第9話 喧嘩はダメです、お姉ちゃん悲しいしです。


 俺は大きめのリュックを持ったあかりちゃんを家に入れた。


「……え、えっと……あかりちゃんはなんでここに……」


 俺は真っ白になる頭で何とか言葉を絞り出した。

 いきなりAV女優の喘ぎ声を聞かされて、混乱しているのはあかりちゃんも同じらしく、瞳を右往左往させながら、苦笑いをしている。


「え、えへへ……ちょっと、用事がありまして……そ、それよりも雪城さん! 雪城ちゃんはまだ高校生なんですからエッチなビデオを見せるのはめっです!」


「いや……あのAV事件はこいつが勝手に見ただけです。俺は何も悪くないです。ふっ、思春期の馬鹿の暴走を俺は止めることができなかったんです……」


「えっ? そうなんですか? ご、ごめんなさい、てっきり私は雪城さんが雪城ちゃんに無理やりエッチなビデオ見せて困らせているのかと思いました……」


「…………」


 俺ってJK相手にそんな鬼畜な所業をすると思われていたのだろうか……なんかショック。と、思ったが……この状況じゃ仕方ないか。


 正直逆の立場なら俺もそう思う……はぁ、まあなんにせよ妙な誤解は解けた……と、安心していると。


「違うよ!! お兄さんが私に無理やりAVを見せて来たんだもん! 私は嫌だと言ったのに『こういうことを覚えてすぐできるようにしろ!』って無理やり……およよよよよ」


「このクソガキ、適当なこと言ってるんじゃぇよ!!」


「…………雪城さん、お姉さんに正直に話して下さい。お姉ちゃんは嘘つきと、無理やりエッチなことをする子は嫌いです」


「い、いや、違うんだ! そ、そうだ、10秒だけ三矢と話させてください!」


「わかりました……うぅ、お姉ちゃんは悲しいです。昔はいい子だったのに……」


 こ、この人はなんで俺の姉になった気でいるのだろうか……いや、こんな可愛いお姉ちゃんが居たらとても幸せだと思う……思うのだが、そして贅沢な悩みな気がするが、今は若干うざい。


「はぁぁ、三矢、こっち来い……」


 俺は三矢の首根っこを掴んで、あかりちゃんに内緒話が聞こえない程度の距離を取る。当然三矢は暴れてキッと俺のことをにらみつける。


「もう私はレディなんだよ! 丁重に扱ってよねぇ~~~ふんだ」


「…………」


 さてこのくそ生意気なガキをどう調理しようか……。

 まあ、今はあかりちゃんの誤解を解くのが先決だ。そのためにはこいつに自白させる必要がある……うむ、こいつ普段プライドは低そうだけど、今みたいに意固地になってると手ごわいな。


「それで何? お兄さんがどうしてもって言うなら、話しぐらいは聞いてあげてもいいけどね~。あー私って優しいなぁ、お兄さんのセクハラを無償で許してあげようとするなんてねぇ~もう女神じゃない?」


「…………」


 いやもうこのクソガキを本当に調教するのもありなんじゃないか? 多少乱暴に扱って問題を起こしてもクズ親族が己の保身のためにもみ消すだろうしな……あー、ダークサイドに落ちてもいい気がしてきた。

 

 ちょっと面白い調教を考えよう。


「…………あっ」


 と、そんなことを考えていると、俺の雰囲気から危険を察知したのか、三矢が慌てて、口を挟んできた。


「……お、お兄さん、力技に訴えるのはよくないと思うけどねぇ~。だ、だって、いくら私がお兄さん大好きだと言っても、許せないことはあるのですよ? ここは話し合い! は・な・し・あ・い! ヽ(^o^)丿!」


「…………話し合いを放棄して、テロを起こそうとしたやつが何を言ってやがる」


『……喧嘩ですか? お姉ちゃん、本気で怒るよ? 怒っちゃうよ? 仲良くね?』


 喧嘩腰で三矢にい返そうとしていたら、ジト目であかりちゃんがいつもの数倍低い声で呟く……。なんか普段はぽわぽわしている分、怒らせるとめっちゃ恐そうだ……


 気温が3度は下がった気がした……ここがドラゴンボール世界だったら生きるのを諦めている。


 うむ、今ここで一番怒らせてはいけないのはあかりちゃんだ……!(なぜ?)


「わ、私とお兄ちゃんはめっちゃ仲良いいよ? もうねぇ~?」


「そ、そうだな! 俺たち仲良し!」


 俺と三矢はさっきまでの険悪な雰囲気が嘘のように互いに肩を組む。

 さすがは雪城のクズの血。

 強いものにはこびへつらえ! を実践している。


 うむ……俺たち仲良し! 家族の絆!


「そうなんですね。うんうん、お姉ちゃん誤解してました!」


 ぱああああっと、笑顔になるあかりちゃんに安堵の息を漏らして、俺と三矢を見てうなづく。どうやら危機は去ったようだ……。


「それで、あかりちゃんはどうしてここに……?」


「あっ! そうでした! お姉ちゃん、ご飯をいっぱい作ってきました……迷惑でしたか?」


「えっ!? ご飯ですか? 迷惑ではないんですけど……」


 ぶっちゃけ嬉しいが……『なんで?』という気持ちが大きい……。


「むっ、お兄さん!」


 その時、三矢が組んでいた腕をさっと振りほどく。頬を膨らませて不機嫌そうだ。


「私という女が居ながら、別の女をかこっているんですか? 最低だねぇ~~~ふぅ~~~~~~んん」


「えっ? よくわからないけど、今の状況俺が悪いの……? まあ……悪くてもいいや。あかりちゃんの手料理が食べられるなら!」


「かああああ! これだからお兄さんは! モテないんだよ!」


「お前今言っちゃいけないこと言ったな! このクソガキが!」


「はぁぁぁ!? 私はお兄さんのためにエッチなーー」


『えへへ、また喧嘩ですか……? お姉ちゃん、悲しいなぁ』


「…………す、すみません」


「…………ごめんなさい」


 貴女が元凶ですよね? とはいえず頭を下げる俺たち……ま、まあ、あかりちゃんの手料理が食べられるなら俺は満足だ。うん。

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