第4話 始めて女を連れ込みました。
◇◇◇
次の日――。
俺は頭の痛みと腹部の重みで目を覚ました。俺は何故かベッドのすぐ隣の床で毛布をかぶって寝ていた……。
「………………くっ、ここは」
吐き気と頭痛が同時に押し寄せてきて、軽く死にたくなる……ああ、この感じは二日酔いか……? くっ、俺どれだけ飲んだんだよ……結構酒は強いつもりでいたけど気のせいだったな……。
えっと……昨日は……。
『あーやっと起きたぁ。もうお兄さんは本当に雑魚なんだからぁ。ざーこ、ざーこ、ざーこお兄さん、くすっ、もうっ世話が焼けるんだから』
(う、うん? なんか罵倒が聞こえる……聞き覚えのある声な気がするけど……なんだ?)
俺は寝ぼけた頭で周りを見渡すと……俺の腹に馬乗りになっている馬鹿と目が合う……三矢は可愛らしいピンクのパジャマ姿だ。
「…………お前何してんの?」
「可愛い妹ごっこ」
「………今時の女子中学生ではそんな遊びが流行ってるのか………って思ったけど、お前が頭おかしいだけか……」
「ああ!! 酷い! せっかく起こしてあげたのに!! それに私は――」
「ああ、騒ぐな、頭に響く……うぅ」
「まあ、あれだけ飲めばね……あ、あははは……私、お兄さんが3本目のワインを開けてから数えるのやめたもん」
「どうりで……頭が痛い訳だ。ワイン3本以上はやり過ぎだ……おい、あんまり覚えてないんだけど、俺ちゃんと金払ったか?」
「うん、ちゃんと自分の足で帰ってきたよ! お兄さんって、お酒強いんだね。テンションが少し上がっただけで、飲み方は綺麗だったし。まあ、『アクシデント』はあったけどねぇ」
「ん? アクシデント……?」
なんだそれ……うっすら覚えてるような、覚えてないような……。
『うぅぅぅぅ、うるさいですぅぅぅぅぅぅ』
その時、俺が寝ている横のベッドから女の人の不機嫌そうな声が聞こえて来た。
「…………えっ???????」
俺の頭に?が7つぐらい浮かんでくる。何で……女の人の声が聞こえたんだ? ホラー? ホラーですか?
俺の腹の上で馬乗りになっている三矢と目が合うと、小悪魔的な笑みを浮かべる。
「くすくすっ、お兄さんもやりますねぇ~私を引き取ったその日に他の女を連れ込むとか、どれだけクズなんですかねぇ~、変態ざーこ」
「…………!!」
「きゃ! お、お兄さん」
俺はカバっと腹筋をするように上半身を起こす。その拍子に三矢とキスできる位置まで顔が近づくが……今はそれよりも気にしなければならないことがある。
それは……。
『むにゃむにゃ……えへへ、そんな大胆です……えへへへ、きゃあああ……』
俺のベッド寝ているあかりちゃんだ……。
ちなみにあかりちゃんは何故か俺のワイシャツを着ており、それ以外は下着しか付けていない……なので、パンツがめっちゃ見えている。
「どういうこと?????????」
「くすくす、お兄さんが連れ込んだよ。覚えてない? って、か、顔近いねぇ……きゃああとか、叫んだほうが、い、いや、これぐらいで動じるのも、安い女な気が……」
俺の目の前で顔を赤くしながら、ブツブツと何かを呟いている三矢……い、いや、テンパるのは後にしてくれ。
あ……だんだん思い出してきた。
う、うーん、なんか仕事終わりのあかりちゃんを三矢と一緒にナンパして、ここに連れ込んだような……。
「…………」
ここは素面の三矢に確認しなくてはならない。
「……三矢、俺って童貞だよな?」
「いや……私に聞かれても困る。てか、『女子高生』に何聞いてるの?」
「だよな……ああ、でも一線は越えてない気がする……」
うん、何であかりちゃんが半裸で俺のベッドで寝ているのかは謎だけど。
ま、まあ、記憶の糸を辿ると……あかりちゃんも結構ノリノリだった気がするし、無理やり連れ込んだわけではなさそう。
「………………」
ん? 待て……三矢のやつなんて言った?
「誰が女子校生だって……?」
「ん? 私」
「…………お前いくつなの?」
「今年で17歳」
「…………あれ? お前中学1年じゃないの?」
「あー、くすくすっ、やっぱり勘違いしてたんだぁ。今頃気が付くなんて可愛い。くすくすっ、そうじゃないかとは思ってたけどねぇ~。ねぇねぇ、ざーこ、お兄さん」
三矢は抱きつくように俺の首に両手を回し、顔を俺の右耳に近づけ、甘く囁くように口を開く。
「私、16だから……引き取るんじゃなくて、結婚しちゃう? あっ、『もうしちゃってるんだっけ』。くすくす」
「………………」
俺は無理やり親戚連中から、三矢を引き取った時のことを思い出した。親戚のお偉いさんのクソ野郎が確か――。
『金は確かに受け取った。お前の好きにしろ。三矢から詳細は聞いている。ただし、親戚とは言え、男が三矢を引き取ると問題が起こるのが面倒だ。根回しをして『手続き』は勝手にこちらでしておく。いいな』
てっきり、三矢が養子縁組のことを根回したのかと思ってた。俺を脅すぐらいだし、それぐらいは不思議じゃないと……。
「……………あ、あ」
手続きって、養子縁組ではなく……もしかして……。
「これからよろしくね。ダーリン♪」
「………………あ、頭いてぇぇぇぇぇっぇぇ!?!?!?!?!? 何でそうなるの!?」
「まあまあ、落ち着きたまえ。養子縁組も結婚も似たようなもんじゃん」
「お前の頭はお花畑だな!? どういう思考回路してりゃ、そんなエジソンもびっくりな答えに辿りつくの!?」
「いや、流石に死者は驚かせられないよ? 人間は過去には遡れないのです」
「マジレスはいらん!!!! なんでお前はこんなに冷静なの!? まさかお前最初から――」
『もうぅぅぅぅぅ、うるさいですよぉぉぉぉぉぉ!!!』
その時、あかりちゃんが目をこすりながら、身体を起こして、不機嫌そうにこちらを見る……そして数秒見つめあう形になり……あかりちゃんはきょとんした表情で首をかしげる。
そしてその顔はやがて苦笑いに変わる。
「じょ、常連さん。あ、ああ……おはようございます! 清々しくも、いい朝ですね♪」
もうなんか滲み出るやけくそ感……。
「あ、ああ……おはようございます」
「うんうん、そうだね、そうだね。いい朝だよねぇ」
「…………」
何? この状況は……?
「…………」
腹減ったなぁ……今日は何食べよう。
もう俺にできることは……必殺の現実逃避だけだった。
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