第3話 行きつけのお店に2人で。

 それから数十分後――。

 俺はある場所に三矢を連れて行った。


 それは――駅前にある270円均一の居酒屋だ。店内は会社帰りのサラリーマンやサークルの集まりのような大学生の客が大勢いた。


「わっ、こういうところ初めてきたぁ。結構活気あるんだ、へぇ~~!!」


「………………」


 今日はいろいろあって、下げ善据え膳で安く酒が飲みたいから来たけど……ここに中学生を連れてきてもよかったのか? 一応、私服に着替えさせたけど……はぁ、注意されたら、ファミレスとかに移動しよう。


 ファミレスで飲むと、ここよりも高くつくんだよな……今日『大金』を失ったから、なるべく節約したい……まあ、それなら自炊しろよって感じだが。


「あっ、いらっしゃいませ。常連さん」


 店に入ってすぐ元気な声が聞こえてくる。この店のバイトあり、常連客の癒し、あかりちゃんだ。ボッチで寂しく1人飲みしてる俺にも話しかけてくれる女神だ。


 歳は俺よりも少し下ぐらいかな? 丁度20歳ぐらいで、愛嬌があり、優しく、真面目に労働に取り組む頑張り屋さんだ。


「あっ、今日は可愛い子連れてますね。妹さんですか?」


「まあ、そんな所です。こいつ店に入れても大丈夫です?」


「ぜんぜんおっけ~です。断るところもあるみたいですけど、うちはお酒さえ飲まなければいいですよ~。そこは常連さんを信用してますから」


「そ、そうっすか。なら、2人で……」


「はい~! かしこまりっです~。席用意してくるんでちょっと待っててくださいね~」


 そう言って、あかりちゃんは店の奥にかけていった……うん、明るくて可愛いんだけど、ボッチ陰キャの俺としては戸惑う。

 陽キャの連中はナチュラルにナンパをするんだろうか……すげぇ。


 と……謎の思考回路におちいっていると、三矢が俺のシャツの裾をくいっくいっとひっぱってくる。


「じぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」


 三矢を見ると何かを言いたげに、ちょっと不機嫌そうにジト目でこちらを見てくる。


「な、なんだよ? やっぱり居酒屋は嫌だったか? それとも妹扱いが気にくわなかったか?」


「いや、それは全然。大事なのは……お兄さん、お兄さんは白馬の王子様であるということを自覚してないよねぇ?」


「はっ?」


 こいつもしかして悲しみで頭ばぐったか?


「お兄さんは私というヒロインを、悪の親族から助けてくれたヒーローなんだよ? もう、それはどん底からかっこよくロマンチックに。それが……何? その日のうちに他の女の人にデレデレしちゃってさあ、自覚あるわけぇ?」


「いや、『俺、白馬の王子様の自覚あるんだぜ』とか言うやつやべぇだろ」


「そんな正論聞きたくないです~あーあ、私って所詮二番目の女なんだ~スペアなんだ。ショックだねぇ~しくしく、悲しいなぁ。泣いちゃうなぁ、しくしく」


「…………」


 わざとらしく、ウソ泣きするようなしぐさをするクソガキ……チラチラこっち見るんじゃねぇよ。


「おい、何をよくわからん思考でお花畑ピクニックをしてるかは知らんが……あかりちゃんとはそういう関係じゃないぞ? あかりちゃんは誰でも優しいし、俺なんかクソ底辺に話しかけてくる女神だぞ?」


「お兄さん……何でいきなり自傷し始めたの? そういうの聞かされる身としてはとても辛いんだけど……うわあああ……」


「お前が仕掛けた戦争だろうが! 何で勝手にドン引きしてるんだよ! それに普通に考えろ、あそこまで親しみを込めて俺に話しかけてくるのは仕事だからだ。人間は仕事という免罪符を手に入れると普段では絶対にしない行動をすることがある……裏では「うっわ、あの陰キャ、また来やがったよ。けっ!」とか言ってる――」


『うぅぅぅぅ。常連さん、そんな風に思ってたんですか~? 私は本当に常連さんのことを心から……およよ』


 振り向くと、両手の掌で顔を隠して悲しんでいるあかりちゃんがいた。


「もしかして……僕何かやっちゃいました?」


「お兄さん、なろう系の主人公になってないで、この場を収めてよねぇ~。あーあ、なーかした、なーかーした。空気悪ーい」


「だからお前が始めた戦争だろうが! お前も俺と一緒に土下座しろ!」


「ええええええ! って……まあ、いいけどねぇ。プライドはお金にも得にもならないんで。一定のラインを越えなければ常に大安売りだから」


「おお、いい理解だ。それでこそ雪城の血筋だ」


「ふふふっ、仲がいいですね。席が用意できたので、こっちにお願いします♪ 土下座はしなでくださいね?」


「あ、は、はい……」


 あ、あれ……嘘泣きだった?


「そうそう常連さん、常連さんって雪城さんって言うんですね。えへへ、名前聞けて得しちゃいました♪」


「…………」


「あーあ、これだから素人童貞は……単純なんだから。どうせ、「この子は俺のことを……」とか、キモい妄想してるんだなぁ。幻滅だねぇ」


 三矢さん、滅多ことを言うものではありません……!! っと、説教したいところだが……あかりちゃんが可愛いからいいや。

 ああ……勘違いもしたくなる。今日の出来事が浄化されて行くようだ……。


「…………」


(はぁ、現実逃避してないで、真面目に今後のことを考えないとな……中学生の子供を引き取るって大事だし……)


 この時……俺は『とある勘違い』ずっとしていた……。そう……この時の俺は三矢の年齢を聞いておらず……想像で決めつけていたのである……それが後に大ごとにもなるとも知らずに。

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