第8話 真剣に真面目に鑑賞会です。

 昼過ぎ……。

 俺はのそりのそりとベッドから起き上がる。


 ぼーっとした頭で部屋にある壁掛け時計を見る……16時過ぎ――。


「…………」


 人間とは強欲な生き物だ……さっきまで死ぬほど寝たいと思っていたのに、いざ寝すぎると死ぬほど後悔している自分が居る。


「はぁぁぁぁ、さて……飯でも食うか……」


 とか、考えていると部屋の隅でヘッドホンをしてパソコンとにらめっこしている三矢が目につく。ここからじゃパソコンの画面は見えないが……やたら真剣だ。


「……………」


 あーそう言えばパソコンは自由に使っていいって言ったな……ヘッドホンも。どうでもいいけど、美少女が自分の私物を使ってくれると嬉しいな。ヘッドホンとか身に着けるものは特に……流石に変態すぎだな。


「……いかん、いかん。成り行きが強いとはいえ、そんなことを考えるものじゃない」


 現状結婚していることは全力で横に置いておくとして……。


「…………はぁ」


 うーん、あいつにもパソコンを買ってやった方がいいか……? スマホは持ってるみたいだけど、今の時代は必要なもんだしな……。


 あっ、スマホ……俺の口座に引き落としにしないと。それからあいつの高校の手続きとかも色々あるな。


(あれ……寝てる場合じゃなくね? 女の子が住むんだから、もっと気を遣わないといけないんじゃね? ま、まあ、明日から頑張ればいいだろ。明日、大学の授業は午前中だけだし、三矢を連れて買い物でも行くか……いろいろ必要なものもあるだろう)


 と、のんびり考えていたが、とあることに気が付く。


「…………」


(ん? あいつ顔赤くないか? 耳まで真っ赤だ……もしかして風邪でも引いてるのか? それなら病院に連れて行かないと……体温計どこにしまったっけ?)


「おい、三矢、お前体調悪いのか?」


「……………」


 声をかけるが、三矢はヘッドホンのせいでこちらに気が付いておらず、

 そんなことを思い、俺は立ち上がって三矢の元向かう。


「おい、お前何を見て――」


「……あっ、ああああ! お兄さん!?」


 俺が三矢の背後に立つと、三矢は恥ずかしがるようにパソコンの画面を覆いかぶさるように隠す。あ、あれ? 俺が見てはいけないものを調べていたのか? まずった?


 と、一瞬焦るが、その瞬間、三矢がしていたヘッドホンがパソコンから外れて……。


『あんんんんんん!!!!! いぐううううううううううううううううううう!!!』


 大音量の女の喘ぎ声が部屋の中に響き渡たった。しかもマニアックなSMもの……。

 ちなみにパソコンの画面には俺のお気に入りのお姉さまは鞭で叩いてバイブで昇天していた……。


 そして――。


『ピンポーン』


 このタイミングで家の呼び鈴が鳴る。

 最悪のタイミングだ……このマンションは防音に優れているが、この音量で、さらにの玄関そばの窓開いてる……ドアの外までお姉さまの声が聞こえたかもしれない……。


 そして……もはや悟りの境地をひらいて無表情な俺と、わたわたしてテンパりまくっている三矢の視線が合う。


「……………」


「……………」


「ド変態が」


「いきなりそれはひどくない!? あ、ああ、マジでドン引きしてる顔はやめてよ! そもそも、私はお兄さんのために――。」


『あ、あの、えへへへ、雪城さん、雪城ちゃん……』


 その時、廊下に隣接している小窓から苦笑いをして、わたわたしているあかりちゃんが顔をのぞかせる。そこで、俺の頭の中はまっしろになる。


『お、お姉ちゃんは、え、エッチなのはよくないと思います』


 いまだに喘ぎ声を漏らしている俺のパソコンをチラチラと盗み見ながら、遠慮がちにそんなことを言うあかりちゃん……。

 えっ? 何でここにいるの?


 タイミングは最悪だし……それに。


「あーあ、お兄さんの趣味があかりちゃんにバレちゃったねぇ~。私、しーらないっと。ふんだ、よかったね。可愛い子が家に訪ねて来て」


 とりあえず、他人事のように『やれやれだぜ』と肩をすくめて、何故か不貞腐れてる三矢をぶっばしたくなった。

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