第18話 美しい花には棘があります。

   ◇◇◇


 芽以さんが泊まりに来た次の日の朝7時――。

 前日は結局、全員疲れていたのか、あの後少し話して寝てしまった。


 それに関しては男して情けないような、倫理観を守り抜いた俺に拍手を送りたいような微妙な気持ちだ。

 ……ヤッてもいいって言ってる美少女が2人もいるのに熟睡するとかさすが童貞。

 

 俺は仲良く? 2人で俺のベッドで寝息を立てている三矢と芽以さんを置いて大学に行くことにした。


 芽以さんは学校があるらしいが、社長が夜勤明けに家に迎えに行くと言っていたので、放置して大丈夫だろう。まあ、社長と初対面の三矢の反応が見れないのが残念だ。


「てか……三矢の馬鹿ガキも問題だよなぁ」


 俺は朝早くて誰もいない道でぼやく。これは最近発覚した衝撃の事実なのだが……三矢はなんと先月高校を辞めていた……。本人曰く……。


『ええ? 私が通ってたのって、お嬢様学校なんだよねぇ~。在学しながら、結婚とか不可能なわけさ。そんで、サクッとやめちゃったんだよねぇ。ぶい』


 と、ほざき始めた。

 という訳で我が家にはクソニートが爆誕したわけだ。


「はぁ……このままじゃいけないが……」


 ここでふと頭に過るのは亡くなった俺の従兄弟……三矢の両親ことだ。

 俺は数えるくらいしかあったことはない……まあ、狂った親族の中ですごく真面目な良い人だったので、悲しい気持ちはあるが……三矢は俺の比じゃない悲しみがあるはずだ。

 

 妻どうのこうのは置いておいて、三矢は少し何もしない時間も必要かもな。


「講義終わってから、買い物する約束もしたし、少し様子を見るか」


 俺は自分の心中でそう結論付ける。

 一度引き取った以上中途半端にするつもりはない……だけどなぁ、三矢を引き取る時に俺の『親の遺産』は使っちまったから……就活は多少辛くても初任給のいいところにしないと……大学も奨学金で通ってるんだし……はぁ、問題があり過ぎて頭が痛いんだけど。

 なんだって、次から次へと問題が発生するんだ?


 三矢の件。

 芽以さんの件。

 就活の件。


 どれもただの大学生の俺には手に余る気がする……まあ、元凶は俺が感情のままに三矢を引き取ったのがいけないんだけど……。


「はぁぁぁぁぁ、だってほっとけないだろ……」


『ふふっ、大きなため息ね。福が逃げてしまうわよ?』


 深いため息をついて、大学の校門に到着すると、後ろから可愛らしい声で話しかける。振り向くとそこには……。


「初めまして」


「…………」


 そこにはスーツ姿の140センチほどの美少女が立っていた。全体的にミニだが、妖艶な雰囲気を醸し出しており、色気とただ者ではない雰囲気がある。

 

 顔は整っており、幼いが、その表情に自信が溢れていて、スーツ姿も相まって、歳は20歳前後に見え、さらに左薬指には金の指輪をしている。


(お、幼な妻ってやつか? 目をひく人だな……こんな人は知り合いにいないけど……)


「え、えっと……何か?」


「ふふっ、そんなに緊張しなくていいわよ? 楽にしなさいな。貴方、『翔』さんと『三矢』さんにとっていい話を持ってきたのだから」


「えっ……お、俺と三矢の名前を……?」


「あっ、ごめんなさい。まだ名乗ってなかったわね。わたくしは『如月望』。三矢さんのお母さん……旧姓『如月有佐(きさらぎありさ)』の親戚よ」


「…………」


 如月と名乗った女は穏やかに笑う……う、うーん、三矢のいたずらっぽい笑みと似たような感じだけど、こっちはすごみがある。

 な、なんか、どことなく嫌な予感……また面倒ごとの香りがする。


「ふふっ、初対面の人間の言葉を信じろっていうのも無理かしら? では要件だけ話すわ。恐らく、貴方と三矢さんはある『トラブル』に巻き込まれるわ」


「は、はい?」


 怪しい勧誘か何かか?


「まあ、その時に困ったら、三矢さんと相談してわたくしに連絡してきなさいな。きっと力になれると思うわ。要件はそれだけよ。それでは失礼するわ」


 そう言うと如月さんは俺に……『如月ホールディングス 専務』と書かれているお洒落で高そうな名刺を渡して、その場を去っていった……この名刺金粉ぽいのが使われてるんだけど。


 嵐が過ぎ去ったような感覚……意味がわからない。てか、如月ホールディングスって子供でも知ってるめちゃくちゃデカい会社じゃねぇか。如月……三矢に聞けばわかるか?


「…………」


 怪しいが……名刺なら持ってるだけで爆発したりしないだろ。


『キーコーン、カーンコーン』


 やべっ、1限始まっちまう! 早くしねぇと!

 俺は名刺を財布に入れると、大学に向けて走り出した。

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