気がついたらJKと結婚していました……
シマアザラシ
第1話 始まりの個室トラブル
ちょっと不幸を呼び寄せてしまう平凡な大学生4年の俺、雪城翔(ゆきしろしょう)は、人生最大と言ってもいいピンチを迎えていた。
「こ、この状況は一体……」
「くすくす、さあ? 何でしょう?」
場所は『葬式場』の男子トイレの個室……そこには俺と、何故か制服を着た中学生ぐらいの美少女がいた。
ポニーテールにあどけない顔なのに、パーツが整っていてまるで作り物みたいだ。小柄で細身だが、胸だけは大きい……ハイスペックな女の子だ。
だが、そのハイスペックな容姿を打ち消すぐらいの、悪魔的でドSな笑みを浮かべて、便器に腰かける俺の膝の上に足を開いて乗っている。
ぶっちゃけ傍から見ると騎乗位をしてるみたいだ……。
(お、おかしい……なんだこの状況は。俺は事故で亡くなった従兄とその奥さんの葬式に来ただけなのに……何で俺は『その娘』とトイレの個室にいるんだ? い、いや、突然やってきたこいつに無理やり押し込められただけなんだけど……)
「…………」
こいつ……『両親を亡くしてる』から、なんか自暴自棄になってるのか?
俺は『ある理由』から一族のはみ出し者で、この子と会うのは初めてだ……そんな男とトイレの個室に入るか? ありえねぇ……AVでももっとマシな演出をするぞ。
ここは大人な俺が説得をしないとな。
「おい、ちょっと落ち着きたまえ。話をしよう」
「くすっ、ねぇ? お兄さん、個室で2人っきりだね? くすっ、ドキドキしちゃう? 興奮しちゃう? ロリコンのお・兄・さ・ん」
「なっ、べ、別に俺はロリコンじゃ――」
「くすくす、違う、違う。お兄さんは『今から』ロリコンになるんだよ?」
「それってどういう……」
「私がここで『助けて!! 変態にトイレに連れ込まれたあああ!!!』 とか、叫んだらどうなると思う? ねぇ、どうなると思う?」
「…………」
俺は混乱した頭で思考する。答えはあっさり出る。
「俺は真なるロリコンになるな。そして間違いなく、捕まりますね。多分誰も俺のことは信じてくれない…………」
俺の人生が詰むの!?!?!?!?!?!?
というか、こいつ……両親が死んだあとなのに、なんでこんな楽しそうなんだよ! やっぱ自暴自棄か!?
「くすっ、わかってるね。お兄さんの社会的な殺生与奪は私が握ってる。そして――」
少女は悪戯っぽい笑みを消して、急に泣きそうな顔をする……な、何? こいつ情緒不安定なの……?
とか、思ってると、急にスマホを取り出して、制服を捲し上げて下着を露出させ、白い胸を見せながら、動画を撮り始めた。
「や、やめて!! な、なんでそんなにひどいことをするの!? い、いや!!」
「!?!?!?!?!?!?」
少女は小声でそんなことを叫びながら、動画を回し続け……5秒ほど撮ったら、またニヤニヤとした笑顔を見せる。
あっ、はめられた……!!! 証拠をでっち上げられた!?
