気がついたらJKと結婚していました……

第20話 お肉とお金と面倒ごとですよ。

　そんなこんなで俺と三矢は近場のファミレスにやってきた。三矢は終始上機嫌で席に座ると同時に楽しそうに俺にも見えるようにメニューを開く。

　まるで年頃の女の子がテーマパークに来た時のようなはしゃぎようだ。

「ふふ～ん、何にしよっかなぁ～～。ねぇねぇ、お兄さん、お兄さん、たくさん頼んでシェアしようよ！　そうすれば種類食べられるし」

「ん？　ああ、いいぞ。ただし、野菜はそんないらんぞ」

「あったりまえじゃん！　外食に来て、草を食べるなんて信じられないよ。人間数ある生物の中でもあらゆる肉を食べる最強の生物だよ。お肉を食べないと！　それが食物連鎖の頂点に立つ人間の義務だよねぇ～」

「……お前、いろんな人を敵に回してない？」

「敵を増やしたいわけじゃないけど、私は大切な人たちが傍にいればいいからねぇ……あっ、もしかして、お兄さんはお肉が好きな女は嫌い？　なら、私は草しか食べません」

「アホ、極端すぎるわ。好きなように頼め」

「そうですか！　それじゃあ、アレやっちゃうね！」

「アレ……？」

「メニューを端から持ってこい！　ってやつ、一度やってみたかったんだぁ。店員さーん」

「馬鹿！　ヤメロ！」

　冗談だとは思うが、こいつなら本当にやりかねないという謎の恐さがある。

「くすっ、冗談だよ。じょーだん、くすっ、ざーこ、ざーこなお兄さんは本気にしちゃった？」

「……こ、このクソガキが。ま、まあ、いい俺も大人だ。ガキのたわ言に付き合ってやる必要は――」

「お兄さんが大人って……童貞なのに大人なの？」

「てめぇ！　いいのか、ここから先は戦争だぞ！？　まずは離婚届を出して……」

「ご、ごめんなさい、謝るから、それだけは許して！　お、お兄さん、このハワイアンハンバーグなんて美味しそうじゃない？」

「たくっ……好きだから、お前の好きに頼め」

「いえっさー。店員さん～～！」

　三矢は上機嫌でやってきた店員に注文をする。

　はぁ、こいつはすぐ調子に乗るな……将来、それが原因で破滅しなけりゃいいけどな。まあ、自頭はいいみたいだから、簡単にだまされる心配とかはなさそうだけど。

　俺の方が誰かに騙されそう……さっきの如月さんとか。

（そうだ。さっき会った如月さんのことを相談してみるか）

　俺は注文をおえた三矢に話しかける。

「なぁ、お前、如月って知ってるか？」

「ん？　あーママの旧姓なんだよね～。なんでもお金持ちの家らしいんだけど、結婚する際に絶縁になったんだって。だから、殆ど事情は知らないんだけど……如月の人に会ったこともないし。でも、それがどうかしたの？」

　三矢は俺の質問にさらっと答える。その表情は若干面倒そうではあるものの、どうやらこの話題は不快ではないらしく、あっけらかんと答えた。

　俺は安堵しつつ話を進める。

「いや、さっき如月望っていう女が会いに来てな」

　俺は如月さんから貰った名刺を三矢に渡す。

「……うーん、心当たりはないけど……なんか言ってた？」

「ああ……なんでも『１ヶ月以内に俺と三矢がトラブルに巻き込まれるから、その時は力になる』ってさ」

　俺の話を聞くと三矢は心底面倒そうに息を吐き、申し訳なさそうに俺を見る。

「はぁぁ、ごめんなさい、お兄さん。私のママの家系ちょっと『普通じゃない』らしいんだよね。だからその言葉は少し面倒かけるかも」

「え？　ふ、普通じゃないって言うと？」

「日本を代表するレベルの財閥なんだけど……ほら、そういうところって汚いことたくさんするじゃん？　あ、あはは、小さい頃からママに『犯罪者よりも如月家に注意しろ』ってずっと言われてたなぁ」

「…………」

　それやばくね？

　いやいや、家の親族も悪徳大地主だったり、悪徳政治家だったり、悪徳医者だったりするから、大概だけど……それよりやばい匂いがするんだけど。

　俺が頭を抱えていると、三矢が苦笑いをもらす。

「あ、あれ？　お兄さんひいちゃった？　あ、ああ……ある意味いい機会かなぁ。面倒ごとはまとめてきた方がダメージ少ないって言うしねぇ～」

　三矢は周りを見渡す。

　平日の昼間ということで昼休み中の会社員などで客は多いが、俺たちの席は奥まったところにある為、テーブルが見えず、誰もこちらに注目している様子はない。

　そんな中、三矢はバックから封筒を取り出して、俺の前に渡す。封筒は紙が一枚しか入っていないような薄さだ。

「本当は家で渡そうと思ってたんだけど……というか、渡すべきなんだろうけど、ま、こういうことはサクッと済ませるのが吉だからね～。これあげる」

「…………」

　何だろう……とても嫌な予感がするが……ああ、この手の面倒ごとは放置すると悪化する場合があるからなぁ……。

　俺は意を決して、封筒を手に取り、中身を取り出すと、そこには開かれた通帳が入っていた。

　そこの預金残高を見て思わずその場で立ち上がる。

「こ、これって、１、十、ひゃ、百、は、はぁぁぁっぁぁ！？　８千万！？」

「しぃぃぃぃぃ！　お兄さん声大きいって！！」

　いや慌てるだろ！？　大学生にぽんっと渡していい金額っじゃねぇ！！　な、なにこれ！？　なにこれ！？　宝くじ当たったの！？

　と、内心慌てまくっていると――

『アボカドハンバーグと鳥のバター焼き、サーロインステーキをお持ちしました！！　あと、ご注文いただいた取り皿です！』　

　店員が料理を持って現れ、三矢は引きつった笑いを見せる。

「わ、わー、美味しそうだね。お兄さん、私が取り分けてあげるね！　わ、私、お肉を切り分けるの得意なんだぁ……うん、でも慌てるお兄さんは、可愛いかも」

「……………」

　こ、こいつ、ここがファミレスじゃなかったら、騒ぎ散らかしてるところだ。

　ま、まあ、今は飯もきたし、それに集中するか……け、決して現実逃避をしているわけではない……。