第30話 お仕事のお話です。
「お、お兄さん! これめっちゃ美味しいよ!? わ、私、フカヒレとか初めて食べたねぇ……この……ぱっと見は春雨かと思えたけど、春雨にはない触感に口の中で溶けるような感覚に、繊維1つ1つに濃厚なソースがえっと、えっと、次から好きな食べ物を聞かれたら、私! フカヒレって答えるよ!」
「はっ!? そんなことを言うくそ生意気なガキはどうかと思うが……俺も好きな食べ物はフォアグラって答えるぜ!!!」
俺と三矢は一心不乱に豪華な料理に舌鼓を打っていた。
その様子を同じテーブルの席に着いた如月さんが微笑ましいものを見る目でこちらを伺っている。
ちなみに席順は俺の隣に三矢で正面に如月さんだ。
「ふふっ、貴方たちは美味しそうに食べてくれるわね。ご馳走した甲斐があるというものだわ。さあ、遠慮せずに食べなさいな」
そんなことを言いながら、優雅にワイングラスを傾ける。その姿は有名な絵画の様な雰囲気だ。
……えっと、この人は何でナチュラルにここにいるんだろうか? 口ぶりから、この人がお金出してくれてるの?
そんな俺の疑問は三矢も思うところらしく、どこか取り繕うように、如月さんに視線を向ける。
「……おほん、それでお姉さんはどなたですか? ……お兄さんの浮気相手? ふふふっ、今日は千客万来だねぇ……ちっとも嬉しくないけど」
こっち見んな。
「はぁ、お前は俺の浮気を疑う時、IQが落ちまくるよな……だから、浮気でも何でもねぇよ……というか、お前と俺との間に浮気というものが成立するのか?」
「しますーー! 法的に!」
「…………」
いや、その話しにしても過程をすっ飛ばし過ぎてるから、まるで実感がないんだが……なので浮気とか言われても困る。
「ふふっ、安心していいわよ? わたくし、結婚していて、ふふっ、貴女と一緒で旦那様しか見えないので」
「えっ? そうなの?」
「ええ、むしろ、この手の面倒な自分理論を組み立てる殿方のことに詳しいから、いろいろアドバイスできると思うわよ? いつでもわたくしに相談しなさいな」
「ふ、ふーん、詳しいんだ。私はそんなことにまったく、これっぽっちも、微塵も、一ミクロンも興味ないけどねぇ……後でスマホの番号教えてもらってもいい?」
「ええ、いつでも連絡しなさいな」
「…………」
興味深々じゃねぇか……ああ、変なこと吹き込まれなきゃいいけど……
「はっ!? じゃない! それでお姉さんは誰なんですか?」
「わたくしは如月望」
「あっ……お兄さんが言っていた……ママの……」
「ええ、貴女とは『従妹』の間柄になるわね。貴女のお母さんについては本当に……悲しいわ」
「……はい」
な、なんか重い空気だな……無理もない。
……ここは俺が話を進めた方がよさそうだな。
「従妹って……如月さんは現如月家の重役なんですよね?」
「ええ、当主の娘よ」
待て、ということは三矢の母親は当主の兄妹ってことか……?
「お、お前、実はバリバリのお嬢様だったりするの……?」
「お、お兄さん? 私、ママの実家のことは全然把握してないって言ったじゃん! いきなり会いに来られてもちんぷんかんだよ! 意味わかんないよ! 全部お兄さんのせいだからね!」
「いや、自慢じゃねぇが、俺が一番意味わからないからな? なめんな馬鹿が!」
「ああ! 馬鹿って言った! 馬鹿って言う方がアルティメットシークレット馬鹿なんだよ!?」
俺たちが醜く言い合っていると、如月さんは小さく笑い声を漏らす。嫌味な雰囲気ではなく、純粋に楽しそうだ。
「ふふっ、にぎやかでいいわね……決めたわ。2人とも私の仕事に協力する気はない? 悪いようにしないわよ」
「…………」
「…………」
口喧嘩していた俺たちはピタッと止まり、互いに視線を合わせる。
『……ぜ、絶対面倒ごとだ……』
と、互いの心の声が重なった気がした……。
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