第48話 ラノベは最強です。
「雪城? 知らない名前だねぇ? なんの事か全くわからないし、いきなり来られても困るよ」
月子は殺し屋のような迫力を持つ雷蔵を前にしても、平常心ですっとぼけて答える。
「ふん、妙な駆け引きはなしにしてもらいたいのう。こちらは時間がない……なるべくなら手早く穏便に済ませたいのじゃ。そうすれば被害は少なく済む。そこのお嬢さんを巻き込みたくはないじゃろ?」
「……それはご苦労様。はぁ、雪城っていうのは聞いた以上に面倒な連中みたいだね」
「そうさな……あんたらが『雪城翔』を隠すのならば、我らはあんたの言う面倒な連中になるのであろうな……」
「そう……なら、そうなるわね。東村を義を何よりも優先する……あんたらに差し出す気はない」
(こ、これって……ど、どういうこと!? 目の前にいる外国の人って……その物騒な人なのかしら?)
月子に雷蔵そして外国人たち……この中でただ一人の一般人芽以を除いた者たちは現状を重く受け止め、互いに言葉で牽制をしあっていた。
何も事情を聞かされていない芽以にとっては訳の分からない会話だ……だが、一つだけわかることがある……この人たちは『翔の敵』であるということだ。
「さて……いつまでも、こうして話している時間はないんじゃ。今やつの『血』の争奪戦が起こっておる……こちらとしても想定外じゃ……まさか奴の『血』が『天血』じゃとはな……我ら雪城は勿論……『4大名家』である如月、田中……そして、例の戦争屋の『立花』もやつの血を欲しておるんでな……」
「……ふん、知らないものは知らないよ。仮に知っていても……あたしゃ、可愛い娘の『弟』をあんたらに渡すほどくさちゃいないんでね……あたしゃ、あの子の弟を生んだ記憶はないけどね」
月子はそう言い放つ。
その瞳には迷いはなく。何かを決意したような色をしていた。
「時間の無駄なじゃな……」
そんな月子に対して有効な取引ができないと判断したのか、ゆっくりと手を上げて、連れてきている個人たちに支持を飛ばす。
「強引に『雪城翔』を探せ。抵抗するようなら、痛めつけてもかまわん……じゃが……奴の血は無駄にするな。まずは如月望を人質にとれ。数持ちである血刀とデスサイズはこれである程度無力化できる。むしろうまくいけば血刀にデスサイズをぶつけられる」
「イエス、ボス」
黒人たちは雷蔵の言葉に頷くと、すぐに行動に移そうとしている。何も状況を理解していない芽以だが……これだけは理解していた……。
愛しの旦那である翔が最大級のピンチであることに……
「……待ちなさい」
そう思いつくと、自分の身の安全よりも愛しの人の身の安全の方が優先になり、気が付いたら口を開いていた。
黒人と雷蔵が芽以の方を見た。その瞬間心臓が止まりそうなほどの緊張が走る……
(わ、私、何言おうとしてるの? 馬鹿じゃないの? 明らかに黙ってた方が良いでしょ!?)
この場で言葉を発することがどんなに愚かは頭ではわかっている……筋骨隆々の黒人にマフィアの幹部のような老人……一歩間違えば自分の発言で月子と自分は命を落とすかもしれない……そんな危機感が頭の中をめぐる。
(わ、私だけならともかく、おば様も巻き込んでしまう……)
だが……声を上げた芽以を月子は興味深そうに見て、ニヤリと笑い、大きく頷いた。
「かっかか、女は度胸! こいつらに言いたいことを言ってやりなさい!」
その言葉で救われた気がした。
(そうだ……愛する男がピンチなのに動けないんて、そんな女に私はなりたくない……そんなことじゃ、『雪城三矢』に勝てないし、翔さんに振り向いてもらう資格はない……!)
芽以は深く深呼吸をして、雷蔵を見据える。
「雪城翔を探したいのならいい方法があるわ」
(頭を働かせろ。今こそラノベを読み漁ってきた成果を出すべきなんじゃない!)
「何……?」
「この私、飯田芽以と一緒にいることね。雪城翔は妻である私のことを必ず助けに来るわ。暗黒騎士に囚われた姫君を助ける勇者の如くね……」
「なるほど……お嬢さんを人質にすれば如月を出し抜けると……」
「……ええ、それなら万が一逃げられても雪城翔はここに戻ってくる」
(……人質になった方が迷惑になるか? いいえ、実力行使に出られる方がだめだ……話を聞く限り数持ち? ていうやつがこちらには3人も居る……数持ちなんていったららのべだと人知を超えた最強の存在でしょ! なら時間経過で得をするのはこちらの筈……人質ができたということを考えても翔さんが有利になるは筈! ……多分!)
すがる様に月子を見ると……月子は満足そうに腕を組んで軽くうなづいている。そして雷蔵も頷く。
「よかろう……こちらとしても楽に雪城翔が手に入ればそれでいい。こちらとしてもデスサイズと血刀を同時に敵に回したくはないのでな」
(はぁ……これでよかったみたいね……寿命が縮んだわ)
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