕事のいいところは時給がそこそこ高いのと、何より夜番は俺と社員が1人だけなので、人とあまり話さなくていいことだ。


 ひたすら10畳ほどの事務所で品名と数字を打ち込む自分の作業をこなす。うん、こういうのは俺にあっている気がする……。


 と、穏やかな気持ちで仕事をしていると……。


「うふふふ、お疲れ様? 雪城くん、うふふふふ、調子はどーう? 肩とかこってなーい? 雪城くんのためならあたし、頑張っちゃうわー。うふふふ、アソコを揉むのも、うまいわよ?」


「…………」


 40代ぐらいの筋骨隆々のお姉口調の男がその太い指でハートを作って上下に振りながら、事務所に入ってきた。

 頭はモヒカンで、タンクトップに下は作業着……なんというか、見た目は完全に近づきたくない人だ……。


「はぁ~、『社長』。セクハラで訴えますよ?」


 そう、この人は……信じられないが、この会社の社長だ。

 最初の面接姿を見た時は『完全にヤられる』と思ったが……話してみると、いろいろと面倒を見てくれる気のいいおっちゃんだ。


「んんん~~。雪城くん何かいいことあった? 先週お仕事で会った時は『痴漢冤罪にあった! 面接落ちたぁ! この世の終わりだぁぁ』って、死にそうな顔をしてたのに。自棄ぇ?」


「違いますよ……それ以上に厄介なことが起こったので、もう一周まわって面白くなっているだけです」


「えっ? それ異常の厄介なことってなによん! あたしに教えなさいよ! あたしなら痴漢冤罪の時みたいに、また解決できるかもしれないわよん!?」


「あっ……あの時はありがとうございました」


 俺は痴漢冤罪で多額の慰謝料を請求されていたのだが……どうやったかは教えてくれないのだが社長が一発解決してくれたのだ。

 本にいわく……『うふふふ、人間って、話せばわかってくれるのよん? 1時間くらいお話をしたら、あっさり引き下がったわよん?』らしい……。


 ま、まあ、社長の容姿で詰められて1時間もったのは称賛に値するだろう。


「うふふふふ、いいのよん。あたしと雪城君との仲じゃない? 就職先もうちに就職しなさいよ? 特別待遇しちゃうわよ? うふふふ」


「いえ、それはお断りします……」


 俺は経理関係の書類もまとめているので、この会社の内情は知っている。仕事内容的に社員を増やす必要がない。


 まあ、俺もそこまで甘えるのはどうかと思うしな。


「もうっ、雪城君ったら、優しいんだから♪ 惚れちゃいそう……って、いけない、いけない、今は雪城君の話だっわねぇ?」


「……そうですね。社長って、芽以(めい)さんと仲はどうですか?」


「ああ、仲いいわよん? 今、雪城君のお嫁さんにするために修行中よん♡」


「いえ……」


 芽以さんとは社長の高校生の娘さんだ。


 正直言えばこのオカマ……じゃない社長の娘さんは超絶美少女なので、社長の言葉はまんざらでもない。まあ、何故か俺めっちゃ嫌われてるけど……会うたびに社長のいないところで、いびられてるし。


 なのに社長はやたら進めてくるんだよな……芽以さんめっちゃ嫌そうなのに。あれは普通にショック。


「芽以がどうかしたの? 結婚する気になったのん?」


「…………」


 まあ、雇い主に三矢のことを隠してると、後々面倒なことになりそうだし、高校生の娘がいる社長なら、三矢との付き合い方について、適格なアドバイスをくれるかもな。


(正直……三矢とこれからどう付き合ったらいいかわからないしな。俺の手に余る……というか、童貞に解決できる問題じゃねぇよな……)


 俺はそう思い立ち、社長に報告がてら、相談してみることにした。

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