第10話 とりあえず働いてから考えます。
『えへへ、2人のためにたくさん作ってきました♪ あっ、冷凍できるお料理も作ってきたので、明日も食べてください。たまにならいいですけど、あんまり、ジャンクフードばかり食べたら駄目ですよ? あっ、図星ですか? ふっふふ、お姉ちゃんは全てをお見通しですよ?』
あかりちゃんはその後、仕事と用事があるらしく冷蔵庫に料理を詰め込むと、満足げに去っていった。終始楽しそうで、見ていると気持ちのいい笑顔だ。
なんだかんだあったが……俺たちが喧嘩しなければ優しいお姉ちゃんだ。まあ……なぜあかりちゃんが俺たちの『お姉ちゃん』になっているのかは永遠の謎だが。
いや、飯はめちゃくちゃ美味かったので、感謝しかないのだけど……。
「お兄さん、そろそろ出ないとまずいんじゃないの~? 遅刻しちゃだめだよ~?」
考え事をしていると、洗い物をしてくれていた三矢が声をかけてくれる。時計を見ると18時過ぎ……そろそろバイトの時間だ。
めんどくさいが、人間は働かないと飯を食うこともできない生き物なので、ここは素直に社畜になるしかない。
「はぁぁぁぁ、めんどくさ。おい三矢」
「ん? なぁに?」
「バイト行ってくる。多分帰りは……今日『社長』に飲みに誘われてたから、夜12時近くになるから、先に寝てろ」
「う~ん、寝てるかはどうかは私の気分次第だけどねぇ~。まあ、私は孤独を愛する迷宮のヒロインの如く、家事でもしながら、ダーリンの帰りを待っているよ」
「ダーリンはスルーするとして」
「スルーしないでぇ―」
「家事って……お前、できるのか? 無理しなくてもいいぞ?」
確かに洗い物は手慣れた感じがするけど……。
「まあまあ、私も何もせずに居候するのは心が痛いのだよ。ざーこ、ざーこのお兄さんをダメ人間にするぐらいの快適家事スキルは持ってるんだよねぇ。えっへん」
「…………いや、普通に洗濯機とか破壊されても困るんだけど」
「まさかの家具の心配!?!? むぅぅぅぅぅぅ、そんなお兄さんは労働という名の地獄に早く行っちゃえばいいんだよ! 地獄の特急券! 一名様ご案内! たらりら、たらりっと!」
「あああ、もう、うっせええなぁ! いいか、なるべく早く帰ってくるから、無理はするなよ? ゆっくり休んでていいからな?」
「くすっ、優しい口調。お兄さんってば素直じゃないんだから~~くすくす、可愛いなぁ。ねぇねぇ、私がおにいさんのこと可愛がってあげようか? あっ、ちょっと、期待しちゃった?」
三矢は小悪魔的な笑みを浮かべ、そこには無邪気さと子供のくせに色気、妖艶さが含まれていた……なんか、手玉に取られている感じだ……こ、こいつあと数年経ったら手が付けられなくなるんじゃねぇか?
「ああああ、俺は行くからな! いいか、知らないやつが来ても出るなよ!」
「くすくす、わかってるよ。行ってらっしゃい」
「たく……」
俺は悪態をつきながら家を出た。
……言葉とは裏腹に心はさほどイラついていない。それどころか「行ってらっしゃい」という言葉に嬉しさを感じる。
親を事故で亡くした俺にとっては、久しく、何十年も聞いていない言葉だ……それに懐かしさと、暖かさを感じた。
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