第2話 ようこそ我が家へ

 それから数時間後の夕方6時。今は4月なので、まだ辛うじて明るい。


 俺は電車を乗り継いで、我が家に帰ってきた。


 副都心の駅から10分ほど歩いた何の変哲もないマンションだ。1ルームだが、部屋は12畳あり、かなり広めだと思う。さらには俺が通う大学まで自転車10分だ。


 この条件で家賃4万は神。紹介してくれた友達には頭が上がらない。


「はぁぁぁぁ、やっと帰ってきた」


「………………」


 部屋に入る。俺の後ろにはちょっと探るような、緊張したような、前の小悪魔的な笑みが嘘のような、三矢がいた。

 こいつ……なんか借りて来た猫みたいだな……。


「おい」


「ひゃ、ひゃい! な、何……?」


「いや、やけに緊張してるから、どうしたのかと……」


「こ、この程度で私が動揺するとでも? く、くすくす……誰を見て言っているのかね。身の程をわきまえたまえよ」


「嘘つけ、キャラぶれっぶれじゃねぇか」


「だ、だって!!」


 三矢は目の端に涙を溜めながら俺に詰め寄ってくる。な、なんか、一気に歳相応になったな……これはこれで可愛げがあるが、今はそんなことを言ってられない雰囲気だ。


「あ、あんな雑な脅しで本当に引き取ってくれると馬鹿でアホで間抜けで雑魚な人が地球に生息してのうのうと息をして生きてるとは思わないじゃん!!」


「お前俺のこと馬鹿にし過ぎだろ!?」


「いや、褒めてるよ!? 三矢の人生史上、2位にダブルスコアを付けてぶっちぎりで褒めてるよ!? 馬鹿で雑魚と思ってる!!」


「うそーん……」


「お兄さん……私、今真面目な話をしてるの!! 真剣に聞いて!!」


「…………ご、ごめんなさい」


 えっ? 今の俺が悪いの? 今こいつの方が、ボケを挟みまくってなかったか? くっ、俺には子供が考えることはわからない……。


「おほん、お兄さん、本当に私を引き取ってくれるの? いいんですか? 私、本当にここを夢のマイホームだと思っちゃうよ?」


「おい、トイレでくっそ脅しておいて、今更謙虚だな……まあな、お前が嫌だったら、あれだけど」


 ……正直、こいつに内緒でクズ親戚たちにそれなりの『代価』を支払ったので、ここで断られると困るんだけど……まあ、その時はその時か。


「ぶっちゃけ、男の1人暮らしに来るなら、施設の方が安全な気がするが……というかお前のことを考えたら、行くべきだな。俺少しいたことあるけど案外悪くないぞ?」


 別に俺に子供を襲う趣味はないので、その心配はないのだが。年上お姉さん大好き。


「むぅ、今更そんなこと言わないでよ。施設にも行きたくないし、歓迎されてない親戚にもお世話になりたくないから、脅したのに。そんな優しいこと言われたら、私だけ悪いみたいじゃん!」


「いや、お前だけが悪いだろ。今日1日の行動を思い返してみろやボケ」


「うん、自覚はしてる」


「…………」


 こいつ意外と図太いな……無駄に可愛いのが逆にうざい。

 まあ、子供は図々しいぐらいが丁度いいだろう。めっちゃ気を使われても嫌だしな。


「よし、細かい話は飯を食いながらにするか。何が食いたい?」


「うーん……そうだねぇ。お兄さんの好きな物が食べてみたい!」


「変なことに興味あるんだな……そうか? なら……」


 俺は『とある店』が思いつく。まあ子供を連れていっていいか大分謎な店だけど……まあ、いいだろ。駄目だったら断られると思うし。


 そう思いつき俺はまだ緊張している三矢を連れて家を出た。

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