「こ、この! スマホをよこせ!」
「あっ、騒いだりしたまずいんじゃないの? あと私のスマホに触ったら、本当に叫ぶからね? くすっ、お兄さんは私の言うことを聞いてくれれば全て解決するよ?」
「お、俺を脅すのか?」
「いやだなぁ。少し、お願いを聞いてもらうだけだってばぁ~くすくす」
「いや、もう誰がどう見ても完璧に脅してるだろ、クソガキが!」
「おっ、いいねぇ。段々と言葉に遠慮がなくなってきたねぇ。くすくす、お兄さんと仲良くなれたなぁ。私も言おう。ざぁーこ、ざぁーこ♪」
「…………」
なんか俺だけ慌ててるのが馬鹿らしくなってきたな……いや、脅されてるから、慌てるべきなんだけど。ただの現実逃避だけど……俺って現実逃避得意だし。
「はぁぁぁぁぁ、とりあえず、話は聞いてやる」
「くすくす、ねぇ、お兄さん、私ってこのままいくと施設に預けられるか、親戚中をたらいまわしにされるよね?」
「………………」
俺の脳裏にはさっきの親族たちの会話が再生される。
『この子、誰が引き取るんだい! 私は嫌だよ! めんどくさい!』
『俺もだ! まあ、召使いにしてもいいなら、考えないでもないがな!!』
俺の一族、親戚連中は控えめに言ってクズだ……。全員が自分の保身と金、自分の利益のことしか考えないような連中の集まりだ……だから、こいつ言ったことは事実だ。
だって……俺がそれを『経験』してる。
「くすくす、やっぱり「同じ経験」をしている人はいいなぁ。私たちは同類なんだねぇ。答えなくていいや。その顔を見ればわかるからねぇ」
「……うっせぇ、何が同族だ。一緒にするな。俺はこんな破廉恥なことはしねぇよ」
「あっ、お兄さん、もしかして童貞?」
「そういうとこだよ! 言葉には気を付けろや!」
「みんなが集まっている場所はここから離れてるとはいえ、あんまり、騒ぐと人来ちゃうよ? ざぁーこ♪」
「くっ……このメスガキが!」
「? メスガキ? いいねぇ、なんかその響き……私にピッタリ♪」
「変なところで喜ぶなよ……お前、感性死んでないか? はぁぁぁっぁぁ」
ため息しか出ない。なんだこの状況は……はぁぁぁ、『従兄』には『借り』があるから、葬式に来たけど、線香だけ上げてさっさと帰ればよかった。
「ねぇお兄さん……」
その時、少女は笑みを消して真剣に俺の瞳を見つめる。さっきまでのお茶らけた態度が嘘のようだ……少女の瞳に濁りはなく、確固たる決意を感じさせた。
「私を『引き取って』。私の望はそれだけ」
「待て、普通に嫌だ。面倒ごとの匂いしかしない。それに俺は学生である意味、天涯孤独の身だ……無理があるだろ」
「それでも……私は引き取られるか施設に行くなら『同類』に引き取られたい」
「…………」
思うところはある……だって彼女状況は10年前の俺と『同じだ』。リスクがないのならばすぐに助けるだろう……。
「無理だ。あの世間体を無駄に気にするクズな親族を説得できるとは思えない……それこそ金でも積まない限りはな……金を積まない限り……」
俺は自分に言い聞かせるようにそう言う。
「…………」
そこから言葉は続かない。
頭では自分の『資産』を計算している自分が居る。
「くすっ……お兄さんって素敵な人だねぇ」
少女は小さく何かを呟いて、再び小悪魔的な笑みを浮かべながら、スマホを見せつけてくる。
「くすっ、お兄さんに選択肢はないよ? だって、断ったら、牢屋の中への特急券をゲットしちゃうんだもん。答えは……決まってるでしょ?」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、今週はマジでついてない。痴漢冤罪巻き込まれて示談金を請求されて、さらには内定をもらっている会社からそれが理由で、内定取り消し、さらには家の隣にはヤクザが越してきたし……」
「えっ? 不幸過ぎない? 大丈夫? 可哀そう、頭なでなでしてあげるね」
やめい、優しくするな! お前も不幸の一旦だわ。
「……わかった。親族は俺が黙らす。金は……まあ、『切り札』を使うわ」
「えっ……本当に……?」
「ああ……」
「…………」
少女は呆けたように黙ってしまう……なんか、「信じられない、マジかこいつ、馬鹿か?」みたいな顔で見られても困るんだけど……。
まったく……脅したけど、そこまで本気じゃなかったってことか……いや、俺が従わなかったら、従わなかったで普通に諦めるつもりだったんだろう。大した演技派だ。
「さて……そうと決まったら」
俺がこいつを引き取る理由は脅されているというのも大きい……だが、それよりも『同類』のガキを助けたくなった。
「おい、ガキ、名前は?」
「え、えっ? 雪城三矢(ゆきしろみや)……」
これが俺と……ガキとの最悪で一生忘れられない出会いだった。
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